(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年5月31日05時50分
島根県三隅港
(北緯34度47.6分 東経131度55.7分)
2 船舶の要目
船種船名 |
瀬渡船辰丸 |
漁船義丸 |
総トン数 |
4.1トン |
0.71トン |
登録長 |
11.15メートル |
3.91メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
213キロワット |
7キロワット |
3 事実の経過
辰丸は,専ら瀬渡業に従事する,船体中央から少し後方に操舵室を有するFRP製小型兼用船で,A受審人(昭和50年3月小型船舶操縦士免許(現一級・特殊小型船舶操縦士及び特定操縦免許)取得)が1人で乗り組み,釣客1人を乗せ,瀬渡しの目的で,船首0.2メートル船尾0.8メートルの喫水をもって,平成17年5月31日05時45分島根県三隅港内の古湊漁港を発し,三隅港の北防波堤に向かった。
A受審人は,操舵室中央に備えた舵輪後方に立って見張りにあたり,三隅港内を北上し,05時48分半島根県三隅港東防波堤灯台から241度(真方位,以下同じ。)80メートルの地点で,針路を北防波堤の先端から100メートルばかり内側の目的の瀬渡し場に向く002度に定め,機関を回転数毎分2,000にかけて10.0ノットの対地速力で,手動操舵により進行した。
定針したときA受審人は,正船首320メートルのところに義丸を視認でき,ほとんど移動しないことから漂泊中とわかり,その後同船に衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めうる状況であったが,操舵室入り口後方の船尾甲板に座らせた釣客の方に振り向いて,釣りの話をすることに熱中し,周囲の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かなかった。
こうして,A受審人は,義丸を避けることなく,05時49分少し前から機関回転数を徐々に減じながら続航中,05時50分島根県三隅港北防波堤灯台から200度200メートルの地点において,辰丸は,原針路のまま,3.0ノットの対地速力で,その右舷船首部が,義丸の右舷船首部に前方から10度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力2の南風が吹き,潮候は上げ潮の中央期にあたり,視界は良好で,日出時刻は05時00分であった。
また,義丸は,船外機を備えた伝馬船型のFRP製漁船で,B受審人(昭和51年6月小型船舶操縦士免許(現二級及び特殊小型船舶操縦士免許)取得)が1人で乗り組み,一本釣り漁の目的で,船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって,同日05時30分三隅港内の三隅川右岸の係留地を発し,同港北防波堤付近の釣場に向かった。
05時40分B受審人は,前示衝突地点付近で機関を停止して漂泊を開始し,救命胴衣を着け,船尾甲板で前方を向いた姿勢で腰をかけ,両舷からそれぞれ1本ずつ竿を出して操業を開始した。
05時48分半B受審人は,船首が172度を向いていたとき,右舷船首10度320メートルのところに辰丸を初めて視認し,その後同船が自船に向け衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めたが,相手船が近くに来れば,漂泊中の自船を避けてくれるものと思い,救命胴衣の笛を吹くなど避航を促す音響信号を行わず,辰丸がさらに間近に接近しても,機関を使用して移動するなど,衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続け,義丸は,172度に向首したまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,辰丸は,右舷船首部に擦過傷を生じたが修理するまでもなく,義丸は,転覆し,船首部に損傷,船外機及び魚群探知器に濡れ損を生じたが,のちそれぞれ修理及び新替された。また,B受審人が,右手打撲,同挫創及び頚部捻挫を負った。
(海難の原因)
本件衝突は,島根県三隅港において,瀬渡しのため同港北防波堤に向けて北上する辰丸が,見張り不十分で,漂泊中の義丸を避けなかったことによって発生したが,義丸が,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,島根県三隅港において,瀬渡しのため同港北防波堤に向けて北上する場合,他船を見落とすことがないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,船尾甲板に座らせた釣客の方に振り向いて,釣りの話をすることに熱中し,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で漂泊中の義丸に気付かず,同船を避けることなく進行して衝突を招き,辰丸の右舷船首部に擦過傷を,義丸を転覆させ,同船の船首部に損傷,船外機及び魚群探知器に濡れ損をそれぞれ生じさせ,B受審人に,右手打撲,同挫創及び頚部捻挫を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,島根県三隅港において,一本釣り漁のため漂泊中,自船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近する辰丸を認めた場合,機関を使用して移動するなど,衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,相手船が近くに来れば,漂泊中の自船を避けてくれるものと思い,衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により,漂泊を続けて同船との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせ,自らが負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。