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平成17年広審第152号
件名

油送船幸秀丸漁船年栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年8月17日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(野村昌志,内山欽郎,藤岡善計)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:幸秀丸一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)(旧就業範囲)
補佐人
a
受審人
B 職名:年栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
幸秀丸・・・球状船首部に擦過傷
年栄丸・・・船首部に圧壊

原因
幸秀丸・・・見張り不十分,各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
年栄丸・・・警告信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は,幸秀丸が,見張り不十分で,漁ろうに従事する年栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが,年栄丸が,警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年2月9日20時06分
 瀬戸内海安芸灘南方海域
 (北緯34度0.3分 東経132度44.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 油送船幸秀丸 漁船年栄丸
総トン数 1,495トン 4.99トン
全長 84.00メートル  
登録長   10.62メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,206キロワット  
漁船法馬力数   15
(2)設備及び性能等
ア 幸秀丸
 幸秀丸は,平成5年11月に進水した船尾船橋型の鋼製油送船で,操舵室の前方中央に操舵スタンドが,その左舷側にレーダー2台が,右舷側に主機及びバウスラスター操縦盤がそれぞれ設置されていた。
イ 年栄丸
 年栄丸は,昭和57年4月に進水し,船体中央部に操舵室を設けた小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,後部甲板上に揚網機及び揚網用マストが備えられていた。
 年栄丸の底びき網漁業は,袋網後端から袖網先端まで長さ約25メートルの網に,両袖網からそれぞれ長さ40メートルほどの合成繊維索及び水深などを考慮して適宜の長さに延ばした鋼製の曳索を繋いで海底を曳くもので,曳網中は漁具により操縦性能が制限される状況にあった。

3 事実の経過
 幸秀丸は,A受審人ほか7人が乗り組み,灯油620キロリットル及び軽油2,535キロリットルを積載し,船首4.2メートル船尾6.1メートルの喫水をもって,平成17年2月9日14時10分香川県坂出港を発し,関門港に向かった。
 幸秀丸は,船橋当直体制を,2人ずつ4時間交替の3直制とし,A受審人が船長とともに08時から12時及び20時から24時まで入直していた。
 19時40分A受審人は,安芸灘南航路第3号灯浮標付近で昇橋し,前直者から通航船舶及び操業漁船が多いことなどを口頭で引き継ぎ,来島海峡通航時から在橋していた船長とともに当直に就き,航行中の動力船の掲げる灯火を表示し,3海里レンジ及び6海里レンジとした2台のレーダーをそれぞれ作動させて安芸灘南推薦航路を南下した。
 19時44分A受審人は,波妻ノ鼻灯台から027度(真方位,以下同じ。)3.9海里の地点に達したとき,針路を安芸灘南推薦航路に沿う221度に定め,機関を全速力前進にかけ,11.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で自動操舵により進行した。
 20時00分A受審人は,書類整理などのため降橋した船長から単独の当直を任せられ,視界が良かったので専ら目視による見張りを行っていたところ,右舷船首約20度3海里ほどに3隻の船舶の灯火を視認し,その後操舵スタンドの左舷側に立ってこれらの船舶の動静を監視しながら続航した。
 20時02分A受審人は,波妻ノ鼻灯台から329度1.0海里の地点に達したとき,右舷船首4度0.9海里のところに,トロールにより漁ろうに従事する年栄丸が表示した白,紅2灯及び緑,白2灯を視認することができる状況であったものの,右舷方の船舶に気をとられ,前路の見張りを十分に行わなかったので,これに気付かず,20時05分波妻ノ鼻灯台から297度1.0海里の地点に至り,右舷方の1隻の船舶が左舷灯を見せたことから,同船を替わすつもりで,針路を10度右に転じて231度としたところ,年栄丸を左舷船首1度420メートルに認め得る状況となり,同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが,依然として,見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,年栄丸の進路を避けずに進行した。
 こうしてA受審人は,その後も右舷方ばかりを見て続航中,20時06分波妻ノ鼻灯台から287度1.1海里の地点において,幸秀丸は,原針路原速力のまま,その左舷船首部に年栄丸の船首部が前方から5度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の南西風が吹き,潮候は上げ潮の末期にあたり,視界は良好であった。
 A受審人は,衝突に気付かないまま釣島水道を航行中,海上保安部から衝突の事実を指摘され,船長とともに事後の措置にあたった。
 また,年栄丸は,B受審人ほか1人が乗り組み,操業の目的で,船首0.2メートル船尾0.8メートルの喫水をもって,同日14時00分愛媛県浅海漁港を発し,波妻ノ鼻西方2海里ばかり沖合の漁場に向かった。
 B受審人は,15時ごろ前示の漁場に到着して操業を開始し,3時間ばかり曳網して揚網したのち,2回目の投網をすることとした。
 19時36分B受審人は,波妻ノ鼻灯台から257度1.8海里の,水深40メートルばかりの地点で投網して曳索を200メートルばかり延ばし,航行中の動力船の灯火に加えトロールにより漁ろうに従事する船舶の灯火を表示し,針路を046度に定め,機関を回転数毎分1,500にかけ,2.0ノットの速力で,手動操舵により進行した。
 19時54分B受審人は,波妻ノ鼻灯台から272度1.3海里の地点に達したとき,左舷船首4度2.7海里のところに,幸秀丸の表示する白,白,緑3灯を初認し,その後同船の動静を監視しながら続航した。
 20時05分B受審人は,幸秀丸が右舷船首4度420メートルとなったとき,同船が右転したのに気付き,その後幸秀丸が衝突のおそれのある態勢で自船の進路を避けずに接近するのを認めたが,そのうち避けてくれるものと思い,速やかに警告信号を行わずに進行した。
 こうしてB受審人は,漁ろうに従事中,間近に迫った幸秀丸に衝突の危険を感じて機関を停止したものの及ばず,年栄丸は,原針路原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,幸秀丸は,球状船首部に擦過傷を生じ,年栄丸は,船首部を圧壊したが,のち修理された。

(航法の適用)
 本件は,安芸灘南方海域において,南下する動力船の幸秀丸と,北上しながらトロールにより漁ろうに従事する年栄丸とが衝突したものであり,適用される航法について検討する。
 安芸灘南方海域は,海上交通安全法が適用される海域であるが,同法には,本件に対し適用する航法がないので,海上衝突予防法を適用し,両船の運航模様から,海上衝突予防法第18条第1項によって律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 幸秀丸
(1)A受審人が右舷方の船舶に気をとられ,前路の見張りを十分に行っていなかったこと
(2)年栄丸の進路を避けなかったこと

2 年栄丸
(1)安芸灘南推薦航路付近でトロールにより漁ろうに従事していたこと
(2)衝突のおそれのある態勢で自船の進路を避けずに接近する幸秀丸を認めた際,そのうち避けてくれるものと思い,速やかに警告信号を行わなかったこと

(原因の考察)
 本件は,幸秀丸が見張りを十分に行っていれば,前路でトロールにより漁ろうに従事している年栄丸に気付き,次いで衝突のおそれのある態勢で接近している同船の進路を避けることにより,衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,右舷方の船舶に気をとられ,前路の見張り不十分で,年栄丸の進路を避けなかったことは本件発生の原因となる。
 一方,年栄丸が,警告信号を行っていれば,幸秀丸が自船の存在及び衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付き,自船との衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,B受審人が,衝突のおそれのある態勢で自船の進路を避けずに接近する幸秀丸を認めた際,そのうち避けてくれるものと思い,速やかに警告信号を行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 B受審人が,安芸灘南推薦航路付近でトロールにより漁ろうに従事していたことは,他の船舶の通航を妨げていないことから,原因とするまでもない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,安芸灘南方海域において,南下中の幸秀丸が,見張り不十分で,トロールにより漁ろうに従事する年栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが,年栄丸が,警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,安芸灘南方海域において,単独の当直に就いて南下する場合,前路の他船を見落とすことのないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,右舷方の船舶に気をとられ,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路でトロールにより漁ろうに従事する年栄丸を見落とし,同船の進路を避けることなく進行して年栄丸との衝突を招き,幸秀丸の球状船首部に擦過傷を生じさせ,年栄丸の船首部を圧壊させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。
 B受審人は,夜間,安芸灘南方海域において,トロールにより漁ろうに従事中,衝突のおそれがある態勢で自船の進路を避けずに接近する幸秀丸を認めた場合,速やかに警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,そのうち避けてくれるものと思い,速やかに警告信号を行わなかった職務上の過失により,同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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