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平成18年神審第64号
件名

漁船第5昭与丸防波堤衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年9月22日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(工藤民雄)

副理事官
山本哲也

受審人
A 職名:第5昭与丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第5昭与丸・・・右舷船首部外板に破口,船首ブルワーク等に損傷
防波堤・・・損傷ない

原因
海中転落防止措置不十分

裁決主文

 本件防波堤衝突は,海中転落の防止措置が不十分で,操舵室が無人となったまま防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年9月21日10時25分
 石川県金沢港
 (北緯36度37.3分 東経136度36.0分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船第5昭与丸
総トン数 6.99トン
登録長 11.85メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 496キロワット

3 事実の経過
 第5昭与丸(以下「昭与丸」という。)は,昭和56年8月に進水し,船体中央やや船尾寄りに操舵室を設けたFRP製漁船で,A受審人と甲板員1人が乗り組み,底びき網漁の目的で,船首0.45メートル船尾1.50メートルの喫水をもって,平成17年9月20日23時00分石川県金沢港を発し,同港北西方15海里付近の漁場で操業を行ったのち,かれいなど約50キログラムを獲て,翌21日09時00分同漁場を発進して帰途についた。
 A受審人は,昭和56年から父親が所有する昭与丸に甲板員として乗り始め,同59年9月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したのち,平成2年から昭与丸に船長として乗船し,操業に当たっていた。
 発進後,A受審人は,単独で船橋当直に当たり,針路を金沢港西防波堤北端付近に向首する135度(真方位,以下同じ。)に定め,機関を回転数毎分1,500にかけ,9.0ノット(対地速力,以下同じ。)の速力で,自動操舵により進行した。
 ところで,昭与丸は,上甲板の両舷側が高さ約70センチメートル(以下「センチ」という。)のフレア状のブルワークで囲われ,約18センチ幅のブルワーク頂部から10センチ下方内側のところが全周にわたり,幅約18センチの棚状に張り出し,棚部上の両舷船尾端付近に係留索を係止するためのタツが設置されていた。また,船尾甲板には,引き綱用のロープリール(以下「リール」という。)が右舷側に1台,また左舷側に2台設置され,左舷側リールの舷側に,立った姿勢で腰より少し高い位置となるステンレスパイプ製の保護柵が船首尾方向に設けられていて,同リールと舷側との間隔が10センチ弱で,同保護柵とブルワークとの間の上甲板上は狭く,人が通れなかった。
 10時15分A受審人は,金沢港内に入って金沢港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から020度300メートルの地点に達し,金沢港西防波堤北端を右舷側に0.1海里離して航過したとき,針路を181度に転じ,甲板員を前部甲板に配置して着岸準備に当たらせ,引き続き自動操舵のまま,港奥に向け同防波堤沿いに南下した。
 転針後間もなく,A受審人は,左舷付け接岸に備え,操舵室前部の機関室外上部にコイル状にして置いていた,直径28ミリメートル長さ約20メートルの合成繊維製の船尾用係留索を左舷船尾のタツに掛ける作業を行うこととし,このとき港奥から北西,さらに北方に屈曲して延びる金沢港西防波堤に向首する態勢で進行していたが,短時間で済む慣れた作業であり,まさか海中に転落することはあるまいと思い,クラッチを中立にして漂泊したうえ上甲板上を移動して作業に当たるなど,海中転落の防止措置を十分にとることなく,9.0ノットの速力のまま,サンダル履きで,作業用救命衣も着用せずに操舵室左舷側の出入口から出た。
 そして,A受審人は,船尾用係留索先端アイを右手に持ち,左手で操舵室外左舷側に設けられた手すり,次いでリール保護柵のパイプを掴みながらブルワーク上を船尾方に移動し,同上で左舷船尾部のタツに前示アイを掛け終え,10時17分半操舵室に戻ろうとしたとき足を滑らせ,身体のバランスを崩して左舷側から海中に転落した。
 こうして,昭与丸は,前部の甲板員にもA受審人が落水したことに気づかれないまま,操舵室が無人となった状態で,金沢港西防波堤に向かって進行し,10時25分大野灯台から336度580メートルの地点において,原針路,原速力で,その船首が金沢港西防波堤に衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は低潮時であった。
 その結果,金沢港西防波堤には損傷がなかったが,昭与丸は右舷船首部外板に破口及び船首ブルワークなどに損傷を生じた。また,A受審人は,防波堤衝突を目撃して駆けつけた付近造船所のボートによって発見救助された。

(海難の原因)
 本件防波堤衝突は,漁場から金沢港に向け帰航中,同港内に入り,着岸に備えて船尾用係留索の準備作業に当たる際,海中転落の防止措置が不十分で,操舵室を離れて船尾で同作業を行った船長が海中に転落し,操舵室が無人となったまま金沢港西防波堤に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,漁場から金沢港に向け帰航中,同港内に入り,着岸に備えて船尾用係留索の準備作業に当たる場合,金沢港西防波堤に向首進行中で,海中に転落すると操舵室が無人となって同防波堤に衝突するおそれがあったから,クラッチを中立にして漂泊したうえ上甲板上を移動して作業に当たるなど,海中転落の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,短時間で済む慣れた作業であり,まさか海中に転落することはあるまいと思い,海中転落の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,船尾のブルワーク上で係留索の準備作業を終えたときに足を滑らせ,身体のバランスを崩して海中に転落し,操舵室が無人となったまま金沢港西防波堤に向首進行して同防波堤との衝突を招き,昭与丸の右舷船首部外板に破口及び船首ブルワークなどに損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図





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