(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年6月15日15時36分
瀬戸内海備讃瀬戸
(北緯34度22.6分 東経133度49.3分)
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船愛光丸 |
総トン数 |
498トン |
全長 |
63.89メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
愛光丸は,平成4年6月に進水した鋼製油送船で,A受審人ほか4人が乗り組み,空倉のまま,船首0.4メートル船尾3.2メートルの喫水をもって,同17年6月15日13時40分岡山県岡山港を発し,愛媛県菊間港へ向かった。
14時57分半A受審人は,犬戻鼻灯標から143度(真方位,以下同じ。)300メートルの地点に達したとき,前直の船長から船橋当直を引き継ぎ,備讃瀬戸東航路を経て備讃瀬戸北航路へ向かう予定で,針路を233度に定め,機関を全速力前進の回転数毎分340にかけ,12.0ノットの対地速力で,自動操舵によって進行した。
ところで,A受審人は,前日14日21時40分に和歌山下津港に入港し,直ちに着桟して22時10分から積荷を始め,翌15日01時20分に積荷を終えて01時35分に出港した後,鳴門海峡を経由して08時40分に岡山港に入港したのであるが,同港においても沖待ちすることなく,直ちに着桟して09時00分から揚荷を始め,13時30分に貨油全量を揚げ終わって13時40分に出港したことから,その間,和歌山下津港から岡山港までの航海中,非当直時に数時間の休息を取ったものの,3日前に乗船したばかりで未だ身体が船内勤務に慣れていなかったことに起因して,疲労が蓄積していたうえ,少しばかり睡眠が不足した状態であった。
定針後,A受審人は,船橋内右舷側前面に置いてある肘掛けと背もたれの付いたいすに腰を掛け,単独で船橋当直に当たっていたところ,周囲に航行の支障となるような一般船舶や漁船を見掛けなくなったことなどから,気が緩んで眠気を催すようになり,そのままいすに腰を掛けていると居眠りに陥るおそれがあったが,これまで当直中に居眠りをしたことがなかったので,まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い,装備されている居眠り防止装置を作動させるなり,休息中の他の乗組員を呼んで2人当直とするなりして,居眠り運航を防止する措置を十分にとらなかったので,15時10分ごろ岡山県と香川県の県境に位置する大槌島を過ぎた辺りで,いつしか居眠りに陥った。
こうして,A受審人は,その後も居眠りに陥ったまま,15時31分備讃瀬戸東航路に入り,やがて,同航路に続く備讃瀬戸北航路に沿った針路に転じる地点に至ったものの,このことに気付くことなく続航中,15時36分鍋島灯台から194度790メートルの地点において,愛光丸は,原針路,原速力で,北備讃瀬戸大橋の橋脚に衝突した。
当時,天候は晴で風力3の東風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
衝突の結果,船首部及び球状船首に凹損を生じ,橋脚基部のコンクリートを損壊した。
(海難の原因)
本件橋脚衝突は,瀬戸内海備讃瀬戸において,居眠り運航の防止措置が不十分で,北備讃瀬戸大橋の橋脚へ向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,瀬戸内海備讃瀬戸において,肘掛けと背もたれの付いたいすに腰を掛け,単独で船橋当直中,周囲に航行の支障となるような一般船舶や漁船を見掛けなくなったことなどから,気が緩んで眠気を催した場合,そのままいすに腰を掛けていると居眠りに陥るおそれがあったから,居眠り運航とならないよう,居眠り防止装置を作動させるなり,休息中の他の乗組員を呼んで2人当直とするなりして,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが,同人は,これまで船橋当直中に居眠りをしたことがなかったので,まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,いつしか居眠りに陥り,北備讃瀬戸大橋の橋脚へ向首進行して同脚との衝突を招き,船首部及び球状船首に凹損を生じさせるとともに,橋脚基部のコンクリートを損壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。