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平成17年長審第30号
件名

漁船祐佳丸漁船一丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年8月3日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(長浜義昭,吉川 進,尾崎安則)

理事官
道前洋志

受審人
A 職名:祐佳丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:祐佳丸甲板員
補佐人
a(A受審人及びB指定海難関係人選任)

損害
祐佳丸・・・船底全面に擦過傷,推進器翼に曲損
一丸・・・操縦区画,左舷側舷縁を圧壊,のち廃船 船長が溺水によって死亡

原因
祐佳丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
一丸・・・音響信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,祐佳丸が,見張り不十分で,漂泊中の一丸を避けなかったことによって発生したが,一丸が,避航を促す有効な音響による信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年12月3日17時55分
 熊本県牛深港東方沖合
 (北緯32度11.0分 東経130度02.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船祐佳丸 漁船一丸
総トン数 3.6トン 1.25トン
全長 11.95メートル 7.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70 15
(2)設備及び性能等
ア 祐佳丸
 祐佳丸は,平成3年5月に熊本県上天草市姫戸町で進水した,刺し網及び一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で,操舵室が船体中央少し後方に位置し,同室天井に1人が顔を出すことができる天窓が設けられ,操舵室前面には中央の窓枠を挟んで左右に各1枚のガラス窓があり,右窓に旋回窓が取り付けられ,操舵室両側もガラス窓となっていた。
 操舵室前面の航海計器据付け台には,右舷側から左舷側に向かって主機操縦レバー,魚群探知機,磁気コンパス及びGPSプロッターが設置されていたが,レーダーは装備されていなかった。また,同据付け台下部には,右舷側上部に航海灯等の配電盤,その下に機関回転計,潤滑油圧力計等の主機計器盤,配電盤の左側に舵輪が設置され,同据付け台下部の左舷側が操舵室前方に隣接する船室への出入口となっていた。
 操舵室右舷側には,床から座面までの高さが0.83メートルの固定された操縦席があるものの,航行中に船首浮上によって船首方に広い範囲にわたって死角(以下「船首死角」という。)が生じるので,操縦者が同席の上に立ち,真上に設けられた天窓から顔を出して同死角を補う見張りをする必要があった。
 操舵装置は電動油圧式で,自動操舵装置はなく,前部甲板に操業用の持ち運び式の遠隔操舵装置を備えていた。
 速力は,全速力前進の機関回転数毎分1,900で15.0ノットであった。
 灯火設備は,前部マストにマスト灯,操舵室の左右に舷灯を備えていたほか,同室屋上に設置された2本のマストのそれぞれの上端に白色全周灯1個及び黄色回転灯1個,同屋上後端に船尾灯が取り付けられていた。
 また,音響信号設備として電子ホーンを装備していた。
イ 一丸
 一丸は,昭和55年10月に熊本県天草市で進水した,一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で,甲板上には,船体中央付近から船尾方に長さ1.6メートル甲板上の高さ0.6メートルの機関室囲壁があり,その後方が船尾甲板であった。機関室囲壁の後部長さ0.65メートルを包含して長さ1.25メートル甲板上の高さ1.2メートルの後方が開放された操縦区画が設置され,船尾甲板の上方に白色のオーニングが展張されていて,操縦者は操縦区画後方に立って舵柄によって操舵に当たるようになっており,主機遠隔操縦のための前後進レバーと燃料ハンドルを操縦区画内左舷側と船尾右舷側の2箇所に備えていた。
 灯火設備は,操縦区画の上に設置された甲板上の高さ約2.8メートルのマスト上端に白色全周灯1個及びその下方約1メートルに両色灯が取り付けられていた。これらの灯火はいずれも12ボルトの蓄電池を電源とし,両色灯には10ワットの電球が使用されていたが,白色全周灯の使用電球のワット数は不明であった。
 音響信号設備は装備されていなかったが,有効な音響による信号の装備状況は不明であった。

3 事実の経過
 祐佳丸は,刺し網漁を行う目的で,A受審人とB指定海難関係人の2人が乗り組み,船首0.40メートル船尾0.75メートルの喫水をもって,平成16年12月3日17時40分熊本県牛深漁港須口浦の係留地を発し,船尾方から接近する他船からはスパンカーの陰になって船尾灯を視認しにくいことから,法定の灯火に加えて白色全周灯を掲げ,揚網の目的で,牛深港を経由して同港東方沖合の印度瀬南方200メートル付近及び同港南東方の牛島南方沖合の2箇所の漁場に向かった。
 A受審人は,牛深港港内での操縦をも自ら行わずに,B指定海難関係人に発航時から操縦に当たらせたが,この海域での操縦に慣れているので指示するまでもないと思い,漂泊中の漁船を見落とすことのないよう,前方の見張りを十分に行うよう同人に指示することなく,船首死角で正船首方が見えない右舷側後部甲板に位置して進行した。
 B指定海難関係人は,発航時から操縦席の上に立ち,天窓から顔を出した状態で船首死角を補う見張りを行い,右足で舵輪及び主機操縦レバーを操作しながら操縦に当たり,17時54分少し前牛深港港域数十メートル外側の印度瀬南方の漁場に至り,午前中に南南東方向に投網していた長さ約200メートルの刺し網両端のボンデンがあることを確認するために同網に沿って南下したのち,先に牛島南方沖合の漁場に投じた網を揚げることとし,17時54分わずか過ぎ牛深港白瀬二号防波堤北灯台(以下「防波堤灯台」という。)から122度(真方位,以下同じ。)1,140メートルの地点において,針路を191度に定め,機関を全速力前進にかけ,折からの弱い北北西流によって2度右方に圧流されながら14.6ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で続航した。
 定針したときB指定海難関係人は,正船首390メートルのところに,一丸の白灯1個を認めることができ,その後,漂泊中の同船に向けて接近したが,下須島黒埼の北方至近のところに認めた漂泊している数隻のいか釣り漁船の灯火を十分に離す針路としたことから,それらの漁船のほかにいか釣り漁船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかったので,そのことに気付かず,同船を避けないまま進行した。
 B指定海難関係人は,依然,見張り不十分で,一丸に向けて接近していることに気付かないまま,17時55分直前牛島の西端に向けて針路を175度に転じ,17時55分防波堤灯台から137度1,300メートルの地点において,原速力のまま,祐佳丸の船首が一丸の左舷中央部に前方から30度の角度で衝突し,同船を乗り切った。
 当時,天候は晴で風力1の北東風が吹き,視界は良好で,潮候はほぼ低潮時で,付近には330度方向に流れる約0.6ノットの潮流があり,日没時は17時15分であった。
 A受審人は,右舷側後部甲板で手袋をはめるなど揚網のための身支度をしていたところ,衝撃を感じ,続いてB指定海難関係人が機関を中立にしたとき,至近に一丸と海中に投げ出された船長Cを認めて衝突したことを知り,衝突音を聞いて現場に駆けつけたいか釣り漁船の手助けを得て同船長を引き揚げ,急ぎ牛深港に寄せ,漁業無線を通じて出動を依頼した救急車に同船長を引き渡すなど事後の措置に当たった。
 また,一丸は,一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で,C船長が1人で乗り組み,みずいか一本釣りの目的で,同日17時10分牛深港元下須の係留地を発し,同港港外の下須島東側の漁場に至って操業を開始した。
 17時38分C船長は,防波堤灯台から140度1,610メートルの地点付近で潮昇りを終え,白色全周灯1個を表示したのみで,両色灯を掲げないまま機関を中立とし,北北西流に圧流されながら漂泊し,右舷船尾に腰を下ろして右舷側から釣竿を出して釣りを再開した。
 17時54分わずか過ぎC船長は,船首を025度に向けて漂泊していたところ,左舷船首14度390メートルのところに祐佳丸の白,白,紅,緑4灯を認めることができる状況で,その後,同船が自船に向けて接近したが,操縦区画の陰に隠れて,このことに気付かなかったかして,避航を促す有効な音響による信号を行わず,中立運転中の機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとることなく,船首を同じ方向に向けて漂泊中,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,祐佳丸は,船底全面に擦過傷を,推進器翼に曲損を生じたが,のち修理され,一丸は,操縦区画及び左舷側舷縁を圧壊し,のち廃船とされた。また,C船長は海中に投げ出されたのち,祐佳丸に引き上げられて病院に搬送されたが,溺水によって死亡した。

(航法の適用)
 本件は,熊本県牛深港東方沖合において,航行中の祐佳丸と漂泊中の一丸とが衝突したものである。
 衝突地点は,港則法に定められた牛深港の港域外であるから,一般法である海上衝突予防法で律することになるが,同予防法には航行中の船舶と漂泊中の船舶との関係について規定した条文がないから,同予防法第38条及び第39条の規定に拠ることになる。

(本件発生に至る事由)
1 祐佳丸
(1)法定の灯火に加えて白色全周灯を点灯していたこと
(2)船長が甲板員に操縦させるに際し,見張りを十分に行うよう指示しなかったこと
(3)見張りを十分に行っていなかったこと
(4)一丸を避けなかったこと

2 一丸
(1)両色灯を表示していなかったこと
(2)避航を促す有効な音響による信号を行わなかったこと
(3)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,夜間,祐佳丸が前路で漂泊中の一丸に接近して衝突したものであり,祐佳丸が前方の見張りを十分に行っていたならば,一丸を避けることができたものと認められる。
 したがって,船首死角を補う見張りのできる天窓から顔を出して操縦に当たっていたB指定海難関係人が,黒埼の北方至近のところに認めた数隻のいか釣り漁船の東方沖合を航行したので,前路にそれ以外のいか釣り漁船はいないものと思い,前方の見張りを十分に行っていなかったことは本件発生の原因となる。
 また,A受審人が船長として,操縦に当たらせていた甲板員に見張りを十分に行うよう指示しなかったことは本件発生の原因となる。
 祐佳丸が,マスト灯,両舷灯及び船尾灯に加えて白色全周灯を表示していたことは,漂泊中の一丸から見て見合い関係に混乱を来したことによって本件が発生したものではないので,本件発生の原因とならない。しかしながら,航行中の動力船同士の見合い関係において,全長12メートル未満である祐佳丸の正横後各舷22.5度より後方に位置する他船が,祐佳丸のスパンカーに隠れない状態の船尾灯と白色全周灯との白灯2個を認めたときには航法の適用に混乱を生じさせる可能性があり,法定の灯火以外の灯火の表示は厳に慎まなければならない。
 一方,一丸が,いか釣りのため漂泊しているとき,避航を促す有効な音響による信号を装備していたかは不明なるも,自船に向けて接近する祐佳丸に対して同信号を行い,中立運転中の機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとることにより,衝突を回避できたものと認められるので,いずれも本件発生の原因となる。
 また,一丸が,両色灯を点じていなかったことは,本件発生の過程で関与した事実であるが,一丸に行きあしがなかったことと,付近で両船の衝突を目撃していた第三船が一丸の示す白灯1個に向けて祐佳丸が接近した状況を容易に認めていたことから,本件と相当なる因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,熊本県牛深港東方沖合において,牛島南方の漁場に向け南下中の祐佳丸が,見張り不十分で,漂泊中の一丸を避けなかったことによって発生したが,一丸が,避航を促す有効な音響による信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 祐佳丸の運航が適切でなかったのは,船長が操縦に当たらせた甲板員に前方の見張りを十分に行うよう指示しなかったことと,操縦に当たった甲板員が前方の見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は,夜間,熊本県牛深港東方沖合において,甲板員に操縦させる場合,漂泊中の漁船を見落とすことのないよう,前方の見張りを十分に行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,甲板員がこの海域での操縦に慣れているので,指示するまでもないと思い,前方の見張りを十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により,甲板員が漂泊中の一丸の存在に気付かないまま,同船に向け進行して衝突を招き,祐佳丸の船底全面に擦過傷及び推進器翼に曲損を,一丸の操縦区画及び左舷側舷縁に圧壊をそれぞれ生じさせ,C船長を溺死させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が,夜間,牛深港東方沖合において,操縦に当たる際,前路で漂泊中の漁船を見落とすことのないよう,前方の見張りを十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,勧告しないが,見張りの重要性を再認識の上,見張りを十分に行うなど安全運航の確保に今後努めなければならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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