(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年4月4日13時15分
山口県宇部港沖合
(北緯33度58.0分 東経131度02.4分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船新生 |
貨物船大洋丸 |
総トン数 |
199トン |
199トン |
全長 |
57.44メートル |
56.01メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
588キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 新生
新生は,平成7年3月に進水し,船尾に船橋を有する平甲板型鋼製貨物船で,船首部及び船橋にマストが設けられ,船橋内に主機遠隔操縦装置,自動操舵装置,レーダー2台,GPSプロッター,モーターホーン及び測深儀等が装備され,主として鋼材の運送に従事していた。
イ 大洋丸
大洋丸は,昭和63年2月に進水し,船尾に船橋を有する平甲板型鋼製貨物船で,船首部及び船橋にマストが設けられ,船橋内に主機遠隔操縦装置,自動操舵装置,レーダー2台,GPS,エアーホーン及びVHF等が装備され,主として瀬戸内海内諸港間で石炭灰,鋼材等の運送に従事していた。
3 事実の経過
新生は,A受審人,B受審人ほか1人が乗り組み,鋼材742トンを載せ,船首2.6メートル(m)船尾4.0mの喫水をもって,平成17年4月4日12時05分山口県小野田港を発し,名古屋港に向かう途上,徳山下松港に寄せて飲料水を補給することとした。
A受審人は,出航操船ののち,単独の船橋当直に就き,12時31分小野田港第1号灯浮標及び同第2号灯浮標間を通過後南東進し,12時38分本山灯標から294度(真方位,以下同じ。)5.5海里の地点において,針路を120度に定め,機関を全速力前進にかけて10.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,3海里レンジとしたレーダー1台を使用していたがアルパを作動しないまま,GPSプロッター画面に5m及び10mの各等深線を表示し,自動操舵によって進行した。
12時55分A受審人は,本山灯標から287度2.7海里の地点に至ったとき,左舷船首59度1.65海里のところに大洋丸を初認し,その後衝突のおそれがある態勢で接近することを知り,12時58分宇部港第2号灯浮標を右舷正横約50mに見て航過したころ,B受審人が昇橋したので,本山灯標南方の水深5m以下の海域(以下「浅瀬」という。)に入らないよう,同灯標を0.5海里離すことを指示したものの,針路を明示しないまま交替した。
船橋当直に就いたB受審人は,13時00分本山灯標から280度1.77海里の地点において,同灯標を0.5海里離すよう118度に針路を転じたとき,大洋丸が左舷船首66度1.14海里となり,その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることを知り,また,海図及びGPSプロッターにコースラインが引かれていなかったものの,徳山下松港に入航した経験があり,本山灯標沖から同港沖の野島に向く080度前後に針路を転じる予定としていた。
一方,A受審人は,給水会社に電話連絡などをしながら在橋していたが,大洋丸との衝突のおそれが解消するまで在橋せず,13時05分降橋した。
13時08分半少し過ぎB受審人は,本山灯標から224度1,050mの地点に至ったとき,大洋丸が徐々に左転を始めたことによって衝突のおそれが解消したので,自船もそれに合わせるように左転を始め,13時11分同灯標から179度780mの地点に達し,針路を088度に転じたとき,大洋丸が左舷船首41度100mのところとなり,同船を追い越し衝突のおそれがある態勢で接近することとなったが,自船が直進すれば大洋丸が避けるものと思い,右転するなど,同船を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けないまま,同じ針路及び速力で進行した。
13時12分B受審人は,大洋丸からの汽笛を聞き,C受審人からの右転を要請する手振りを見たが,依然,同船の進路を避けないまま続航し,13時13分少し過ぎ互いに船橋同士が正横となったとき,両船の向い合う外板間が距離約10mとなり,徐々に大洋丸の前方に出るとともに外板間が更に接近する状況で続航した。
その後,B受審人は,自船の中央部が大洋丸の船首と並ぶころから吸引及び回頭モーメントなどの相互作用が働くようになり,13時15分少し前左舷後方間近に同船の球状船首を認めたがどうすることもできず,新生は,13時15分本山灯標から119度1,500mの地点において,070度に向首したとき,原速力のまま,その左舷船尾部に大洋丸の正船首部が後方から35度の角度をもって衝突した。
当時,天候は晴で風力3の南西風が吹き,潮候は上げ潮の初期で,付近海域にほとんど潮流はなかった。
A受審人は,自室にいて衝撃を感じ,急ぎ昇橋して事後の措置に当たった。
また,大洋丸は,C受審人ほか2人が乗り組み,空倉のまま,同日11時40分山口県宇部港宇部セメントバースを離岸し,12時05分本山灯標から330度3.3海里の同港内に錨泊して補油後,12時40分揚錨し,船首0.65m船尾2.85mの喫水をもって,同港を発し,水島港に向かった。
12時55分C受審人は,本山灯標から325度1.95海里の地点において,機関を全速力前進にかけて9.5ノットの速力で,針路を155度に定めたとき,右舷船首86度1.65海里のところに新生を初認し,その後衝突のおそれがある態勢で接近していることを知り,レーダーを作動しないまま,本山灯標を左舷前方に見て自動操舵によって進行した。
13時08分少し過ぎC受審人は,本山灯標を左舷正横600mに見て浅瀬を航行することとなり,13時08分半少し過ぎ同灯標から229度620mの地点に至り,手動操舵に切り換え,左舵小角度と舵中央を繰り返しながら徐々に左転を始めたので新生との衝突のおそれが解消し,13時11分同灯標から175度730mの地点に達し,針路を090度に転じたとき,同船が右舷船尾43度100mのところに存在し,追い越され衝突のおそれのある態勢で接近することとなった。
C受審人は,新生に避航の動作が見られなかったので,13時12分警告信号を行い,右舷ウイングに出て手振りで右転するよう要請したものの,浅瀬の内側を通るような左転はできず,更に接近していたが,警告信号を行って右転するよう手振りで要請したから,新生が右転するだろうと思い,減速するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航中,大洋丸は,新生との間に相互作用が働くようになり,105度に向首したとき,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,新生は,左舷船尾端の外板及びブルワークに圧損等を生じ,大洋丸は,球状船首に凹損及び船首材に破口等を生じたが,のち,いずれも修理された。
(航法の適用)
宇部港港内を南南東進する大洋丸,同港南西港界線付近を東南東進する新生の両船が,衝突のおそれがある態勢で接近していたが,大洋丸が左転したことによって衝突のおそれが解消されたので,この間の見合い関係に航法を適用するまでもない。
前示の衝突のおそれが解消されたのち,両船ともに針路を東に転じたところ,大洋丸の右舷船尾43度の位置から新生が追い越す態勢となり,その後両船が進行して本件衝突に至ったのであり,海上交通安全法が適用される海域であるが,同法に本件を適用する航法規定がないので,海上衝突予防法第13条追越し船の航法で律するのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 新生
(1)A受審人が,B受審人へ針路を明示せず,大洋丸と衝突のおそれが解消するまで在橋しなかったこと
(2)B受審人が,自船が直進すれば大洋丸が避けるものと思い,確実に同船を追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったこと
2 大洋丸
C受審人が,警告信号を行い,右転するよう手振りで要請したから,新生が右転するだろうと思い,衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
3 両船
両船間に吸引及び回頭モーメントなどの相互作用が働いたこと
4 環境
本山灯標南方が浅瀬となっていたこと
(原因の考察)
本件は,両船が追越し態勢になってから,追い越す新生が,確実に大洋丸を追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けていれば,両船間に吸引及び回頭モーメントなどの相互作用が働くことを回避でき,発生しなかったものと認められる。
したがって,B受審人が,自船が直進すれば大洋丸が避けるものと思い,確実に同船を追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
追い越される大洋丸が,新生に避航の動作が見られなかったのであるから,衝突を避けるための協力動作をとっておれば,本件発生を防止できたものと認められる。
したがって,C受審人が,警告信号を行い,右転するよう手振りで要請したから,新生が右転するだろうと思い,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
A受審人が,B受審人へ針路を明示せず,大洋丸との衝突のおそれが解消するまで在橋しなかったことは,本件発生に関与した事実であるが,B受審人自ら針路選定や避航動作の判断ができる資格及び能力があったのであるから,相当な因果関係があったとは認められない。しかしながら,このことは海難防止の観点から,是正すべき事項である。
本山灯標南方が浅瀬であったことは,本件発生に関与した事実であるが,航海者はこのことを十分配慮して航海せねばならない事項であり,原因とならない。
(海難の原因)
本件衝突は,山口県宇部港沖合において,東航する大洋丸を追い越す新生が,確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが,大洋丸が,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は,宇部港沖合において,左舷前方を東航する大洋丸を追い越す場合,両船間に相互作用が働かないよう,確実に同船を追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けるべき注意義務があった。ところが,同人は,自船が直進すれば大洋丸は避けるものと思い,確実に同船を追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けなかった職務上の過失により,同じ針路及び速力で進行して同船との衝突を招き,新生の左舷船尾端の外板及びブルワークに圧損等を,大洋丸の球状船首に凹損及び船首材に破口等を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は,宇部港沖合において,追い越す新生に避航の動作が見られない場合,衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。ところが,同人は,警告信号を行い,右転するよう手振りで要請したから,新生が右転するだろうと思い,減速するなど衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により,同じ針路及び速力で進行して同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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