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平成18年門審第44号
件名

漁船天理丸漁船栄徳丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年8月31日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(小金沢重充)

副理事官
小俣幸伸

受審人
A 職名:天理丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:栄徳丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
天理丸・・・船首外板に擦過傷
栄徳丸・・・左舷中央部外板に亀裂を伴う損傷 船長が腰部捻挫,左上腕部挫傷

原因
天理丸・・・見張り不十分,各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
栄徳丸・・・見張り不十分,音響信号不履行(一因)

裁決主文

 本件衝突は,天理丸が,見張り不十分で,ほぼ静止して漁ろうに従事している栄徳丸を避けなかったことによって発生したが,栄徳丸が,見張り不十分で,避航を促す音響信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年6月23日16時57分
 福岡県部埼南東方沖合
 (北緯33度56.5分 東経131度02.3分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船天理丸 漁船栄徳丸
総トン数 4.8トン 3.9トン
登録長 10.62メートル 10.21メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 15 50

3 事実の経過
 天理丸は,小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,平成14年2月交付の二級小型船舶操縦士(5トン限定)の免状を受有するA受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成17年6月23日09時00分北九州市門司区白野江の定係地を発し,同区部埼沖合3海里付近の漁場における7時間ばかりの操業で,ぐち,しゃこ及びえびなど約30キログラムを獲たのち帰途に就いた。
 16時30分A受審人は,部埼灯台から079度(真方位,以下同じ。)3.0海里の地点で,針路を234度に定め,機関を半速力前進にかけ,6.5ノットの対地速力で,自動操舵により進行した。
 A受審人は,部埼沖合の推薦航路をこれに沿って東行中の他船を認めたので,減速して避航しながら航行を続け,16時52分少し過ぎ部埼灯台から121.5度1.4海里の地点に達したとき,推薦航路を航行中の他船を替わったことから,機関を6.5ノットの速力に戻し,揚網時袋網に入っていたいかかごを港まで持ち帰ると処分に困るので,陸から離れた海に処分することとした。
 このとき,A受審人は,正船首方950メートルのところに,船首を南東方に向け,ほぼ静止している栄徳丸を視認できる状況であったが,一瞥したのみで前方に他船はいないものと思い,正船首方の栄徳丸を見落とさないよう,前路の見張りを十分に行わなかったので,同船の存在に気付かず,漁具のある船尾甲板に赴いた。
 その後A受審人は,いかかごを袋網から取り出すことに夢中となり,所定の形象物を掲げていないものの,接近するに従い揚網中の流し刺網の視認模様から,ほぼ静止して漁ろうに従事していることが分かる栄徳丸に衝突のおそれのある態勢で接近したが,同船を避けることなく続航した。
 天理丸は,同じ針路,速力のまま進行し,16時57分部埼灯台から143度1.3海里の地点において,その船首部が栄徳丸の左舷側中央部に後方から84度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は上げ潮の初期であった。
 また,栄徳丸は,まながつお流し刺網漁業に従事するFRP製漁船で,平成17年3月交付の一級小型船舶操縦免許証を受有するB受審人ほか1人が乗り組み,操業の目的で,船首0.30メートル船尾0.84メートルの喫水をもって,同日12時00分福岡県柄杓田漁港を発し,部埼沖合の漁場に向かった。
 B受審人は,12時30分前示漁場に至り,漁ろうに従事する船舶の形象物を掲げないで,長さ300メートル幅16メートルの流し刺網を用い,1回の投網に約15分,揚網に約45分の各時間を要する漁を始め,移動しながら操業を続けた。
 16時27分B受審人は,衝突地点付近で,船首を南東方に向け,主機を中立運転として漂泊したのち,船首甲板上に備えた揚網機により左舷側からの揚網作業を開始した。
 16時52分少し過ぎB受審人は,船首を150度に向け,網の荷重でわずかに移動し,ほぼ静止した状態で,船首甲板上において甲板員と揚網作業を行っていたとき,左舷船尾84度950メートルのところに,自船に向首する天理丸を視認することができ,その後避航動作をとらないまま衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが,折から,揚網中の網に多量のくらげが掛かり,それを取り除くことに気を取られ,周囲の見張りを十分に行わなかったので,天理丸の存在と接近状況に気付かなかった。
 B受審人は,自船に向首接近する天理丸に対し,機関室入り口付近に備えていた笛を吹くなど,避航を促す音響信号を行うことなく,揚網を続け,16時57分わずか前左舷至近に迫った天理丸を初めて認めたがどうすることもできず,栄徳丸は,船首を150度に向けたまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,天理丸は,船首外板に擦過傷を,栄徳丸は,左舷中央部外板に亀裂を伴う損傷をそれぞれ生じたが,のち修理され,B受審人が10日間の治療を要する腰部捻挫及び左上腕部挫傷を負った。

(海難の原因)
 本件衝突は,福岡県部埼南東方沖合において,西行中の天理丸が,見張り不十分で,ほぼ静止して漁ろうに従事している栄徳丸を避けなかったことによって発生したが,栄徳丸が,見張り不十分で,避航を促す音響信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,福岡県部埼南東方沖合において,単独で船橋当直に就いて西行する場合,正船首方の栄徳丸を見落とさないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,一瞥したのみで前方に他船はいないものと思い,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,正船首方でほぼ静止して漁ろうに従事している栄徳丸の存在に気付かず,同船を避けないまま進行して衝突を招き,自船の船首外板に擦過傷を,栄徳丸の左舷中央部外板に亀裂を伴う損傷を生じさせ,また,B受審人に腰部捻挫及び左上腕部挫傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,福岡県部埼南東方沖合において,ほぼ静止して流し刺網による漁ろうに従事する場合,自船を避けないまま接近する天理丸を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,多量に掛かったくらげを揚網中の網から取り除くことに気を取られ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,天理丸の存在と接近状況に気付かず,避航を促す音響信号を行わないまま操業を続けて衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせたほか,自らも前示の傷を負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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