(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年6月25日02時05分
東播磨港南西方沖合
(北緯34度42.1分 東経134度46.6分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
引船兵機丸 |
はしけH-111 |
総トン数 |
19トン |
200トン |
全長 |
18.16メートル |
28.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
235キロワット |
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船種船名 |
漁船第十三高須丸 |
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総トン数 |
4.5トン |
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全長 |
14.80メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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漁船法馬力数 |
15 |
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(2)設備及び性能等
ア 兵機丸引船列
(ア)兵機丸
兵機丸は,平成2年9月に進水した,船体中央やや前方に操舵室のある鋼製引船で,操舵室中央に磁気コンパスや舵輪が付いた油圧操舵装置などが,その右舷側に主機制御装置や船灯スイッチ盤などが,左舷側にオートパイロットやGPSプロッター,レーダーディスプレーなどがそれぞれ設置されており,舵輪の後方には操舵席が備えられていた。
操船者が操舵席に座ると,窓枠等で前方視界の一部に死角が生じたが,体を左右に動かせば解消することができた。
灯火設備としては,操舵室後部のマストに黄色回転灯,3連のマスト灯,引船灯,船尾灯が,操舵室両舷外壁に舷灯が,後部甲板に引索を照らすための投光器が,それぞれ設置され,夜間の航行に際してはこれらの灯火が全て点灯されていた。
(イ)H-111
H-111は,鋼製はしけで,後部甲板に居住室が設備されており,その灯火設備としては,船首甲板上に紅色点滅灯が,後部居住室上部のマストに両色灯と船尾灯が,それぞれ設置され,夜間の航行に際してはこれらの灯火が全て点灯されていた。
(ウ)引船列の構成
引船列は,兵機丸の後部甲板の曳航フックにかけた直径50ミリメートル長さ40メートルの化学繊維製ロープを後方に延ばし,H-111の前端のビットにかけ,兵機丸の先端からH-111の後端までの長さが80メートルとなっていた。
イ 第十三高須丸
第十三高須丸(以下「高須丸」という。)は,平成11年6月に進水した,船体中央に操舵室のあるFRP製漁船で,操舵室内前面にマグネットコンパス,オートパイロット,魚群探知機,GPSプロッターなどが設備されていたが,同船の全長が12メートル以上であったものの海上衝突予防法上備えなければならない汽笛は装備されていなかった。
操船者が操舵室を離れて後部甲板で操業や漁獲物の整理作業を行うときは,操舵室などで前方視界に死角が生じたが,左右に移動すれば解消できた。
灯火設備としては,前部マストに両舷灯,漁ろう灯が,操舵室前部に探照灯が,後部マストに緑色回転灯,マスト灯,船尾灯などが設置され,後部甲板を照らすために,操舵室後部などに作業灯3器が,それぞれ設置され,夜間で漁を終えて帰港する際は,漁ろう灯と探照灯以外の灯火が点灯されていた。
3 事実の経過
兵機丸は,A受審人ほか1人が乗り組み,船首0.85メートル船尾2.70メートルの喫水をもって,空船で無人の船首0.20メートル船尾0.80メートルの喫水となったH-111を引き,兵機丸引船列を構成して,前示の灯火を表示し,平成17年6月25日01時00分兵庫県姫路港飾磨区を発し,神戸港に向かった。
A受審人は,01時11分飾磨東防波堤灯台から240度(真方位,以下同じ。)180メートルの地点に達したとき,針路を120度に定め,機関を全速力前進として8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,操舵席に座って自動操舵により進行した。
02時00分A受審人は,東播磨港別府西港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から253度1.8海里の地点に至ったとき,右舷船首24.5度1.3海里のところに,紅灯と緑色回転灯を見せて後部に作業灯を点灯した高須丸を視認することができる状況にあったが,前方を一瞥して支障となる船舶はいないものと思い,見張りを十分に行わなかったので,同船に気付かず,その後,高須丸が前路を左方に横切り,衝突のおそれのある態勢で接近したが,このことに気付かないで,右転するなど同船の進路を避けることなく続航した。
02時05分少し前A受審人は,自船の右舷側至近で緑灯を見せるようになった高須丸が後方に向け航過することに気付いたが,どうすることもできないまま進行中,02時05分西防波堤灯台から236度1.5海里の地点において,兵機丸の引くH-111は,原針路,原速力のまま,その右舷船首部が,高須丸の右舷船首部に前方から16度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で,風はなく,視界は良好であった。
また,高須丸は,B受審人が1人で乗り組み,底引き網漁の目的で,船首0.25メートル船尾2.00メートルの喫水をもって,同月24日16時30分兵庫県東播磨港伊保地区を発し,同港南南東方沖合の漁場に向かった。
B受審人は,17時30分ごろ漁場に達して操業を開始し,翌25日01時40分ごろ操業を終えて漁場を発進し,前示の灯火にして漁網を洗うなどしながら帰途についた。
01時55分B受審人は,西防波堤灯台から201度2.4海里の地点に達したとき,針路を346度に定め,機関を全速力前進の8.7ノットとし,後部甲板にいて自動操舵により進行した。
02時00分,B受審人は,西防波堤灯台から214度1.8海里の地点に至ったとき,左舷船首21.5度1.3海里のところに兵機丸引船列を視認することができる状況にあったが,船尾甲板で始めた漁獲物の整理作業に気をとられ,見張りを十分に行わなかったので,同引船列に気付かず,その後,B受審人は,依然として見張りを十分に行わず,兵機丸引船列が前路を右方に横切り,衝突のおそれのある態勢で接近したが,このことに気付かないで,汽笛不装備で警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航した。
02時05分少し前,B受審人は,右舷至近に兵機丸引船列の引索を認め,左舵一杯をとったものの効なく,原速力のままで船首が316度に向いたとき,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,兵機丸引船列は,H-111の右舷船首外板に凹損を,高須丸は,右舷船首部に破口をそれぞれ生じたが,その後いずれも修理された。
(航法の適用)
本件は,東行する兵機丸引船列と北上する高須丸が互いに進路を横切る態勢で衝突したものである。
兵機丸引船列は,転針などの操船を比較的自由に行うことができるので,海上衝突予防法上のその針路から離れることが著しく制限されている曳航作業のため他の船舶の進路を避けることができない船舶とは言えず,航行中の動力船と認められる。また,高須丸も,すでに漁ろう活動を終了して帰港中であるので,航行中の動力船と認められる。
したがって,同法第15条の横切り船の航法を適用するのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 兵機丸引船列
(1)操舵席に座ると窓枠で前方視界に死角を生じたこと
(2)見張りを十分に行わなかったこと
(3)高須丸の進路を避けなかったこと
2 高須丸
(1)後部甲板からの前方視界に死角を生じたこと
(2)漁獲物の整理に気をとられて見張りを十分に行わなかったこと
(3)汽笛不装備で警告信号を行わなかったこと
(4)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
(原因の考察)
本件は,兵機丸引船列が,見張りを十分に行っておれば,前路を左方に横切り,衝突のおそれのある態勢で接近する高須丸に気付き,高須丸の進路を避け,衝突を回避できたものと認められる。
したがって,A受審人が,見張りを十分に行わなかったことと高須丸の進路を避けなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
兵機丸の操舵席に座ると窓枠で前方視界に死角を生じたことは,A受審人が体を左右に動かせば解消できたのであるから,本件発生の原因とはならない。
一方,高須丸が,見張りを十分に行って,兵機丸引船列の接近を知ることができれば,衝突を避けるための協力動作をとることができ,また,高須丸が汽笛を装備しておれば,兵機丸引船列に自船の存在を知らせて衝突を回避することができたものと認められる。
したがって,B受審人が,見張りを十分に行わなかったこと,汽笛不装備で警告信号を行わなかったこと,及び衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
高須丸の後部甲板からの前方視界に死角を生じたことは,B受審人が左右に移動すれば解消できたのであるから,本件発生の原因とはならない。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,東播磨港南西方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近しているとき,東行中の兵機丸引船列が,見張り不十分で,前路を左方に横切る高須丸の進路を避けなかったことによって発生したが,北上中の高須丸が,見張り不十分で,汽笛不装備で警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,東播磨港南西方沖合において,はしけH-111を曳航して姫路港から神戸港に向かう場合,右舷前方から接近する高須丸を見落とさないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,前方を一瞥して支障となる船舶はいないものと思い,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路を左方に横切り,衝突のおそれがある態勢で接近する高須丸に気付かず,その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き,はしけH-111の右舷船首外板に凹損を,高須丸の右舷船首部に破口をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は,夜間,東播磨港南西方沖合において,漁場から同港伊保地区に戻る場合,左舷前方から接近する兵機丸引船列を見落とさないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,後部甲板で漁獲物の整理に気をとられて,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路を右方に横切り,衝突のおそれがある態勢で接近する兵機丸引船列に気付かず,汽笛不装備で警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらないまま,兵機丸引船列との衝突を招き,前示損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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