(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年8月3日02時39分
北海道厚岸湾大黒島
(北緯42度56.8分 東経144度52.1分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十五大栄丸 |
総トン数 |
9.1トン |
登録長 |
12.72メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
264キロワット |
3 事実の経過
第十五大栄丸(以下「大栄丸」という。)は,船体中央部に操舵室を備えた軽合金製漁船で,A受審人(昭和50年10月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか1人が乗り組み,さんま流し網漁の目的で,平成17年8月1日10時00分北海道厚岸漁港を発し,同漁港南西方沖合の漁場に向かった。
A受審人は,15時00分厚岸漁港南西方沖合52海里の漁場に着き,操業を開始してさんま約1トンを漁獲して操業を終え,船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,翌2日22時00分厚岸灯台から206度(真方位,以下同じ。)46.3海里の地点を発進し,厚岸漁港に向け帰途に就いた。
ところで,A受審人は,7月上旬から厚岸漁港を基地としてさんま漁を行っており,7月30日朝に出漁して8月1日早朝に帰港して水揚げ後,船内で5時間ばかり休息して出港したが,それまで5人いた乗組員が2人となったことから,漁場への往復航及び漁場移動時の操船のほか,操業時の諸作業も行い,操業の合間に3回計3時間程休息を取っただけで,睡眠不足のうえ疲労が蓄積している状態であった。
A受審人は,翌々3日01時30分GPSプロッタにより厚岸灯台から207度11.3海里の地点に至ったことを確かめたとき,針路を厚岸湾口の大黒島付近に向く025度に定め,機関を回転数毎分2,000にかけ,10.0ノットの対地速力で自動操舵により進行し,そのころ,疲労が蓄積した状態で,いすに腰掛けて単独で船橋当直に当たっていたが,そのような状態で腰掛けたままでいると,眠気を催して居眠りに陥るおそれがあった。
しかし,A受審人は,間もなく入港するので,まさか居眠りすることはないと思い,居眠り運航にならないよう,いすから立ち上がるなどして,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,いすに腰掛けたままでいるうち,いつしか居眠りに陥った。
大栄丸は,その後,右方に2度ばかり圧流されながら,大黒島南西岸に向首して続航し,02時31分予定転針地点に達したものの,A受審人が居眠りしていてこのことに気付かず,02時39分厚岸灯台から138度150メートルの浅所に,原針路,原速力のまま乗り揚げた。
当時,天候は霧で風力2の南南西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
乗揚の結果,推進器翼及び推進器軸に曲損など,船底外板などに損傷を生じたが,僚船によって引き下ろされ,のち修理された。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,北海道厚岸漁港に向け帰航中,居眠り運航の防止措置が不十分で,転針予定地点で針路が転じられないまま,厚岸湾口の大黒島に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,北海道厚岸漁港に向け帰航中,疲労が蓄積した状態で,単独で船橋当直に当たる場合,そのような状態でいすに腰掛けたままでいると眠気を催しやすいから,立ち上がるなどして居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし,同受審人は,間もなく入港するので,まさか居眠りすることはないと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,いすに腰掛けたまま居眠りに陥って転針予定地点に気付かず,大黒島に向首進行して浅所への乗揚を招き,推進器翼及び推進器軸に曲損など,船底外板などに損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。