(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年12月7日05時01分38秒
山口県六連島北西方沖合
(北緯34度01.433分 東経130度50.395分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
押船第一〇八金栄丸 |
バージ第一〇八金栄丸 |
総トン数 |
170トン |
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全長 |
26.50メートル |
95.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
1,471キロワット |
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船種船名 |
貨物船ジェイ エフ イー−1 |
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総トン数 |
9,914トン |
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全長 |
105.50メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
3,236キロワット |
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(2) 設備及び性能等
ア 押船第一〇八金栄丸
第一〇八金栄丸(以下「金栄丸」という。)は,平成9年10月に進水した船首船橋型鋼製押船で,船首から4メートル(m)後方の甲板下に機関室,同室上部に甲板上高さ12mの船橋楼,同楼最上層に操舵室をそれぞれ設け,同室中央窓際には磁気コンパス,その後方にジャイロコンパス内蔵の操舵スタンド,同スタンドの右舷側にはGPSプロッター及び主機遠隔操縦装置を,左舷側にはレーダー2台をそれぞれ設置していた。また,船体両舷の前後部に油圧で駆動する連結装置を装備していた。
イ バージ第一〇八金栄丸
第一〇八金栄丸(以下「バージ」という。)は,平成9年に建造された,貨物倉容積3,000立方メートルの非自航式鋼製採砂バージで,船首から13mのところに前部マストを,71mのところに後部マストを備え,両マストの上部にマスト灯を設置し,船体中央には長さ30m幅17m深さ7.8mの貨物倉を設け,同倉前方には旋回式のジブクレーンを,後方には海砂採取装置及び船員室を備え,船尾中央の押船結合用凹部に金栄丸の船体を16m嵌合し,航行中,金栄丸とバージとが相対運動して両船の船首尾がずれることがなく,堅固に結合されて全長105.5mの押船列(以下「金栄丸押船列」という。)を形成し,主として山口県オイト島と蓋井島沖の海砂採取場の間で砂利等の輸送に従事していた。
ウ ジェイ エフ イー−1
ジェイ エフ イー−1(以下「ジ号」という。)は,平成15年に進水した,2機2軸の船尾船橋型鋼製貨物船で,大韓民国(以下「韓国」という。)のポハン港若しくはプサン港と岡山県水島港との間で鉄鋼製品の輸送に従事していた。
船体は,船首から順に,船首バラストタンク,サイドスラスタ室,貨物倉,機関室,清水タンク及び舵機室となっており,同倉両舷に1番から4番までの各バラストタンク,同倉後方に燃料油タンク,機関室上部に船橋を配置していた。
バラストコンディションで12.2ノットの航海速力状態における旋回性能は,舵角35度で右転したときの最大縦距が300m,旋回横距が40mで,左転したとき最大縦距が270m,旋回横距が40mであった。また,同状態でのクラッシュストップアスターンテストでは,速力0ノットまで5分00秒を要し,進出距離は1,060mとなっていた。
船橋の前部窓際には,右舷側から昼間信号灯,無線電話機,レピータコンパス,汽笛信号スイッチ及び無線電話機を備え,同窓際から後方約1mには,右舷側からGPSプロッター,レーダー2台,ジャイロコンパス内蔵の操舵スタンド及び主機遠隔操縦装置を設置していた。
また,船橋右舷後部にE社製の航海情報記録装置(機種形式VR-5000,以下「VDR」という。)を設置し,同装置の内蔵記憶媒体に,船橋内の可聴音,1号レーダーの画像,無線電話機の通信音声,GPSの世界時刻,緯度,経度,実効針路及び対地速力並びにジャイロコンパスの船首方向などの情報を時系列データとして記録していたが,2号レーダーは同装置と接続していなかった。
3 本件発生海域及び関門海峡位置通報制度
本件発生海域は,六連島北西方沖合で,同海域は関門港に入出港し,また関門海峡を通過する船舶が輻輳(ふくそう)する海域であり,このため,総トン数3,000トン以上の船舶が関門航路西口に入航するときは,六連島北位置通報ライン(以下「MNライン」という。)通過予定時刻の3時間前までに関門海峡海上交通センター(以下「関門マーチス」という。)に対して通報する旨の海上保安庁による航行安全指導が出されていた。
4 事実の経過
金栄丸は,船長F,A受審人及びB指定海難関係人ほか4人が乗り組み,海水バラスト2,500トンを積載して船首5.0m船尾5.4mの喫水となったバージの船尾凹部に,船首部を嵌合して金栄丸押船列を構成し,砂利採取の目的で,船首4.5m船尾5.0mの喫水をもって,平成17年12月5日04時30分山口県オイト島の海砂揚地を発し,蓋井島灯台西方沖合の海砂採取場に向かった。
ところで,F船長は,船橋当直を,航行海域別に割り振り,出港操船に引き続き大畠瀬戸を抜けるまでを自らが,続いて祝島付近までをA受審人が,その後宇部沖までを甲板員が,そして同沖から海砂採取場までを自らがそれぞれ受け持ち,機関部作業に支障のない限り各直に機関部乗組員を配して2人当直の3直制としていた。また,響灘が荒天の折には六連島東方沖合に投錨避泊し,天候回復後に海砂採取場に向かう際は,揚錨作業終了後の操船をA受審人に任せていた。
同日13時50分F船長は,響灘のうねりが高く海砂の採取は困難と判断して六連島灯台から125度(真方位,以下同じ。)1.5海里に投錨避泊し,越えて7日04時35分揚錨ののち,法定の灯火を表示して海砂採取場に向けて進行を始め,04時41分揚錨作業を終えて昇橋したA受審人に,他船の動向に注意して航行するよう指示して当直を引き継いだのち降橋した。
A受審人は,2台装備したレーダーのうち,操舵スタンド寄りの1号レーダーのみを作動させ,レーダー画面を1.5海里レンジでヘッドアップ状態として関門航路を北上し,04時45分大藻路岩灯標から107度3.5海里の同航路西口に差し掛かったとき,機関室作業を終えて昇橋したB指定海難関係人から左舷船首30度6海里ばかりに紅灯を見せた反航船3隻(以下「反航船群」という。)が視認できる旨の報告を受け,そのうちの1隻であるジ号を初めて認めたものの,同船を一瞥(いちべつ)して左舷を対して無難に替わると思い,その後,レーダーを監視するなどして同船の動静監視を十分に行わず,船首方の錨泊船を避けることに集中して続航した。
04時52分少し前A受審人は,大藻路岩灯標から091度2.8海里の地点で,針路を318度に定め,機関を全速力前進にかけ10.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)とし,操舵スタンド後方のいすに腰掛けた姿勢で見張りに当たり,自動操舵により進行した。
定針したとき,金栄丸押船列の前方には,左舷船首6度2.1海里,左舷船首7度1.3海里,右舷船首14度1.3海里,左舷船首5度0.7海里及び右舷船首42度0.4海里のところにそれぞれ明るい灯火をつけた錨泊船(以下「錨泊船群」という。)が存在し,A受審人は,錨泊船群を避けるために右転すると,北西からのうねりを船横方向から受けて船体の横揺れが大きくなることから,同うねりを船首方向から受けて海砂採取場に向かう針路(以下「目的の針路」という。)とするため,左舷船首5度0.7海里の錨泊船を左舷側に替わしたのち目的の針路まで左転し,左舷船首7度1.3海里の錨泊船の南側を航過することとした。
04時56分少し過ぎA受審人は,大藻路岩灯標から076度2.3海里の地点に達したとき,左舷船首13度1.8海里のところに3隻の反航船群のうち最後尾を航行するジ号が南東進中であったが,依然としてジ号が無難に替わると思い,レーダーを監視するなどしてその動静監視を十分に行っていなかったので,左転を始め,04時58分30秒大藻路岩灯標から068.5度2.0海里の地点に達し,針路を277度に転じて右舷船首25度1.0海里のジ号と新たな衝突の危険のある関係を生じさせ,このとき右舷船首30度200mの錨泊船の陰から現れたジ号の紅灯を視認したものの,機関を全速力後進にかけて行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
05時00分38秒A受審人は,ジ号から昼間信号灯の照射を受けて衝突の危険を感じ,直ちに手動操舵に切り替えて舵角60度の右舵一杯とし,05時00分48秒大藻路岩灯標から062度1.66海里の地点で右回頭を始め,05時01分38秒大藻路岩灯標から058.5度1.63海里の地点で,金栄丸押船列は,回頭に伴う減速で7.3ノットの行きあしとなり,船首が026度に向いたとき,バージの左舷中央部船尾寄りにジ号の船首が前方から60度の角度で衝突した。
当時,天候は曇で風力5の西北西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期にあたり,視界は良好であった。
F船長は自室で休息中,船体に衝撃を感じて直ちに昇橋し,ジ号と衝突したことを知り,事後の措置に当たった。
また,ジ号は,C及びD両指定海難関係人のほかフィリピン共和国国籍の船員15人が乗り組み,空倉のまま,海水バラスト5,800トンを積載し,船首3.5m船尾5.1mの喫水をもって,平成17年12月6日17時00分プサン港を発し,水島港に向かった。
ところで,C指定海難関係人は,船橋当直を,00時から04時の時間帯を二等航海士に,04時から08時の時間帯をD指定海難関係人に,及び08時から12時の時間帯を三等航海士にそれぞれ割り振り,各直に甲板員をつけた2人当直の4時間交替3直制とし,入出港時及び狭水道通航時は自らが操船指揮を執ることとしていた。
C指定海難関係人は,平素からMNライン通過予定時刻の15分前ごろ,同ラインまで1ないし2.5海里の海域で自らを起こすようD指定海難関係人に指示しており,同海域では船舶が輻輳することを知っていたが,同海域に至る前に自ら操船指揮を執ることができるよう,船長起こしの地点を明確に指示しなかった。
出港後,C指定海難関係人は,関門マーチスにMNライン通過予定時刻を翌7日05時00分と通報し,その後,20時からの船橋当直に就いていた三等航海士に対し口頭で,予定より早く同ラインを通過することのないよう,機関の回転を微調整することを各当直航海士に申し送る指示をしたのち降橋し,自室で休息した。
翌7日04時00分D指定海難関係人は,船橋当直に就き,法定灯火を表示して関門航路西口に向けて南東進し,MNラインを05時00分過ぎに通過するよう調節を行ったのち,04時50分大藻路岩灯標から003度2.4海里の地点で,針路を140度に定め,10.0ノットの速力で,自動操舵によって進行し,このとき,レーダー画面上で左舷船首8度3.9海里のところに金栄丸押船列の映像を認めたものの,同押船列が自船の左舷船首方の錨泊船群に向かっており無難に替わる態勢であったことから,同じ針路及び速力で続航した。
04時56分少し過ぎD指定海難関係人は,大藻路岩灯標から027度1.7海里の地点に差し掛かったとき,金栄丸押船列が左舷船首15度1.7海里のところに接近し,その後左転を始めたが,レーダーを監視しておらず,同押船列が左舷船首方の錨泊船の陰に隠れていたため,このことに気付かず,04時58分30秒大藻路岩灯標から039度1.6海里の地点に達し,左舷船首20度1,500mの錨泊船の陰から,左舷船首18度1.0海里のところに現れた金栄丸押船列の白,白,緑3灯を視認し,その後自船と新たな衝突の危険のある関係が生じているのを認めたが,警告信号を行わず,機関を全速力後進にかけて行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとることもなく進行した。
05時00分38秒D指定海難関係人は,大藻路岩灯標から052度1.6海里の地点で,金栄丸押船列が左舷船首11度690mのところに迫り衝突の危険を感じ,同押船列に対して昼間信号灯を点滅し,同押船列を避けるつもりで左舵10度をとったが,その後,同押船列の紅灯を視認して同押船列が右回頭していることに気付き,慌てて右舵一杯をとったものの及ばず,ジ号は,146度に向首したとき,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
C指定海難関係人は自室で休息中,船体に衝撃を感じて直ちに昇橋し,金栄丸押船列と衝突したことを知り,事後の措置に当たった。
衝突の結果,金栄丸は連結装置に損傷を,バージは左舷外板に破口を,甲板上の荷役関連設備に圧壊を,及び機関室に浸水をそれぞれ生じ,ジ号は船首部外板に破口を伴う凹損を生じたが,のちいずれも修理された。
(航法の適用)
本件衝突は,夜間,山口県六連島北西方沖合において,西行する金栄丸押船列と南東進するジ号とが衝突したもので,衝突地点は海上交通安全法及び港則法の適用外であるから,一般法である海上衝突予防法によって律することとなり,以下その適用航法について検討する。
金栄丸押船列が04時56分少し過ぎに左転を始めるまでは,そのままの針路及び速力で進行すれば,その後互いに左舷を対して800mばかり離れて無難に航過する状況であった。04時58分30秒同押船列は,針路を277度に転じ,ジ号の前路を横切る態勢となり,その後1分間に金栄丸押船列から見たジ号の方位は,右方に3度変化しており,両船がそのままの針路速力で航行していれば,同押船列はジ号の前路260mばかりの距離を航過する状況であったが,この航過距離は,両船の大きさ,見合い関係,操縦性能及び速力からして,無難に航過する距離とは認められず,両船間の距離が1海里を切る状況においては,1分間に3度の方位変化をもって衝突のおそれがないとはいえないことから,同法第15条横切り船の航法の適用が考えられるが,このとき同押船列の右前方には錨泊船が存在していたため,針路を右に転じることができず,行動の自由を制約されていたこと,また,両船の大きさ,操縦性能及び速力から,その後衝突までの3分間に,通常の運航方法をもって避航動作をとるために十分な距離的,時間的余裕があったとはいえないことから,同法第15条を適用するのは妥当ではない。
一方,ジ号は,衝突1分前に金栄丸押船列に対して避航を促す目的で昼間信号灯を照射したのち左舵10度をとったが,このときジ号が右舵一杯をとっていれば,同船の操縦性能から衝突を回避できた可能性があった。
したがって,金栄丸押船列が衝突3分前に針路を転じたことによって新たな衝突の危険のある関係を生じさせ,両船が衝突を避けるための措置をとることなく衝突に至ったことから,同法第38条,第39条の船員の常務によって律するのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 金栄丸押船列
(1)A受審人が,ジ号を初認したとき一瞥して無難に替わると思い,その後,レーダーを監視するなどして同船の動静監視を十分に行わなかったこと
(2)A受審人が,左転して新たな衝突の危険のある関係を生じさせたこと
(3)A受審人が,機関を全速力後進にかけて行きあしを止めるなどの衝突を避けるための措置をとらなかったこと
2 ジ号
(1)C指定海難関係人が,船舶の輻輳する海域に至る前に自ら操船指揮を執ることができるよう,船長起こしの地点を明確に指示しなかったこと。
(2)D指定海難関係人が,警告信号を行わなかったこと
(3)D指定海難関係人が,機関を全速力後進にかけて行きあしを止めるなどの衝突を避けるための措置をとらなかったこと
3 その他
(1)明るい灯火をつけた錨泊船が多数存在したこと
(2)両船が互いに錨泊船の陰に隠れ,相手船の視認が困難であったこと
(原因の考察)
本件は,金栄丸押船列が,ジ号の動静監視を十分に行い,左転して新たな衝突の危険のある関係を生じさせなかったら,発生に至らなかったと認められる。
したがって,A受審人が,ジ号を初認したとき一瞥して無難に替わると思い,その後,レーダーを監視するなどして同船の動静監視を十分に行わず,左転して新たな衝突の危険のある関係を生じさせたばかりか,衝突を避けるための措置をとらなかったことは本件発生の原因となる。
一方,ジ号が,金栄丸押船列が左転して新たな衝突の危険のある関係を生じさせて接近したとき,警告信号を行い,行きあしを止めるなどの衝突を避けるための措置をとっていれば,本件は発生を防止できたものと認められる。
したがって,D指定海難関係人が,金栄丸押船列が左転して新たな衝突の危険のある関係を生じさせて接近したとき,警告信号を行わず,機関を全速力後進にかけて行きあしを止めるなどの衝突を避けるための措置をとらなかったことは本件発生の原因となる。
C指定海難関係人が,船舶の輻輳する海域に至る前に自ら操船指揮を執ることができるよう,船長起こしの地点を明確に指示しなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
明るい灯火をつけた錨泊船が多数存在したこと及び両船が互いに錨泊船の陰に隠れ,相手船の視認が困難であったことは,この海域では起こり得る現象であり,このような条件を克服しながら安全運航を確保するのが運航者の務めであることから,原因との関連を求めるのは理由がなく,本件発生の原因とならない。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,山口県六連島北西方沖合において,金栄丸押船列が,動静監視不十分で,無難に航過する態勢のジ号に対し,左転して新たな衝突の危険のある関係を生じさせたばかりか,衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが,ジ号が,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人等の所為)
A受審人は,夜間,山口県六連島北西方沖合において,無難に航過する態勢のジ号を認めたのち,海砂採取場に向けて針路を転じる場合,新たな衝突の危険のある関係を生じることのないよう,ジ号の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,同船を初認したとき一瞥して無難に替わると思い,その後,レーダーを監視するなどして同船の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,左転して新たな衝突の危険のある関係を生じさせたばかりか,衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き,金栄丸の連結装置に損傷を,バージの左舷外板に破口を,甲板上の荷役関連設備に圧壊を,及び機関室に浸水をそれぞれ生じ,ジ号の船首部外板に破口を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
D指定海難関係人が,夜間,山口県六連島北西方沖合において関門航路西口に向けて南東進中,金栄丸押船列が新たな衝突の危険のある関係を生じさせて接近するのを認めた際,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
D指定海難関係人に対しては勧告しないが,他船が新たな衝突の危険のある関係を生じさせて接近するのを認めた際は,警告信号を行い,機関を全速力後進にかけて行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとるよう努めなければならない。
B指定海難関係人の所為は,本件発生の原因とならない。
C指定海難関係人の所為は,本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図1
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参考図2
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