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平成18年仙審第14号
件名

漁船開玄丸漁船新生丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年9月21日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(供田仁男)

理事官
黒岩 貢

受審人
A 職名:開玄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:新生丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
開玄丸・・・船首外板に擦過傷
新生丸・・・右舷中央部外板に破口,のち廃船 船長が頚部挫傷,顔面・右前腕・両下腿挫創

原因
開玄丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
新生丸・・・見張り不十分,音響信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,開玄丸が,見張り不十分で,漂泊中の新生丸を避けなかったことによって発生したが,新生丸が,見張り不十分で,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年7月10日08時20分
 福島県相馬港東方沖合
 (北緯37度50.2分 東経141度01.6分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船開玄丸 漁船新生丸
総トン数 4.68トン 0.9トン
登録長 9.95メートル 5.63メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 323キロワット  
漁船法馬力数   25

3 事実の経過
 開玄丸は,昭和54年10月に進水し,固定式刺し網漁業及び小型機船底びき網漁業に従事する,船体中央部に操舵室を設けたFRP製漁船で,A受審人(昭和50年9月二級小型船舶操縦士免許(現一級・特殊小型船舶操縦士及び特定操縦免許)取得)が1人で乗り組み,めばる刺し網漁の目的で,船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成17年7月10日01時00分相馬港の南部に位置する松川浦漁港を発し,同漁港東方沖合の漁場に向かった。
 A受審人は,01時20分漁場に着き,操業を開始して,前回の操業で海中に16枚投入しておいた刺し網を1枚ずつ引き揚げ,掛かった魚を外しては再び投入し,やがて,付近に点在した幾隻かの漁船が次第に帰航していくなか,07時30分ようやく操業を終了し,翌日の操業に備えて魚群の探索を始めた。
 08時15分A受審人は,魚群の探索を終え,鵜ノ尾埼灯台から076度(真方位,以下同じ。)3.0海里の地点で,針路を270度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけ,12.0ノットの対地速力で帰途に就いたとき,正船首1.0海里に船首を北北東方に向けて漂泊している新生丸を視認でき,その後同船に衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であった。
 しかし,A受審人は,付近にいた漁船は帰航して前路に他船はいないものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,新生丸を避けることなく,操舵室内の右舷側に設けた台に腰を下ろし,刺し網投入前に試し釣りをした折に絡み合ったまま床に放置してあった釣り糸を解きながら進行し,08時20分鵜ノ尾埼灯台から069度2.1海里の地点において,開玄丸は,原針路,原速力のまま,その船首が新生丸の右舷中央部に前方から60度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力2の北北西風が吹き,視界は良好で,潮候は下げ潮の中央期であった。
 また,新生丸は,平成3年9月に進水し,一本釣り漁業に従事する,船体中央部に操舵室を設け,汽笛を備えない全長12メートル未満のFRP製漁船で,B受審人(昭和51年7月一級小型船舶操縦士免許(現一級・特殊小型船舶操縦士及び特定操縦免許)取得)が1人で乗り組み,めばる漁の目的で,船首0.30メートル船尾0.35メートルの喫水をもって,同日04時00分松川浦漁港を発し,同漁港東方沖合の漁場に向かった。
 B受審人は,04時20分漁場に着き,漂泊して操業を開始し,後部甲板の右方舷外に出した釣り竿を舷側に固定したうえ,同左方舷外に出した釣り竿を手に持ち,有効な音響信号を行うことのできる笛が付いた救命胴衣を着用して,時折漁場を変えながら魚を釣り,やがて,付近に点在した幾隻かの漁船が次第に帰航していくなか,08時10分衝突地点付近に移動し,機関を中立運転として漂泊し,釣り糸を垂らしたものの,直ぐに引き揚げ,帰航準備を始めた。
 08時15分B受審人は,衝突地点で,船首が030度を向き,後部甲板の右舷側に立ち,同舷側の釣り竿を片付け終えたとき,右舷船首60度1.0海里に自船に向けて来航する開玄丸を視認でき,その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であった。
 しかし,B受審人は,他船が接近しても漂泊している自船を避けてくれるものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,開玄丸に避航の気配がなかったものの,避航を促す音響信号を行わず,左舷側に移って同舷側の釣り竿の片付けに取り掛かり,同船が更に間近に接近しても機関を使って衝突を避けるための措置をとることもなく,漂泊を続けた。
 B受審人は,08時20分わずか前ようやく至近に迫った開玄丸を初めて視認し,操舵室に入ってクラッチに手を掛け,前進するか後進するかを迷ったのち,いずれにしても衝突を避けることができないことを知り,舵輪にしがみついた直後,新生丸は,030度に向首したまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,開玄丸は,船首外板に擦過傷を生じ,新生丸は,右舷中央部外板に破口を生じ,同部ブルワークを破断したほか,操舵室が倒壊し,僚船によって曳航される途中,水船状態になるとともに同室が海中に落下して,のち廃船処分され,B受審人が10日間の通院を要する頚部挫傷及び顔面・右前腕・両下腿挫創を負った。

(海難の原因)
 本件衝突は,相馬港東方沖合において,西航する開玄丸が,見張り不十分で,漂泊中の新生丸を避けなかったことによって発生したが,新生丸が,見張り不十分で,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,相馬港東方沖合において,漁場から帰途に就いて西航する場合,前路の他船を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,付近にいた漁船は帰航して前路に他船はいないものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,新生丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,同船を避けることなく進行して衝突を招き,開玄丸の船首外板に擦過傷を,新生丸の右舷中央部外板に破口,同部ブルワークに破断と操舵室の倒壊をそれぞれ生じさせ,同船を廃船処分せしめたほか,B受審人に頚部挫傷などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は,相馬港東方沖合において,漂泊して帰航準備をする場合,接近する他船を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,他船が接近しても漂泊している自船を避けてくれるものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,開玄丸が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,同船に避航の気配がなかったものの,避航を促す音響信号を行うことも,同船が更に間近に接近しても衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けて衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせ,自身も負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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