(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年5月31日19時49分
瀬戸内海伊予灘
(北緯33度49.3分 東経132度30.5分)
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第二十三浪速丸 |
漁船伊予丸 |
総トン数 |
1,331トン |
4.8トン |
全長 |
70.98メートル |
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登録長 |
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11.98メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
2,206キロワット |
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漁船法馬力数 |
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15 |
3 事実の経過
第二十三浪速丸(以下「浪速丸」という。)は,平成15年9月に進水した鋼製油送船で,A受審人ほか8人が乗り組み,ガソリンなど2,840キロリットルを積載し,船首4.7メートル船尾5.4メートルの喫水をもって,平成17年5月31日13時05分岡山県水島港を発し,福岡県博多港に向かった。
A受審人は,19時42分由利島灯台から174度(真方位,以下同じ。)1,300メートルの地点で,単独の船橋当直に就き,航行中の動力船の掲げる灯火のほか,海上交通安全法に規定された危険物積載船が掲げる灯火を表示し,伊予灘推薦航路線の北側を,針路を同航路線にほぼ沿う240度に定め,13.0ノットの対地速力で,自動操舵により進行した。
19時45分A受審人は,由利島灯台から206度1.1海里の地点に達したとき,正船首1,600メートルのところに伊予丸の掲げる緑灯及び甲板を照らす作業灯の灯光を認め得る状況であったが,当直に就いたとき,一瞥して他船の灯火を認めなかったことから,前路に支障となる他船はいないものと思い,操舵室左舷後部の海図台に赴き,航海計画表などを見るなどして,見張りを十分に行わなかったので,前路で停留している伊予丸に気付かず,その後,同船に衝突のおそれがある態勢で接近し,伊予丸を避けずに続航した。
A受審人は,その後も見張りを十分に行わず,伊予丸を避けることなく進行中,19時49分由利島灯台から221度1.9海里の地点において,浪速丸は,原針路原速力で,その船首部が伊予丸の船尾部に後方から平行に衝突した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は高潮期にあたり,視界は良好で日没時刻は19時15分であった。
また,伊予丸は,昭和62年7月に進水し,汽笛不装備の全長12メートルを超えた,小型機船底びき網漁業に従事する木製漁船で,平成16年3月に二級小型船舶操縦士免許証(5トン限定)の交付を受けたB受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.20メートル船尾1.35メートルの喫水をもって,平成17年5月31日07時00分愛媛県郡中港を発し,由利島南方沖合3海里付近の漁場に向かった。
B受審人は,08時ごろ漁場に至って操業を開始し,昼間に数回ひき網を行ったのち,やがて日没となったが,航行中の動力船が掲げる灯火を表示することなく,緑色全周灯及び甲板上を照らす5個の作業灯を点灯して操業を続けた。
19時42分B受審人は,前示衝突地点付近でひき網を終え,機関を中立運転として船首を南西に向け,停留状態で,250メートルほど延ばしたひき綱を巻き込んで揚網を開始した。
19時45分B受審人は,船首を223度に向けて揚網していたとき,左舷船尾17度1,600メートルのところに,浪速丸の掲げる白1灯及び他の灯火を初認したが,同船が接近することとなっても,停留中の自船を避けてくれるものと思い,浪速丸の動静監視を十分に行わず,その後,同船の灯火に方位変化がなく,浪速丸が自船に向首し,衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,避航を促す音響信号を行うことも,機関を使用して衝突を避けるための措置をとることもなく停留した。
こうしてB受審人は,停留中,19時49分少し前,ふと船尾方を見て,間近に迫る浪速丸の掲げる灯火を認め,衝突の危険を感じて機関を前進にかけて右舵をとったものの,及ばず,伊予丸は,船首が240度を向き,わずかな前進速力で,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,浪速丸は,右舷船首部に擦過傷を,伊予丸は,船尾ブルワークが倒壊するなどの損傷をそれぞれ生じた。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,瀬戸内海の伊予灘において,浪速丸が,見張り不十分で,前路で停留中の伊予丸を避けなかったことによって発生したが,伊予丸が,動静監視不十分で,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,瀬戸内海の伊予灘において,単独の船橋当直に就き,西行する場合,前路の他船を見落とすことのないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,一瞥して他船の灯火を認めなかったことから,前路に支障となる他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で停留中の伊予丸の存在及び同船に向首し,衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,伊予丸を避けずに進行して衝突を招き,浪速丸の右舷船首部に擦過傷を,伊予丸の船尾ブルワークを倒壊させるなどの損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,夜間,瀬戸内海の伊予灘において停留中,船尾方に浪速丸の掲げる白1灯及び他の灯火を認めた場合,その後,衝突のおそれの有無を確認できるよう,同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,浪速丸が接近することとなっても,同船が停留中の自船を避けてくれるものと思い,浪速丸の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船が自船に向首し,衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,避航を促す音響信号を行うことも,衝突を避けるための措置をとることもなく,停留を続けて衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。