(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年5月9日08時48分
広島県大奈佐美島東岸沖合
(北緯34度16.63分 東経132度22.75分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船幸力丸 |
漁船栄進丸 |
総トン数 |
2.4トン |
1.1トン |
全長 |
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8.00メートル |
登録長 |
10.15メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
114キロワット |
80キロワット |
3 事実の経過
幸力丸は,平成3年1月に進水した,刺網漁業に従事するFRP製漁船で,昭和49年11月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人ほか2人が乗り組み,刺網を揚収する目的で,船首尾とも0.4メートルの喫水をもって,平成17年5月9日06時30分広島県美能漁港を発し,同県大奈佐美島北岸沖の漁場に向かった。
08時43分A受審人は,揚収作業を終えたので帰港することにし,2人の甲板員にもつれた網の修復作業を前部甲板で行わせながら,中ノ瀬灯標から013度(真方位,以下同じ。)900メートルばかりの漁場を発進し,大奈佐美島の源兵衛鼻を30メートルばかり離して付け回し,08時46分同灯標から023.5度1,040メートルの地点で,針路をほぼ美能港内港防波堤灯台に向首する174度に定め,機関を回転数毎分1,000の半速力前進にかけ,4.0ノットの対地速力で進行した。
針路を定めたとき,A受審人は,正船首250メートルのところに,船首を北方に向け,漂泊して操業中の栄進丸を視認したが,同船の右舷側を航過できるものと思い,栄進丸を避けることなく続航した。
こうして,幸力丸は,A受審人が網の修復作業に気をとられて前部甲板に目を転じたまま進行中,08時48分中ノ瀬灯標から032度830メートルの地点において,原針路,原速力のまま,幸力丸の船首部が栄進丸の左舷船首部に前方から15度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力1の北風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
また,栄進丸は,平成4年5月に進水した,一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で,昭和50年10月に四級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.1メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,同日05時00分広島県広島港の定係地を発し,大奈佐美島周辺の漁場に向かった。
08時00分B受審人は,大奈佐美島東岸の,中ノ瀬灯標から030度900メートルばかりの漁場に至り,漂泊して操業を始め,08時46分前示衝突地点付近で,その船首が009度に向首していたとき,左舷船首15度250メートルのところに,自船に向首し,衝突のおそれがある態勢で接近する幸力丸を視認することができたが,接近する他船は漂泊中の自船を避けるものと思い,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,同船に気付かず,避航を促すための有効な音響信号を行うことも,衝突を避けるための措置をとることもなく操業を続けた。
こうして,栄進丸は,B受審人が接近する幸力丸に気付かないまま操業中,08時48分わずか前至近に迫った同船に驚き,急いで機関を後進にかけたが,及ばず,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,幸力丸は,左舷船首部外板に擦過傷を生じたが,そのままとされ,栄進丸は,左舷船首部外板に亀裂を伴う凹損を生じ,のち修理された。
(海難の原因)
本件衝突は,広島県大奈佐美島東岸沖合において,幸力丸が,漂泊して操業中の栄進丸を避けなかったことによって発生したが,栄進丸が,見張り不十分で,避航を促す有効な音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,広島県大奈佐美島東岸沖合において,刺網の揚収作業を終えて帰港中,正船首250メートルのところに漂泊して操業中の栄進丸を視認した場合,著しく接近して衝突のおそれを生じさせることのないよう,同船を避けるべき注意義務があった。しかるに,同人は,同船の右舷側を航過できるものと思い,栄進丸を避けなかった職務上の過失により,栄進丸と衝突のおそれがある態勢で接近して同船との衝突を招き,幸力丸の左舷船首部外板に擦過傷を,栄進丸の左舷船首部外板に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,広島県大奈佐美島東岸沖合において,漂泊して操業する場合,接近する他船を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,接近する他船は漂泊中の自船を避けるものと思い,周囲の見張りを十分行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある態勢で接近する幸力丸に気付かず,避航を促す有効な音響信号を行うことも,衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けて幸力丸との衝突を招き,前示損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3項を適用して同人を戒告する。