(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年9月30日17時20分
伊豆諸島大島東方沖合
(北緯34度45.0分 東経139度41.0分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船第三あかぼし |
貨物船新洋丸 |
総トン数 |
499トン |
438トン |
全長 |
75.24メートル |
55.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
1,176キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 第三あかぼし
第三あかぼし(以下「あかぼし」という。)は,平成7年5月徳島県で進水した沿海区域を航行区域とする全通二層甲板の船尾船橋型貨物船で,専ら鋼材の輸送に従事していた。
操舵室は,その前方に視界を妨げる構造物はなく,中央部に操舵スタンドが,同スタンドの左舷側に1号レーダー及びGPSが,右舷側に2号レーダーがそれぞれ設置されていた。
操縦性能は,航海速力が機関を回転数毎分240として約11ノットで,海上公試運転成績表写によると,最大縦距,最大横距及び360度回頭するのに要する時間が左旋回時では184メートル,173メートル及び3分42秒,右旋回時では182メートル,177メートル及び3分33秒となり,機関を全速力前進にかけて11.12ノットの速力で進行中,全速力後進を発令して船体が停止するまでに532メートル進出し,その所要時間が2分59秒であった。
イ 新洋丸
新洋丸は,平成14年10月長崎県で進水し,沿海区域を航行区域とする船首楼及び船尾楼付き一層甲板の船尾船橋型貨物船兼油タンカーで,専ら京浜港東京区及び川崎区と伊豆諸島の新島,神津島及び三宅島との間で生活物資やA重油などの輸送に従事していた。
操舵室は,その前方に見張りを妨げる船体構造物はなく,中央部に操舵スタンドが,同スタンドの左舷側にレーダー2台及びGPSプロッターが,右舷側に機関の操作盤がそれぞれ設置されていた。
操縦性能は,空倉時の航海速力が機関を回転数毎分340として約12ノットで,海上公試運転成績書写によると,旋回径及び360度回頭するのに要する時間が左旋回時では113メートル及び1分24秒,右旋回時が117メートル及び1分29秒となり,機関を前速力前進にかけて進行中,全速力後進を発令して船体が停止するまで47秒を要した。
3 事実の経過
あかぼしは,船長C及びA受審人ほか2人が乗り組み,鋼材1,099トンを載せ,船首2.7メートル船尾4.2メートルの喫水をもって,平成17年9月29日20時05分宮城県仙台塩釜港を発し,愛知県三河港に向かった。
A受審人は,翌30日15時30分千葉県千倉漁港東方沖合約5海里で昇橋し,次席一等航海士から引き継いで単独の船橋当直に就き,房総半島に沿って北太平洋を南下し,16時15分野島埼灯台から156度(真方位,以下同じ。)3.2海里の地点で,針路を244度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて12.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で進行した。
A受審人は,視界が良かったので,レーダー2台のうち2号レーダーを停止し,電子海図付きの1号レーダーをスタンバイの状態としたまま,専ら操舵室右舷前部の窓際に置いた背もたれ及び肘掛付きのいすに腰を掛けて見張りにあたり,17時00分洲埼灯台から182度11.2海里の地点に達したとき,立ち上がって1号レーダーの電子海図で船位を確認したのち,針路を伊豆諸島大島南端の少し南方沖合に向首する235度に転じ,同じ速力で,再び1号レーダーをスタンバイの状態とし,前示いすに腰を掛けた姿勢で続航した。
17時12分A受審人は,洲埼灯台から190度12.8海里の地点に差し掛かったとき,左舷船首50度2.0海里のところに新洋丸を視認でき,その後同船があかぼしの前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが,平素その時刻には浦賀水道から南下してくる船舶が多かったことから,右舷方の同水道方面に気を奪われ,見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,警告信号を行わず,間近に接近したとき,機関を使用して行きあしを停止するなど,衝突を避けるための協力動作をとることなく進行した。
A受審人は,17時20分少し前レーダーで船位を確認するため立ち上がり,ふと左舷船首方に視線を移したところ,至近に新洋丸を認め,急いで右舵一杯をとったが,及ばず,17時20分洲埼灯台から195度14.0海里の地点において,あかぼしは,船首が270度に向いたとき,原速力のまま,その左舷船首が,新洋丸の右舷中央部少し後ろに後方から42度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力4の北東風が吹き,視界は良好であった。
また,新洋丸は,B受審人ほか4人が乗り組み,空倉のまま,船首2.8メートル船尾3.1メートルの喫水をもって,同日13時20分三宅島阿古漁港を発し,京浜港東京区に向かった。
B受審人は,17時00分大島東方沖合約15海里で昇橋し,一等航海士と交替して単独の船橋当直に就き,船位を確認し予定針路線の東寄りを北上していることを知ったので,17時02分半洲埼灯台から183.5度15.9海里の地点で,針路を312度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて12.0ノットの速力で,浦賀水道南口に向けて進行した。
B受審人は,視界が良かったのでレーダー2台のうち,1台を停止し,もう1台をスタンバイの状態にしたまま,舵輪後方に立って見張りにあたり,17時12分洲埼灯台から189.5度14.8海里の地点に達したとき,右舷船首53度2.0海里のところにあかぼしを視認でき,その後同船が新洋丸の前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが,定針したとき右舷方に西行する他船を見かけなかったことから,右舷方に航行の妨げとなる他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,十分余裕のある時期に大幅に右転するなど,あかぼしの進路を避けることなく,船首方7海里ばかりのところに認めた大型船に視線を向けて続航した。
B受審人は,17時20分少し前操舵室後部の居住区に通じる階段から緊迫した大きな声が聞こえたので,何事かと確かめるため同室を無人にしたまま,階段を降り食堂などを確認して操舵室に急いで戻る途中,17時20分わずか前一等航海士が自室で右舷至近にあかぼしを認めて昇橋し,機関を停止したが,効なく,新洋丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,あかぼしは,左舷船首部外板及びバルバスバウに擦過傷などを,新洋丸は,右舷中央部少し後ろの外板及びガイポストに凹損などをそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。
(航法の適用)
本件は,視界が良好な伊豆諸島大島東方沖合において,動力船であるあかぼし及び新洋丸の両船が航行中,新洋丸があかぼしの前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したもので,新洋丸が避航義務を,あかぼしが針路及び速力の保持義務をそれぞれ履行するのに十分な時間的,距離的な余裕があったと認められるから,海上衝突予防法第15条の横切り船の航法によって律することが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 あかぼし
(1)右舷方の浦賀水道方面に気を奪われ,見張りを十分に行わなかったこと
(2)レーダーを使用しなかったこと
(3)警告信号を行わなかったこと
(4)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
2 新洋丸
(1)右舷方に航行の妨げとなる他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかったこと
(2)レーダーを使用しなかったこと
(3)あかぼしの進路を避けなかったこと
(4)衝突の少し前に操舵室を無人にしたこと
(原因の考察)
本件は,あかぼしが,見張りを十分に行っていれば,前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する新洋丸に容易に気付くことができ,警告信号を行い,間近に接近したとき,衝突を避けるための協力動作をとって衝突を回避できたものと認められる。
したがって,A受審人が,右舷方の浦賀水道方面に気を奪われ,見張り不十分で,警告信号を行わず,間近に接近したとき,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
A受審人が,レーダーを使用しなかったことは,視界が良好で,目視による見張りを行うことができたことから,本件発生の原因とならない。しかしながら,視界が良好であっても,周囲の状況及び他船との衝突のおそれの有無について十分に判断できるよう,レーダーを適切に使用しなければならない。
一方,新洋丸が,見張りを十分に行っていれば,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するあかぼしに容易に気付くことができ,同船の進路を避けることができたものと認められる。
したがって,B受審人が,右舷方に航行の妨げとなる他船はいないものと思い,見張りを十分に行わず,あかぼしの進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
B受審人が,レーダーを使用しなかったことは,視界が良好で,目視による見張りを行うことができたことから,本件発生の原因とならない。しかしながら,視界が良好であっても,周囲の状況及び他船との衝突のおそれの有無について十分に判断できるよう,レーダーを適切に使用しなければならない。
B受審人が,操舵室を無人にしたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,同室を無人にしたのが衝突の少し前であり,例えそのころあかぼしに気付いたとしても避航措置をとる十分な時間的余裕がなく,衝突を回避することができなかったものと認められるので,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,航行中船橋当直者が,海技免状を受有するしかるべき者に適切に交替することなく,降橋して同室を無人にすることは,海難防止の観点から厳に慎まなければならない。
(海難の原因)
本件衝突は,伊豆諸島大島東方沖合において,あかぼし及び新洋丸の両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,北上する新洋丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切るあかぼしの進路を避けなかったことによって発生したが,西行するあかぼしが,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は,伊豆諸島大島東方沖合において,単独の船橋当直にあたり,浦賀水道南口に向けて北上する場合,接近する他船を見落とすことがないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,右舷方に航行の妨げとなる他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかった職務上の過失より,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するあかぼしに気付かず,十分余裕のある時期に大幅に右転するなど,同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き,あかぼしの左舷船首部外板及びバルバスバウに擦過傷などを,新洋丸の右舷中央部少し後ろの外板及びガイポストに凹損などをそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は,伊豆諸島大島東方沖合において,単独の船橋当直にあたり,同島南方沖合に向けて西行する場合,接近する他船を見落とすことがないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,右舷方の浦賀水道方面に気を奪われ,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する新洋丸に気付かず,警告信号を行わず,間近に接近したとき,機関を使用して行きあしを停止するなど,衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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