(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年7月5日07時30分
北海道網走港
(北緯44度01.5分 東経144度17.6分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船第五十六照福丸 |
総トン数 |
17トン |
全長 |
22.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
603キロワット |
(2)設備及び性能等
第五十六照福丸(以下「照福丸」という。)は,平成10年12月に進水した軽合金製漁船で,ほぼ船体中央部に操舵室を有し,同室にレーダー,GPSプロッタ及び魚群探知機を各1台備え,右舷側に主機遠隔操縦装置が設置されていた。
3 事実の経過
照福丸は,A受審人ほか5人が乗り組み,かに固定式刺し網漁の目的で,平成17年7月5日03時00分北海道網走港を発し,同港北西方沖合20海里ばかりの漁場に向かった。
A受審人は,04時15分前示漁場に着き,操業を開始してあぶらかに約1トンを漁獲して操業を終え,船首0.8メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,06時30分能取岬北方沖合10海里ばかりの地点を発進し,網走港に向け帰途に就いた。
ところで,A受審人は,4月から12月までかに固定式刺し網漁に従事し,毎日03時ごろ出航して08時ごろ帰港したあと,かにの取り外し作業及び選別作業のほか,他の所有船舶の管理業務などを行い,19時ごろ就寝していた。本件時の前2日間は乗組員の給料計算などの仕事に従事し,出漁しなかったので特に疲労はなかったが,当時,往復航の船橋当直と操業中も休息しないで操船に当たっていたことから,精神的な疲労と高齢による体力的な疲れがあった。
07時10分A受審人は,能取岬灯台から086度(真方位,以下同じ。)2.7海里の地点に達したとき,針路を網走港北防波堤(以下「北防波堤」という。)の中央部を目標とする185度に定め,機関を回転数毎分1,200にかけ,16.0ノットの対地速力で自動操舵により進行し,そのころ,甲板員全員が前部甲板で網からかにを取り外す作業を行っていた。
A受審人は,操舵室右舷側で踏み台に腰掛けて操舵と見張りに当たり,07時22分ごろ疲労から眠気を催すようになったが,間もなく入港するので,まさか居眠りすることはないと思い,甲板員を呼んで2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,続航中,いつしか居眠りに陥った。
その後,A受審人は,居眠りしていて防波堤入口に針路を転じないまま,北防波堤に向首して進行し,07時30分わずか前ふと目を覚ましたとき,正船首至近に同堤を視認して機関を中立から後進にかけたが,照福丸は,07時30分網走港北防波堤灯台から278度100メートルの地点において,原針路,原速力のまま,その船首が同堤の消波ブロックに衝突した。
当時,天候は曇で風力4の南東風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
衝突の結果,防波堤などに損傷はなく,球状船首及び右舷側船首ブルワークに凹損並びにサイドスラスターに損傷を生じたが,のち修理された。また,甲板員4人が1週間から1箇月の加療を要する頸椎捻挫,腰部挫傷,左前胸部挫傷,右手関節挫傷などと診断され,A受審人も前額部に創傷を負った。
(本件発生に至る事由)
1 A受審人が精神的な疲労と高齢による体力的な疲れがあったこと
2 間もなく入港するので,まさか居眠りすることはないと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
(原因の考察)
本件は,照福丸が,居眠り運航の防止措置を十分にとり,居眠り運航に陥らなければ,防波堤に接近したことに気付き,針路を防波堤入口に転じて衝突を回避できたと認められる。
したがって,A受審人が,眠気を催した際,間もなく入港するので,まさか居眠りすることはないと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったことは,本件発生の原因となる。
A受審人が,通常行っている船橋当直や操業中の作業でも,精神的な疲労と高齢による体力的な疲れがあったことについては,眠気を起こした要因であるが,居眠り運航の防止措置をとっていれば,本件は発生しなかったので,原因とならない。
(海難の原因)
本件防波堤衝突は,漁場から北海道網走港に向け帰航中,居眠り運航の防止措置が不十分で,針路が転じられないまま,北防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,漁場から単独で船橋当直に当たって北海道網走港に向け帰航中,眠気を催した場合,居眠り運航に陥らないよう,甲板員を呼んで2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし,同受審人は,間もなく入港するので,まさか居眠りすることはないと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,踏み台に腰掛けたまま居眠りに陥り,針路を防波堤入口に転じないで北防波堤に向首進行して衝突を招き,球状船首及び右舷側船首ブルワークに凹損並びにサイドスラスターに損傷を生じさせ,甲板員4人に1週間から1箇月の加療を要する頸椎捻挫,腰部挫傷,左前胸部挫傷,右手関節挫傷等をそれぞれ負わせ,自らも前額部に創傷を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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