(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年5月24日12時55分
福岡県大島西方沖合
(北緯33度55.6分 東経130度18.8分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船蛭子丸 |
モーターボートいいこう |
総トン数 |
4.8トン |
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全長 |
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9.00メートル |
登録長 |
11.72メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
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58キロワット |
漁船法馬力数 |
70 |
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3 事実の経過
蛭子丸は,昭和62年4月に進水したFRP製漁船で,船体中央やや後方の操舵室にレーダー,GPSプロッター及び魚群探知機を備え,A受審人(昭和49年9月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,いか樽流し漁の目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成17年5月24日03時00分福岡県鐘崎漁港を発し,同県大島西方沖合8海里ばかりの漁場に向かった。
A受審人は,04時30分前示漁場に至って操業したのち,12時40分筑前大島灯台(以下「大島灯台」という。)から278度(真方位,以下同じ。)6.9海里の地点を発進し,GPSプロッターの画面を見て針路を大島北端の長瀬鼻北方沖合0.7海里に向く090度に定め,機関を半速力前進にかけ,8.0ノットの対地速力で,操舵室の右舷窓際に立ち,自動操舵によって帰途に就いた。
定針後,A受審人は,右舷方に散在する他の漁業組合所属いか釣り漁船6ないし7隻を認め,翌日の操業の参考にする積もりで,その操業場所などの様子を窺い,ときどき前方を見ながら進行した。
12時51分A受審人は,大島灯台から281度5.5海里の地点に達したとき,正船首方1,000メートルのところに,船首を南東方に向け漂泊しているいいこうが存在し,その後同船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近していたが,右舷方のいか釣り漁船のみを見ていて船首方の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,漂泊中のいいこうを避けずに続航中,12時55分大島灯台から282度5.0海里の地点において,蛭子丸は,原針路,原速力のまま,その船首が,いいこうの右舷前部に,後方から45度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力1の北西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で,視界は良好であった。
また,いいこうは,限定沿海区域を航行区域とするFRP製モーターボートで,船体後部の操舵室にGPSプロッター,磁気コンパス及び舵輪を装備し,同室の前方に生けす及び物入れが設けられており,B受審人(平成15年8月小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,いか釣りの目的で,船首0.1メートル船尾0.8メートルの喫水をもって,平成17年5月24日07時00分福岡県遠賀川河口付近の係留地を発し,大島西方沖合5海里ばかりの釣り場に向かった。
B受審人は,08時00分前示釣り場に至り,船尾から直径2メートルのパラシュート型シーアンカー(以下「シーアンカー」という。)を投入し,アイ加工した曳索先端を右舷船尾たつにかけ,引揚げ綱を左舷船尾たつに結び付け漂泊して呼び笛の付いた救命胴衣を着用のうえ,手釣りを始めた。
B受審人は,約1時間に1回の割合で潮上りを繰り返し,12時42分周囲に釣り船が散在している前示衝突地点付近で,シーアンカーを投入し,船首を南東方に向け機関を停止して漂泊を開始し,ときどき周りを見回しながら,50ないし60メートルの釣り糸を両舷に各2本ずつ繰り出して手釣りを続行した。
12時51分B受審人は,前示衝突地点で,折からの風潮流の影響により船首が135度に向いた状態で漂泊していたとき,右舷船尾45度1,000メートルのところに,蛭子丸が存在し,その後自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近していたが,釣り糸の魚信に気を取られ,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かなかった。
12時53分B受審人は,蛭子丸が自船に向首したまま,500メートルとなり自船を避けずに接近していたが,依然,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,そのことに気付かず,シーアンカーを解き放し,機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続け,12時55分わずか前B受審人は,左舷中央付近で左舷方を向いて立ち,魚信のあった釣り糸を手繰っていたとき,他船の機関音を聞いて船尾方を振り向いたところ,至近に迫った蛭子丸を視認し,衝突の危険を感じて操舵室右舷後方まで移動した直後,いいこうは,135度に向首したまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,蛭子丸は損傷がなく,いいこうは,右舷前部外板に破口を生じ,蛭子丸により大島北方沖合まで曳航されたのち,自力で鐘崎漁港に入港した。
(海難の原因)
本件衝突は,福岡県大島西方沖合において,漁場から帰港中の蛭子丸が,見張り不十分で,前路でシーアンカーを投入して漂泊中のいいこうを避けなかったことによって発生したが,いいこうが,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,大島西方沖合において,漁場から帰港する場合,前路で漂泊中の他船を見落とさないよう,船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,右舷方のいか釣り漁船のみを見ていて船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路でシーアンカーを投入して漂泊中のいいこうに気付かず,同船を避けずに進行して衝突を招き,いいこうの右舷前部外板に破口を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,大島西方沖合において,いか釣りの目的で,シーアンカーを投入して漂泊する場合,周囲に釣り船が散在していたことから,自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する他船を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,釣り糸の魚信に気を取られ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する蛭子丸に気付かず,シーアンカーを解き放し,機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けて衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。