(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年10月6日13時50分
和歌山県和歌山下津港有田区西方沖合
(北緯34度06.1分 東経135度05.1分)
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボートブレーカーズ4 |
モーターボートくりやま2 |
全長 |
7.40メートル |
6.50メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
出力 |
66キロワット |
58キロワット |
3 事実の経過
ブレーカーズ4(以下「ブ号」という。)は,平成7年10月に進水した最大搭載人員10人の船外機付きFRP製モーターボートで,平成10年8月に二級小型船舶操縦士(5トン未満限定)免許を取得し,同15年8月に二級(5トン未満限定)及び特殊小型船舶操縦士免許に更新したA受審人が1人で乗り組み,友人1人を同乗させ,魚釣りの目的で,船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,平成17年10月6日07時00分和歌山下津港下津区の定係地を発航し,同地点北方10海里ばかりの友ケ島付近で釣りを行ったのち,13時00分同港有田区沖合の地ノ島東岸に至って食事をとり,13時30分同地を発して同島西方にある沖ノ島南方沖合の釣場に向かった。
ところで,ブ号は,船体前部に船室を設け,同室上部に風防付のコックピットを配し,同コックピット内の右舷側に,磁気コンパス,GPSプロッター,舵輪,主機遠隔操縦用レバー及び回転計等を装備した操舵コンソールを設けていた。
A受審人は,地ノ島沿いに航行し,13時48分少し前下津沖ノ島灯台(以下「沖ノ島灯台」という。)から121度(真方位,以下同じ。)2,000メートルの地点に達し,機関を停止して釣場の様子を確認したとき,右舷船首30度ばかりの沖ノ島南方沖合に数隻の船が錨泊して釣りを行っているのを視認しただけで,前路に支障となる他船はいないものと思い,船首方の見張りを十分に行わなかったので,254度に向首した正船首方1,000メートルのところで右舷側を見せて錨泊するくりやま2(以下「く号」という。)に気付かず,13時48分前示停止地点を発進して針路を254度に定め,毎時30キロメートルの対地速力とし,く号に向首する態勢となって進行した。
A受審人は,く号に向首して衝突のおそれがある態勢となっていることに気付かず,同船を避けることなく,同一針路,速力で続航し,13時50分沖ノ島灯台から150度1,500メートルの地点において,ブ号の船首が,原針路,原速力のまま,く号の右舷中央部に直角に衝突した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,視界は良好で,潮候は低潮時であった。
また,く号は,平成11年6月に進水した最大搭載人員6人の船外機付きFRP製モーターボートで,同11年2月に四級小型船舶操縦士免許を取得したB受審人が船長として単独で乗り組み,有効な音響による信号を行うことができる手段を講じないまま,釣りの目的で,船首0.25メートル船尾0.50メートルの喫水をもって,同日08時00分和歌山下津港和歌山区の定係地を発航し,同港有田区沖合にある沖ノ島西方の釣場に向かった。
ところで,く号は,船体ほぼ中央部に,GPSプロッター,魚群探知機,舵輪及び主機遠隔操縦用レバー等を装備した操舵コンソールを設け,ステンレス製で重さ10キログラムの錨と直径12ミリメートルの錨索を備えていた。
B受審人は08時40分沖ノ島西方沖合400メートルのところに投錨してしばらく釣りをしたのち,釣場を移動することとして,11時00分同錨地を発進し,11時10分沖ノ島灯台から150度1,500メートルの地点に至り,水深32メートルのところで錨を投じ,錨索50メートルを延出して機関を停止し,黒球を掲げて釣りを始めた。
13時40分B受審人は,釣りを終えて帰航することとし,周囲を見回して接近する他船がいないのを確認したのち,操舵スタンドの船尾方で釣り道具の片付けを開始した。
13時48分B受審人は,344度に向首していたとき,右舷正横1,000メートルのところで,ブ号が自船に向首して発進し,その後衝突のおそれがある態勢となって接近したが,片付けを開始したときに周囲を確認したので大丈夫と思い,下を向いたまま釣り道具の片付けを続けて周囲の見張りを十分に行わなかったので,これに気付かず,さらにブ号が接近しても,機関を始動して移動するなど衝突を避けるための措置をとることなく錨泊を続け,13時50分わずか前,右舷正横目前に迫ったブ号を認めたものの,どうすることもできず,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,ブ号は船首に破口を生じ,く号は右舷外板中央部及び操舵スタンドを破損し,のち,ブ号は修理されたが,く号は修理費を考慮して廃船処理された。
また,A受審人が前額挫創及び左胸部打撲を,B受審人が前額及び左手挫創をそれぞれ負った。
(海難の原因)
本件衝突は,和歌山下津港有田区西方沖合において,釣場に向けて航行中のブ号が,見張り不十分で,前路で錨泊中のく号を避けなかったことによって発生したが,く号が,有効な音響による信号を行うことができる手段を講じず,かつ,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,和歌山下津港有田区西方沖合において,釣場に向けて航行する場合,前路で錨泊中のく号を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,右舷船首方の沖ノ島沖合に数隻の船が錨泊して釣りを行っているのを視認しただけで,前路に支障となる他船はいないものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,く号に向首して衝突のおそれがある態勢となっていることに気付かず,同船を避けることなく進行して衝突を招き,ブ号の船首に破口を生じ,く号の右舷外板中央部及び操舵スタンドを破損させるに至り,自らが前額挫創及び左胸部打撲を負い,B受審人に前額及び左手挫創を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,和歌山下津港有田区沖合において,錨泊して釣りを行う場合,自船に向首して接近するブ号を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,釣り道具の片付けを開始するとき周囲を見回して接近する他船がいないのを確認したので大丈夫と思い,下を向いたまま釣り道具の片付けを続けて周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,自船に向首し,衝突のおそれがある態勢となって接近するブ号に気付かず,機関を始動して移動するなど衝突を避けるための措置をとることなく錨泊を続けて衝突を招き,前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。