(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年5月14日08時10分
山口県徳山下松港第3区笠戸島大城岬南西方沖合
(北緯33度57.95分 東経131度50.45分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船金比羅丸 |
モーターボート菊谷丸 |
総トン数 |
2.53トン |
0.5トン |
全長 |
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6.60メートル |
登録長 |
8.40メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
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17キロワット |
漁船法馬力数 |
15 |
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3 事実の経過
金比羅丸は,昭和55年4月に進水した,船体後方に操舵区画を有するFRP製漁船で,A受審人(昭和54年11月一級小型船舶操縦士免許取得)が妻と2人で乗り組み,タコ壺漁の目的で,船首0.75メートル船尾1.80メートルの喫水をもって,平成17年5月14日04時00分徳山下松港第3区の笠戸島落の係留地を発し,同島沿岸周辺に点在する漁場を移動しながら操業を行った後,07時30分同島白浜沖合を発進して帰途についた。
A受審人は,操舵区画に備えた舵輪後方に立って操舵と見張りにあたり,笠戸島をその陸岸に沿って反時計回りに航行し,08時08分少し前同島入合山65メートル山頂(以下「入合山山頂」という。)から304度(真方位,以下同じ。)440メートルの地点で,針路を184度に定め,機関を全速力前進にかけて8.0ノットの対地速力で,手動操舵により進行した。
08時09分半A受審人は,入合山山頂から247度430メートルの地点に差し掛かったとき,正船首わずか右方120メートルのところに右舷側を見せて漂泊中の菊谷丸を初認したが,この付近で見掛ける船は,錨泊して釣りを行っていることが多いので,同船も錨泊船で移動することはなく,その船尾方至近を無難に航過できるものと思い,左舷前方にあった定置網の末端位置を示す発泡スチロール製の浮子を見ることに気を取られ,同船の動静監視を十分に行わなかったので,その後,潮流によりわずかに北東方に移動した菊谷丸と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,このことに気付かず,同船を避けないまま続航した。
08時10分わずか前A受審人は,妻の上げた大声で正船首至近に迫った菊谷丸に気付き,機関を後進にかけたが及ばず,08時10分入合山山頂から236度490メートルの地点において,金比羅丸は,原針路,原速力のまま,その船首部が,菊谷丸の右舷船尾部に後方から41度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力3の東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期にあたり,視界は良好で,衝突地点付近には微弱な北東流があった。
また,菊谷丸は,昭和59年11月に進水した,船体中央から少し後方に操舵区画を有するFRP製モーターボートで,B受審人(昭和49年12月一級小型船舶操縦士免許取得,平成16年4月一級及び特殊小型船舶操縦士免許に更新)が単独で乗り組み,釣りの目的で,船首0.1メートル船尾0.7メートルの喫水をもって,同日06時00分徳山下松港第2区の係留地を発し,笠戸島西岸沖合の釣り場に向かった。
06時20分ごろB受審人は,笠戸島ハナグリ沖合の釣り場に到着し,ときおり機関を使用して同島西岸に沿って南方に移動しながら釣りを行い,07時ごろ前示衝突地点付近に至り,機関を中立運転として漂泊を開始し,後部甲板の両舷に渡した板の右舷側で右舷船首方を向いて腰をかけ,竿釣りを開始した。
08時09分半B受審人は,船首が225度に向いていたとき,右舷船尾41度120メートルのところに,自船に衝突のおそれがある態勢で接近する金比羅丸を視認できる状況であったが,釣りに熱中して,周囲の見張りを十分に行わなかったので,同船に気付かなかった。
B受審人は,金比羅丸に対し,避航を促す音響信号を行わず,更に間近に接近しても,機関を使用して移動するなど,衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続け,08時10分わずか前ふと後方を振り返り,至近に迫った金比羅丸を認めたがどうすることもできず,菊谷丸は,225度に向首したまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,金比羅丸に損傷は生じなかったが,菊谷丸の右舷船尾部及びかんざしに損傷等を生じ,B受審人が衝突の衝撃で海中に転落し,右座骨骨折,左肩関節前方脱臼及び左前腕・左膝打撲擦過傷を負った。
(海難の原因)
本件衝突は,徳山下松港第3区の笠戸島大城岬南西方沖合において,係留地に向けて南下する金比羅丸が,動静監視不十分で,漂泊中の菊谷丸を避けなかったことによって発生したが,菊谷丸が,見張り不十分で,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,徳山下松港第3区の笠戸島大城岬南西方沖合において,係留地に向けて南下中,正船首わずか右方に漂泊中の菊谷丸を視認した場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,この付近で見掛ける船は,錨泊して釣りを行っていることが多いので,同船も錨泊船で移動することはなく,その船尾方至近を無難に航過できるものと思い,左舷前方にあった定置網の末端位置を示す発泡スチロール製の浮子を見ることに気を取られ,同船の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,潮流によりわずかに北東方に移動した菊谷丸に衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず,同船を避けることなく進行して衝突を招き,金比羅丸に損傷はなかったが,菊谷丸の右舷船尾部及びかんざしに損傷等を生じさせ,B受審人に右座骨骨折,左肩関節前方脱臼及び左前腕・左膝打撲擦過傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,徳山下松港第3区の笠戸島大城岬南西方沖合において,漂泊して釣りを行う場合,接近する他船を見落とすことがないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,釣りに熱中して,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある態勢で接近する金比羅丸に気付かず,避航を促す音響信号を行わず,更に間近に接近したとき,機関を使用して移動するなど,衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けて同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせ,自身が負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。