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平成18年仙審第7号
件名

漁船第二十二寿丸貨物船プリンセス セイコー衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年9月14日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(小寺俊秋)

理事官
黒岩 貢

受審人
A 職名:第二十二寿丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第二十二寿丸・・・左舷船首部を圧壊
プリンセス セイコー・・・右舷中央部から後部までの外板に擦過傷

原因
第二十二寿丸・・・視界制限状態時の航法(レーダー,速力)不遵守
プリンセス セイコー・・・視界制限状態時の航法(レーダー,速力)不遵守

裁決主文

 本件衝突は,第二十二寿丸が,視界制限状態における運航が適切でなかったことと,プリンセス セイコーが,視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年6月22日01時17分
 福島県相馬港南東方沖合
 (北緯37度43.5分 東経141度10.7分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十二寿丸 貨物船プリンセス セイコー
総トン数 19.60トン 6,641トン
全長   100.61メートル
登録長 16.00メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 670キロワット 3,089キロワット

3 事実の経過
 第二十二寿丸(以下「寿丸」という。)は,船体のほぼ中央に操舵室を備え,沖合底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,平成3年9月一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人ほか5人が乗り組み,操業の目的で,船首1.0メートル船尾2.2メートルの喫水をもって,同17年6月21日02時00分福島県相馬港の南端に位置する松川浦漁港を発し,同漁港東方約12海里沖合の漁場に向かった。
 ところで,寿丸の行う沖合底びき網漁業は,微速で前進しながら投網に5分間を要し,針路を保つことができる最小限度の速力(対地速力,以下同じ。)に相当する3.0ノットで約2時間曳網し,網の巻き取り速度に合わせて約15分間後進しながら揚網した後,漁場を移動して同様の作業を行うもので,7月及び8月の休漁期間を除き,早朝02時ごろ発航し,漁場を移動しながら12回ないし13回一連の投揚網を繰り返し,翌日08時ごろに帰航する操業形態であった。
 A受審人は,03時10分前示漁場に至り,所定の灯火に加え,甲板上に多数の作業灯を点灯して操業を開始し,南方への移動を繰り返しながら相馬港の南東方沖合に向かい,同日23時ごろ,南南東に向かって9回目の曳網を行っているとき,次第に霧のため視界が制限されて視程が100メートル未満となった状況下,レーダーを1.5海里レンジとし,霧中信号を行わないまま曳網を続け,翌22日00時52分その揚網を終え,約7ノットの速力で東南東方へ移動を開始した。
 01時07分A受審人は,東北電力原町火力発電所専用港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から064度(真方位,以下同じ。)7.9海里の地点に達したとき,10回目の投網を行うこととして反転し,針路を293度に定めて手動操舵とし,機関を微速力前進にかけて3.5ノットの速力で,投網しながら進行した。
 01時12分A受審人は,北防波堤灯台から062.5度7.7海里の地点に至り,投網を終えて自動操舵とし,3.0ノットに減速して同針路で曳網を開始したとき,左舷船尾70度1,700メートルに,北上するプリンセス セイコー(以下「プ号」という。)のレーダー映像を認めることができ,その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが,後部甲板上で乗組員が行っている漁獲物の選別に気を取られ,レーダーによる見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,必要に応じて行きあしを止めることなく続航中,01時17分北防波堤灯台から061度7.5海里の地点において,寿丸は,原針路,原速力のまま,その左舷船首がプ号の右舷中央部に後方から57度の角度で衝突した。
 当時,天候は霧で風はほとんどなく,視程100メートル未満の視界制限状態で,潮候は上げ潮の末期であった。
 また,プ号は,1994年日本の造船所で建造された船尾船橋型鋼製貨物船で,フィリピン国籍の船長B及び二等航海士Cほか同国籍船員16人が乗り組み,合板2,155立方メートルを載せ,船首4.8メートル船尾5.3メートルの喫水をもって,6月21日16時06分茨城県鹿島港を発し,宮城県石巻港に向かった。
 B船長は,船橋当直を,航海士及び甲板部員各1名による4時間交替の3直制と定め,00時から04時までの同当直を,C二等航海士に任せていた。
 翌22日00時00分C二等航海士は,北防波堤灯台から154度13.6海里の地点で船橋当直に就き,霧のため視界が制限されている状況下,所定の灯火を点灯し,霧中信号を行わないまま,針路を004度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて12.5ノットの速力で,レーダーによる見張りを行いながら進行した。
 C二等航海士は,01時00分船首方約3海里に寿丸のレーダー映像を認め,01時05分北防波堤灯台から080度7.1海里の地点に達し,同船が同方約2海里になったとき,同船の方位が徐々に右方に変わるので,航過距離を広げることとして針路を350度に転じたが,その後,同船に対する動静監視を十分に行わなかったので,間もなく同船が反転したことに気付かなかった。
 01時12分C二等航海士は,北防波堤灯台から069度7.2海里の地点に至ったとき,右舷船首13度1,700メートルに西行する寿丸のレーダー映像を認めることができ,その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが,依然としてレーダーによる動静監視が不十分で,このことに気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めることなく続航中,プ号は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,寿丸は,左舷船首部を圧壊し,プ号は,右舷中央部から後部までの外板に擦過傷を生じたが,のちいずれも修理された。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,霧のため視界が制限された福島県相馬港南東方沖合において,針路を保つことができる最小限度の速力で曳網しながら西行する寿丸が,霧中信号を行わなかったばかりか,レーダーによる見張り不十分で,プ号と著しく接近することを避けることができない状況となった際,必要に応じて行きあしを止めなかったことと,北上するプ号が,霧中信号を行わなかったばかりか,レーダーによる動静監視不十分で,寿丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,霧のため視界が制限された福島県相馬港南東方沖合において,針路を保つことができる最小限度の速力で曳網しながら西行する場合,前路を北上するプ号のレーダー映像を見落とすことのないよう,レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,後部甲板上で乗組員が行っている漁獲物の選別に気を取られ,レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,プ号と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず,必要に応じて行きあしを止めることなく進行して同船との衝突を招き,寿丸の左舷船首部を圧壊し,プ号の右舷中央部から後部までの外板に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図





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