(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年4月17日08時10分
島根県恵曇港北西方沖合
(北緯35度32.4分 東経132度56.9分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第七興祥丸 |
モーターボートオリエント |
総トン数 |
19トン |
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全長 |
24.00メートル |
6.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
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40キロワット |
漁船法馬力数 |
190 |
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3 事実の経過
第七興祥丸(以下「興祥丸」という。)は,船体中央部に操舵室を有するFRP製漁船で,A受審人(平成7年2月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか2人が乗り組み,イカ釣り漁の目的で,船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成17年4月16日13時30分鳥取県境港を発し,19時ごろ島根県沖合の漁場に到着して操業を行った後,翌17日04時ごろ同漁場を発進し,水揚げのため恵曇港に向かった。
A受審人は,漁場発進時から単独で船橋当直に就き,操舵室内中央に立って見張りにあたり,07時24分恵曇港北沖防波堤灯台(以下「北沖防波堤灯台」という。)から313度(真方位,以下同じ。)8.5海里の地点で,針路を133度に定め,機関を全速力前進にかけて9.5ノットの対地速力で,自動操舵により進行した。
08時06分半少し過ぎA受審人は,北沖防波堤灯台から312度1.74海里の地点に差し掛かったとき,正船首方1,000メートルのところにオリエントを視認することができたが,前方を一瞥して他船を見掛けなかったことから,前路に航行の妨げとなる他船はいないものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかったので,オリエントの存在に気付かなかった。
08時09分A受審人は,北沖防波堤灯台から311度1.35海里の地点に達したとき,オリエントの方位が変わらず,距離が300メートルとなり,同船が移動しないことや風上に向いていることなどから錨泊していることがわかり,オリエントに衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが,依然周囲の見張りが不十分でこのことに気付かず,同船を避けずに続航し,08時10分北沖防波堤灯台から311度1.20海里の地点において,興祥丸は,原針路,原速力のまま,その船首部がオリエントの右舷中央部に,直角に衝突した。
A受審人は,異常を感じて一旦機関を停止し,周囲を見回したが,オリエントを認めることができなかったので衝突したことに気付かず,航海を再開し,帰港後,後続した僚船から衝突の事実を知らされ,事後の措置にあたった。
当時,天候は晴で風力1の南風が吹き,潮候は上げ潮の中央期にあたり,視界は良好であった。
また,オリエントは,船体中央部にキャビンを有し,主及び補助の船外機を備えたFRP製モーターボートで,B受審人(平成13年1月四級小型船舶操縦士免許取得)が船長として単独で乗り組み,釣りの目的で,船首0.1メートル船尾0.8メートルの喫水をもって,同月17日07時40分恵曇港の係留地を発し,同港北西方沖合の釣り場に向かった。
07時50分ごろB受審人は,前示衝突地点に到着し,水深約60メートルの海中に重さ約15キログラムの錨を投じ,合成繊維製錨索を約70メートル延出して船首端のクリートに止め,機関を停止して錨泊し,錨泊中の船舶が掲げる形象物を表示せずに,船尾甲板の右舷側に腰をかけて釣りを開始した。
08時06分半少し過ぎB受審人は,船首が223度に向いていたとき,右舷正横1,000メートルのところに,自船に向かって接近する興祥丸を初認し,その後,その動静を監視していたところ,08時09分同船の方位が変わらず300メートルとなり,衝突のおそれのある態勢で接近することを認め,興祥丸に対し,立ち上がって両手を大きく振り,ライフジャケットの笛を吹鳴して避航を促す音響信号を行ったが,効なく,同受審人が,身の危険を感じて船尾から海中に飛び込んだ直後,オリエントは,223度に向首したまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,興祥丸は船首船底部に擦過傷を生じ,オリエントは左舷側から転覆して,のち廃船処分となった。
(海難の原因)
本件衝突は,島根県恵曇港北西方沖合において,同港に向けて南東進する興祥丸が,見張り不十分で,錨泊中のオリエントを避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,島根県恵曇港北西方沖合において,同港に向けて南東進する場合,他船を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,前方を一瞥して他船を見掛けなかったことから,前路に航行の妨げとなる他船はいないものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で錨泊中のオリエントに気付かず,同船を避けることなく進行して衝突を招き,興祥丸の船首船底部に擦過傷を生じさせ,オリエントを転覆させて,のち廃船処分とさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は,本件発生の原因とならない。