(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年8月8日06時19分
香川県三本松港沖合
(北緯34度16.5分 東経134度20.1分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船第二十一 三吉丸 |
漁船浜丸 |
総トン数 |
3.2トン |
1.09トン |
登録長 |
11.34メートル |
5.67メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
120キロワット |
30キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 第二十一 三吉丸
第二十一 三吉丸(以下「三吉丸」という。)は,昭和59年5月に進水した,網船2隻及び漁ろう長が乗船する運搬船1隻とともにひき網漁業船団を形成するFRP製の魚群探索漁船で,船体中央の船尾寄りに機関室を,同室の上方に魚群探知機の表示装置を備えた区画を有し,同区画の後壁後面の中央に舵輪,その左舷側に機関のクラッチ及びスロットルの各レバーがそれぞれ設置されていた。
イ 浜丸
浜丸は,昭和52年に進水した刺網漁業などに従事する,汽笛を装備しない全長12メートル未満の船外機付きFRP製漁船であった。
3 事実の経過
三吉丸は,A受審人が1人で乗り組み,しらす漁の目的で,船首0.15メートル船尾0.60メートルの喫水をもって,平成17年8月8日05時00分僚船3隻とともに香川県三本松港を発し,同港北方2,000メートル付近の漁場に向かい,05時20分同漁場に至って魚群の探索を開始した。
A受審人は,05時50分三本松港北西3,000メートル付近の地点で魚群を発見し,網船が投網したあと,同船の前方を魚群探索しながら東行し,その後魚群がいなくなったことから反転することとした。
06時14分A受審人は,三本松港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から357度(真方位,以下同じ。)2,160メートルの地点で,針路を280度に定め,機関を回転数毎分2,000ほどの前進にかけ,8.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
06時16分半A受審人は,右舷船首9度80メートルに前路を左方の三本松港に向かう浜丸を初認し,間もなく同船が左舷方に替わり,同船の後方30メートルばかりを航過し,その後浜丸に対する動静監視を十分に行わずに続航した。
06時17分A受審人は,北防波堤灯台から339.5度2,430メートルの地点に至り,既に同地点から南側約100メートルにかけての海域は網をひき終えたばかりで魚群がいないことから,反転して同海域の更に南側で魚群を探索するため,機関を回転数毎分2,300ほどに上げて速力を10.0ノットに増速するとともに,浜丸に対する動静監視を十分に行わないまま小刻みに左舵を取って旋回を開始した。
06時18分半A受審人は,北防波堤灯台から337.5度2,040メートルの地点に達したとき,魚群探知機の表示装置をのぞき込むように中腰で舵輪後方に立ち,8.0ノットの速力に減じるとともに,舵を中央に戻して針路を071度に転じたところ,左転を続けていたら右舷方へ無難に替わる態勢であった南下中の浜丸が左舷船首33度140メートルとなって接近し,同船に対して新たな衝突のおそれのある態勢を生じさせたが,浜丸が既に前路を航過しているものと思い,魚群探知機の映像監視に気を取られ,依然として同船に対する動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かず,速やかに機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとらずに進行した。
こうして三吉丸は,魚群探索を行いながら続航中,06時19分北防波堤灯台から341度2,040メートルの地点において,原針路原速力のまま,その船首部が浜丸の右舷船尾部に直角に衝突した。
当時,天候は晴で風力1の南寄りの風が吹き,視界は良好で,潮候は低潮時であった。
また,浜丸は,B船長とその妻の2人が乗り組み,前日に入れた刺網を揚げる目的で,船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって,同日04時30分三本松港を発し,同港北北西方2,500メートル付近の漁場に到着して揚網を行い,ひらめなど約30キログラムを漁獲し,06時16分北防波堤灯台から341度2,500メートルの地点で,帰途につくこととして発進した。
発進したとき,B船長は,妻を前部甲板に座らせ,自らは船尾右舷側に腰を下ろし,体をわずかに左舷船首方に向けて左手で船外機のハンドルを握り,針路を北防波堤灯台に向く161度に定め,5.0ノットの速力で進行した。
B船長は,間もなく三吉丸が後方を航過し,その後同船が左に旋回を開始して再び接近する状況となって続航し,06時18分半北防波堤灯台から341度2,110メートルの地点に至ったとき,右舷船首57度140メートルのところに左に小刻みに旋回していた三吉丸が東方に直進を開始し,無難に替わる態勢の自船に対して新たな衝突のおそれのある態勢を生じさせたが,右舷方の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,避航を促す音響信号を行うことも,機関を停止するなど衝突を避けるための措置もとることなく進行した。
こうして浜丸は,原針路原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,三吉丸は,船首下部に擦過傷,舵及び推進器翼に曲損を,浜丸は,右舷船尾部に破口などをそれぞれ生じ,B船長は,骨盤粉砕骨折で出血死した。
(航法の適用)
本件は,香川県三本松港沖合の瀬戸内海において,旋回を終えて東方へ直進を開始した三吉丸と南下中の浜丸とが,互いに進路を横切る態勢で衝突したものであり,衝突地点は海上交通安全法の適用海域であるが,同法には本件に適用する航法規定がないことから,一般法である海上衝突予防法によって律することとなる。
本件において,衝突のおそれのある態勢を生じたのは,三吉丸が旋回を終えて直進を開始した後であり,この時点で両船間の距離及び衝突までの時間がそれぞれ140メートル及び30秒であったことを考慮すると,定型航法を適用する余裕が十分にあったとは認められず,横切り船の航法を適用するのは妥当でない。
したがって本件は,三吉丸が無難に替わる態勢の浜丸に対し,新たな衝突のおそれのある態勢を生じさせ,横切り船の航法が適用できないことから,海上衝突予防法第38条及び第39条の船員の常務をもって律するのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 三吉丸
(1)浜丸が既に前路を航過しているものと思い,魚群探知機の映像監視に気を取られ,同船に対する動静監視を十分に行わなかったこと
(2)無難に替わる態勢の浜丸に対し,新たな衝突のおそれのある態勢を生じさせたこと
(3)衝突を避けるための措置をとらなかったこと
2 浜丸
(1)右舷方の見張りを十分に行っていなかったこと
(2)避航を促す音響信号を行わなかったこと
(3)衝突を避けるための措置をとらなかったこと
(原因の考察)
本件は,三吉丸が,浜丸に対する動静監視を十分に行っていれば,無難に替わる態勢の浜丸に対し,新たな衝突のおそれのある態勢を生じさせることも,また同態勢となったことに気付き,同船との衝突を避けるための措置をとることができたものと認められる。
したがって,A受審人が,浜丸に対する動静監視が不十分で,無難に替わる態勢の浜丸に対し,新たな衝突のおそれのある態勢を生じさせたばかりか,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
一方,浜丸が,右舷方の見張りを十分に行っていれば,新たな衝突のおそれのある態勢で接近する三吉丸を視認することができ,衝突を避けるための措置をとって本件発生を防止できたものと認められる。また,避航を促す音響信号を行っていれば,三吉丸が新たな衝突のおそれのある態勢となって浜丸に接近していることに気付き,衝突を避けるための措置をとることが可能であり,本件発生を防止できたものと認められる。
したがって,B船長が,右舷方の見張りを十分に行わず,避航を促す音響信号を行うことも,衝突を避けるための措置もとらなかったことは,本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件衝突は,香川県三本松港沖合において,三吉丸が,西行中,左舷方に替わる南下中の浜丸を認めたのち,左舵をとって反転し,東行して魚群探索を行う際,同船に対する動静監視不十分で,無難に替わる態勢の浜丸に対し,新たな衝突のおそれのある態勢を生じさせたばかりか,衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが,浜丸が,見張り不十分で,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,香川県三本松港沖合において,西行中,左舷方に替わる南下中の浜丸を認めたのち,左舵をとって反転し,東行して魚群探索を行う場合,同船との衝突のおそれの有無を判断できるよう,浜丸に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,魚群探知機の映像監視に気を取られ,浜丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,無難に替わる態勢の同船に対し,新たな衝突のおそれのある態勢を生じさせたことに気付かず,速やかに停止するなど衝突を避けるための措置をとらないまま進行して浜丸との衝突を招き,三吉丸の船首下部に擦過傷,舵及び推進器翼に曲損を,浜丸の右舷船尾部に破口などをそれぞれ生じさせるとともに,B船長を骨盤粉砕骨折により出血死させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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