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平成18年横審第24号
件名

貨物船ゼウス巡視船あまぎ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年9月6日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(村松雅史,清水正男,伊東由人)

理事官
西田克史

受審人
A 職名:ゼウス船長 海技免許:二級海技士(航海)
B 職名:ゼウス一等航海士 海技免許:三級海技士(航海)

損害
ゼウス・・・左舷後部外板に凹損,左舷舷梯に曲損
あまぎ・・・右舷船首ブルワークに凹損,ハンドレールに破損と脱落

原因
ゼウス・・・気象情報の収集不十分,走錨防止の措置不十分

主文

 本件衝突は,ゼウスが,気象情報の収集が不十分であったばかりか,走錨防止の措置が不十分で,風下で錨泊中のあまぎに向かって圧流されたことによって発生したものである。
 受審人Aの二級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年4月8日01時04分
 千葉県館山湾
 (北緯35度00.6分 東経139度50.3分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船ゼウス 巡視船あまぎ
総トン数 2,230トン 965.94トン
全長 91.30メートル 77.816メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,574キロワット 5,148キロワット
(2)設備及び性能等
ア ゼウス
 ゼウスは,平成9年10月に進水した近海区域を航行区域とする一層甲板船尾船橋型の鋼製液化ガスばら積船で,塩化ビニルモノマーの輸送に従事し,主として,岡山県水島港で積み,京浜港川崎区で揚げる運航で,その合間に茨城県鹿島港で積み,愛媛県波方港で揚げるなどの運航をしていたところ,本件時,波方港で荷物を揚げたのち,積荷の目的で鹿島港に向かうこととなった。
 操舵室は,船首から約66メートル後方にあり,前部中央に操舵スタンドが設けられ,同スタンドの左舷側に主機遠隔操縦装置が,右舷側にレーダー2台が,前方両舷にVHF無線電話が,後方にGPSがそれぞれ装備されていた。
イ あまぎ
 あまぎは,昭和54年9月に進水した,横浜海上保安部に所属する平甲板型の鋼製巡視船で,館山湾内外の哨戒業務などに従事していた。
 操舵室は,船首から約25メートル後方にあり,前部中央に操舵スタンドが設けられ,同スタンドの右舷側に主機遠隔操縦盤が,左舷側にレーダー2台がそれぞれ配置され,VHF無線電話,GPS及びモーターホーンが装備されていた。

3 事実の経過
 ゼウスは,A,B両受審人ほか8人が乗り組み,バラストタンクに海水747トンを張り,空倉のまま,船首3.3メートル船尾4.4メートルの喫水をもって,平成17年4月6日08時00分波方港を発し,鹿島港へ向かった。
 ところで,A受審人は,C社から衛星船舶電話契約者に提供される気象情報のファックス受信を利用しており,1日2回06時40分と16時30分に更新される海域別ポイント別波浪予想図(東海道沿岸海域)及び同(関東・東北沿岸海域)を入手していた。
 A受審人は,鹿島港の積荷役の予定に合わせるため,館山湾で錨泊して時間調整を行うこととし,翌7日15時45分同湾錨地に錨を入れたが,周囲の錨泊船と近すぎたので転錨し,16時30分船形平島灯台から206度(真方位,以下同じ。)1.3海里の地点において,水深27メートル底質が砂混じり泥の海底に重さ2,140キログラムの右舷ストックレスアンカーを投じ,径40ミリメートル1節の長さ27.5メートルの錨鎖8節のうち6節を延出し,日没後は,所定の灯火を表示して錨泊を続けた。
 A受審人は,そのころ,北海道西方海上に南東進する994ヘクトパスカルの発達中の低気圧があり,同低気圧に伴う寒冷前線が能登半島西方海上まで延び南下していたが,気象情報の収集を十分に行わず,同日朝に受信した前示波浪予想図だけを見て風はこれから徐々に弱まると思い,停泊当直者に対し,風勢が強くなったときは,錨鎖を延ばして機関を用意するなどして走錨を防止することができるように,すぐさま報告するよう指示するなど,走錨防止の措置を十分にとらなかった。
 B受審人は,23時45分停泊当直の目的で昇橋したとき,波が高くなって船体動揺が少し大きくなり,南西風が風速15メートル毎秒と増勢したのを認めたが,そろそろ風は弱まって北に変わると思い,A受審人に報告しなかった。
 B受審人は,停泊当直にあたり,操舵室で気象,海象の変化や周囲の状況等の監視を続けるうち,翌8日00時45分ころ突風気味の最大瞬間風速22メートル毎秒を超える南西風を受けるようになり,00時49分ゼウスは,突風を伴う強い風と高くなった波を受けて走錨を始めた。
 00時50分B受審人は,風が常時強くなり船体が大きく動揺し始めたとき,レーダーを見て走錨に気付き,ようやくA受審人に報告し,機関長に連絡して機関用意を指示した。
 このころ次直の予定で在橋していた次席二等航海士は,風下で錨泊していたあまぎからのサーチライトの照射を確認するとともに,同船からのVHF無線電話に応答したのち,二等航海士とともに揚錨するために船首に赴いた。
 A受審人は,昇橋したところ,B受審人から機関を始動して半速力前進にかけ,揚錨中である旨の報告を受けたが,どうすることもできず,01時04分船形平島灯台から180度0.9海里の地点において,ゼウスは,前進行きあしとなる少し前,195度を向首したその左舷後部があまぎの右舷船首部に後方から30度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で最大瞬間風速22メートル毎秒の突風を伴う風力7の南西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,波高は2ないし3メートルであった。
 また,あまぎは,船長Dほか27人が乗り組み,館山湾内外の哨戒任務などの目的で,船首3.2メートル船尾3.8メートルの喫水をもって,7日10時00分京浜港横浜区を発し,千葉県館山湾に向かった。
 D船長は,12時40分館山湾で仮泊して訓練を実施したのち転錨し,16時45分船形平島灯台から186度1,800メートルの地点において,水深26メートル底質が泥の海底に,重さ1,300キログラムの右舷ストックレスアンカーを投じ,錨鎖8節のうち6節を水面下まで延出し,停泊当直要員を配置して錨泊を始め,日没後は,所定の灯火を表示し,その後,風勢が強まることを予測していたので時々昇橋して天候を確かめていたところ,21時20分南西風が風力7に増勢したので錨鎖を1節延ばし,7節水面下として錨泊を続けた。
 翌8日00時53分あまぎは,225度に向首して錨泊中,ゼウスが強風のため走錨して自船に接近していることに気付いた乗組員が船内一斉放送を行い,00時55分ゼウスに向かってサーチライトを照射して注意喚起するとともにVHF無線電話で呼びかけ,ゼウスが機関用意及び揚錨中であるとの応答を受け,自船も機関用意及び揚錨準備をして備えたが,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,ゼウスは,左舷後部外板に凹損及び左舷舷梯に曲損を,あまぎは,右舷船首ブルワークに凹損及びハンドレールに破損と脱落をそれぞれ生じたが,のち,いずれも修理された。

(本件発生に至る事由)
ゼウス
1 A受審人が,気象情報の収集を十分に行わなかったこと
2 A受審人が,風は徐々に弱まると思い,停泊当直者に対し,風勢が強くなったときは,すぐさま報告するよう指示するなど,走錨防止の措置をとらなかったこと
3 B受審人が,風は弱くなって北に変わると思い,A受審人に対して報告しなかったこと
4 ゼウスが走錨したこと

(原因の考察)
 本件は,ゼウスが,気象情報の収集を十分に行っていれば,風が強くなることが予想でき,走錨を防止することができたと認められる。また,船長が,停泊当直者に対し,風勢が強くなったときは,すぐさま船長に報告するよう指示していれば,船長が昇橋し,錨鎖を延ばして機関を用意するなどして走錨を防止することができ,風下で錨泊中のあまぎに向かって圧流されず,衝突を避けることができたものと認められる。
 したがって,A受審人が,気象情報の収集を十分に行わず,風は徐々に弱まると思い,停泊当直者に対し,風勢が強くなったときは,すぐさま報告するよう指示するなど,走錨防止の措置が不十分で,南西からの強風を受けて走錨し,風下で錨泊中のあまぎに向かって圧流されたことは,本件発生の原因となる。
 一方,B受審人が,停泊当直中,波が高くなって船体動揺が少し大きくなり,風勢が強くなったことを認めた際,A受審人に対して報告していれば,A受審人が昇橋し,錨鎖を延ばして機関を用意するなどして走錨を防止することができ,風下で錨泊中のあまぎに向かって圧流されず,衝突を避けることができたものと認められる。
 したがって,B受審人が,停泊当直中,波が高くなって船体動揺が少し大きくなり,風勢が強くなったことを認めた際,風は弱くなって北に変わると思い,A受審人に対して報告しなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,寒冷前線の通過が予想される状況下,千葉県館山湾において,ゼウスが,錨泊中,気象情報の収集が不十分であったばかりか,風勢が強くなった際,走錨防止の措置が不十分で,南西からの強風を受けて走錨し,風下で錨泊中のあまぎに向かって圧流されたことによって発生したものである。
 走錨防止の措置が十分でなかったのは,船長が,停泊当直者に対し,風勢が強くなったときは,すぐさま報告するよう指示しなかったことと,停泊当直者が,風勢が強くなったとき,船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,寒冷前線の通過が予想される状況下,千葉県館山湾において,錨泊する場合,停泊当直者に対し,風勢が強くなったときは,すぐさま報告するよう指示するなど,走錨防止の措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,A受審人は,当日朝の波浪予想図だけを見て風は徐々に弱まると思い,走錨防止の措置を十分にとらなかった職務上の過失により,南西からの強風を受けて走錨し,風下で錨泊中のあまぎに向かって圧流され,同船との衝突を招き,ゼウスの左舷後部外板に凹損及び左舷舷梯に曲損を,あまぎの右舷船首ブルワークに凹損及びハンドレールに破損と脱落をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の二級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は,夜間,寒冷前線の通過が予想される状況下,千葉県館山湾において,停泊当直中,波が高くなって船体動揺が少し大きくなり,風勢が強くなったことを認めた場合,船長に報告すべき注意義務があった。しかるに,B受審人は,風は弱くなって北に変わると思い,船長に報告しなかった職務上の過失により,南西からの強風を受けて走錨し,風下で錨泊中のあまぎに向かって圧流され,同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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