(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年8月11日11時26分
徳山下松港
(北緯34度02.2分 東経131度46.7分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
油送船三高丸 |
漁船京政丸 |
総トン数 |
94.35トン |
4.95トン |
全長 |
25.50メートル |
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登録長 |
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10.91メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
183キロワット |
264キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 三高丸
三高丸は,昭和57年5月に進水した船尾船橋型の燃料油補給船で,専ら徳山下松港内において,補油作業にあたり,船橋前方の上甲板上には,船首楼と前部マストがあるが見張りの妨げとなる構造物はなく,操舵室内中央前部にジャイロコンパス及び操舵スタンドを,その右舷側に主機のクラッチと回転数制御ハンドルを備えていた。また,モーターホーンが操舵室左舷側の外壁に取り付けられていた。
操縦性能は,海上試運転成績表写によれば,速力が機関を回転数毎分1,300として8.3ノットで,旋回性能は,1回転するのに左右とも旋回径約50メートルで1分15秒を要した。
イ 京政丸
京政丸は,昭和55年6月に進水したはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で,船体中央部少し後方に操舵室を有し,前部甲板にオーニングを展張していたが,見張りの妨げとなる構造物はなく,モーターホーン,レーダー及びGPSプロッタを装備していた。
速力は,機関回転数が毎分2,500のとき約20ノットで,旋回径は船の長さの3倍程度であった。
3 事実の経過
三高丸は,A受審人ほか1人が乗り組み,A重油及びC重油合計134.13キロリットルを積載し,船首2.53メートル船尾2.52メートルの喫水をもって,平成17年8月11日11時00分徳山下松港第1区内のD社E製油所小型船桟橋を発し,補油の目的で,同区内の晴海ふ頭東方沖合に錨泊中の内航船に向かった。
A受審人は,舵輪の右舷側後方に立って操船にあたり,晴海ふ頭の東側を南下したのち,その南端に沿ってつけ回し,11時20分半徳山下松港地ノ筏灯台(以下「地ノ筏灯台」という。)から187度(真方位,以下同じ。)2,500メートルの地点で,針路を補油予定船に向く354度に定め,機関を全速力前進にかけ7.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)とし,手動操舵により進行した。
11時22分A受審人は,地ノ筏灯台から189度2,200メートルの地点に差し掛かったとき,右舷船首方2,300メートルのところに晴海ふ頭北側の船溜まりから出航した京政丸を初認し,その動静を監視しながら続航した。
11時24分A受審人は,地ノ筏灯台から192度1,780メートルの地点に達したとき,京政丸が右舷船首35度1,180メートルとなり,その後,前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めたが,同船が小型の漁船で,今まで,保持船であっても小回りの効く漁船の方が,避航船である自船を避けてくれたことが何度かあったので,モーターホーンを鳴らせば自船を避けてくれるものと思い,長音1回を吹鳴しただけで,京政丸の進路を避けることなく進行した。
11時26分少し前A受審人は,京政丸の避航を期待して続航中,同船が右舷至近に迫ってようやく衝突の危険を感じ,機関回転数を減じ,左舵一杯としたが及ばず,11時26分地ノ筏灯台から198度1,380メートルの地点において,三高丸は,344度を向いたとき,原速力のまま,その右舷中央部に,京政丸の船首部が前方から61度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力3の南東風が吹き,潮候は上げ潮の末期にあたり,視界は良好であった。
また,京政丸は,B受審人が1人で乗り組み,同日早朝から操業を行ったのち,前示船溜まり内の漁業協同組合前の岸壁で水揚げを終え,船首0.20メートル船尾1.20メートルの喫水をもって,11時15分同岸壁を発し,徳山下松港内の大津島漁港に向け帰途に就いた。
11時22分半B受審人は,地ノ筏灯台から117度670メートルの地点で,針路を大津島漁港に向く225度に定め,機関を回転数毎分2,000にかけ14.0ノットの速力とし,前部甲板で右舷船首方を向いて,立った姿勢で漁具の補修作業を行いながら,遠隔操縦器を手元に置き,自動操舵により進行した。
11時23分B受審人は,地ノ筏灯台から129度620メートルの地点に差し掛かったとき,左舷船首16度1,760メートルのところに三高丸を初めて視認し,同船が燃料油補給船で,右方に横切って北上していることを認めたが,衝突のおそれが生じれば相手船が避航船となるので,自船を避けてくれるものと思い,その動静監視を十分に行うことなく続航した。
11時24分B受審人は,地ノ筏灯台から166度720メートルの地点に達したとき,三高丸の方位が変わらず1,180メートルとなり,その後,同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,依然,動静監視が不十分で,このことに気付かないまま進行した。
B受審人は,その後,警告信号を行わず,三高丸が避航の気配がないまま間近に接近しても,機関を停止して行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航し,11時26分わずか前,船首至近に迫った同船を認めて衝突の危険を感じ,機関を中立としたが及ばず,京政丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,三高丸は,右舷側後部外板に凹損等を生じ,京政丸は,船首部に破口等を生じ,のち修理費の都合で廃船処分とされた。
(航法の適用)
本件は,港則法が適用される徳山下松港において,いずれも雑種船以外の船舶である,北上中の三高丸と南西進中の京政丸とが,互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近して衝突したものであり,同法には適用する航法規定がないので,一般法である海上衝突予防法(以下「予防法」という。)で律することになる。
衝突地点付近は,晴海ふ頭と仙島に挟まれた幅約1,500メートルの海域であるが,両船の船型,操縦性能及び他船の輻輳状況から,三高丸が避航義務を,京政丸が針路速力の保持義務及び最善の協力動作をそれぞれ履行するのに何の制約もなかったものと認められ,予防法第9条の狭い水道等には該当しないと判断でき,同法第15条の横切り船の航法を適用することになる。
(本件発生に至る事由)
1 三高丸
京政丸の進路を避けなかったこと
2 京政丸
(1)前部甲板で漁具の補修作業を行っていたこと
(2)動静監視を十分に行わなかったこと
(3)警告信号を行わなかったこと
(4)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
(原因の考察)
本件は,北上中の三高丸が,京政丸を初認したのち,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることを認めていたのであるから,その進路を避けることにより,衝突を回避できたものと認められる。
したがって,A受審人が,相手船が小型の漁船で,今まで,保持船であっても小回りの効く漁船の方が,避航船である自船を避けてくれたことが何度かあったので,モーターホーンを鳴らせば自船を避けてくれるものと思い,その進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
一方,京政丸が,三高丸を初認したのち,その動静監視を十分に行っていれば,三高丸が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することに気付き,警告信号を行い,衝突を避けるための協力動作をとることにより,衝突を回避することができたものと認められる。
したがって,B受審人が,衝突のおそれが生じれば相手船が避航船となるので,避けてくれるものと思い,動静監視を十分に行わなかったこと,及び警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
B受審人が,漁具の補修作業を行っていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,同作業中であっても三高丸の動静監視を行うことはできるので,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点から同作業中であっても,他船の動静監視及び周囲の見張りを怠ってはならない。
(海難の原因)
本件衝突は,徳山下松港において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,北上する三高丸が,前路を左方に横切る京政丸の進路を避けなかったことによって発生したが,南西進する京政丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,徳山下松港において北上中,右舷船首方に前路を左方に横切る態勢の京政丸を視認し,同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることを認めた場合,京政丸と衝突することのないよう,その進路を避けるべき注意義務があった。しかるに,同人は,相手船が小型の漁船で,今まで,保持船であっても小回りの効く漁船の方が,避航船である自船を避けてくれたことが何度かあったので,モーターホーンを鳴らせば自船を避けてくれるものと思い,長音一回を吹鳴しただけで同船の進路を避けなかった職務上の過失により,京政丸との衝突を招き,三高丸の右舷側後部外板に凹損等を,京政丸の船首部に破口等をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B受審人は,徳山下松港において南西進中,左舷船首方に北上中の三高丸を視認した場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,衝突のおそれが生じれば相手船が避航船となるので,避けてくれるものと思い,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,三高丸が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず,同船に対し,警告信号を行うことも,衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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