(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年7月21日15時52分
兵庫県津居山港円山川
(北緯35度39.0分 東経134度50.3分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船はつひ丸 |
モーターボートみつる号 |
総トン数 |
4.7トン |
|
全長 |
15.00メートル |
|
登録長 |
|
2.77メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
216キロワット |
5キロワット |
3 事実の経過
はつひ丸は,平成元年10月に進水した船体中央部に操舵室を有するFRP製漁船で,平成16年5月に交付された小型船舶操縦免許証(一級・特殊)を受有するA受審人が1人で乗り組み,一本釣りの目的で,船首0.4メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,同17年7月21日15時45分兵庫県津居山港を発し,円山川河口の水路を下り,同港の北東方約3.3海里の漁場に向かった。
ところで,円山川河口の水路は,港則法が適用される津居山港内に位置し,北側の津居山島と南側の東導流堤の間の幅員約160メートル長さ約1キロメートルの北東方に延びる水路になっており,休日には,漂泊して釣りをする船も多く,また,毎日16時30分ごろは,市場の競りに合わせて帰港する漁船で輻輳するところであったが,はつひ丸が出航するころは,船舶はほとんどいなかった。
A受審人は,操舵室内に座って見張りにあたり,15時49分半わずか過ぎ,津居山港東導流堤灯台(以下「東導流堤灯台」という。)から244度(真方位,以下同じ。)560メートルの地点に達したとき,遠隔操舵装置のコントローラー式つまみにより,針路を055度に定め,機関を回転数毎分1,200の前進にかけ6.8ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,円山川河口の水路の中央付近をこれに沿って進行した。
15時50分A受審人は,東導流堤灯台から245度490メートルの地点に達したとき,ほぼ正船首430メートルのところに,船首を325度に向けて漂泊する黄色い船体のみつる号を視認できる状況であったが,船首方を一瞥しただけで支障となる船舶はいないものと思い,見張りを十分に行うことなく,その後,同船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近したが,これに気付かず,みつる号を避けることなく続航した。
15時52分はつひ丸は,東導流堤灯台から293度110メートルの地点において,同じ針路,速力のまま,船首部が,みつる号の左舷中央部に前方から90度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,視界は良好で,潮候は下げ潮の中央期にあたり,衝突地点付近の円山川には微弱な下行流があった。
また,みつる号は,昭和54年2月に進水したFRP製モーターボートで,平成15年8月に交付された小型船舶操縦免許証(二級・5トン・特殊)を受有するB受審人が1人で乗り組み,同乗者2人を乗せ,有効な音響信号を行うことができる手段を講じることをしないまま,釣りの目的で,船首尾ともに0.15メートルの喫水をもって,同日13時00分津居山港を発し,磯釣りを目的とする同乗者1人を猿ケ城南岸で降ろし,その沖合で釣りを行った後,円山川河口付近に至り,漂泊して釣りを開始した。
B受審人は,オレンジ色の救命胴衣を着用して帽子をかぶり船尾右舷側に腰掛け,同じ服装の同乗者を船体中央部の渡し板に座らせて釣りを続行中,15時50分,前示衝突地点において,船首を325度に向けて船外機を停止してほとんど静止した状態で漂泊しながら釣りを行っていたとき,左舷正横430メートルのところに,自船に向首する態勢で接近するはつひ丸を認め,その後,避航の気配がないまま,衝突のおそれのある態勢で接近していることを知ったが,音響信号設備を備えていないので,避航を促す音響信号を行うこともできないまま,同船は自船に気付いているだろうから,間近に接近すれば自船の船尾側を避けるものと思い,船外機を使用するなどして衝突を避けるための措置をとることなく,はつひ丸の様子を見ながら釣りを続けた。
15時52分少し前,B受審人は,約40メートルに迫ったはつひ丸に危険を感じ,急いで船外機をかけようと3回ほど起動ロープを引いたが,慌てていたためかうまく始動できず,同乗者とともに海中に飛び込み,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,はつひ丸は船首部に擦過傷を生じ,みつる号は左舷中央部外板及び船底に擦過傷,船外機に濡れ損をそれぞれ生じ,のち修理された。みつる号の携帯用魚群探知機,釣り具,船舶検査証書などが流出し,同乗者が全治10日間の通院加療を要する頚椎捻挫及び頭部外傷を負った。
衝突後,みつる号は転覆し,同船を乗り越えたはつひ丸は,50メートル先で停止した。B受審人及び同乗者は,はつひ丸及び付近を航行中の漁船に助けられ病院に運ばれた。
(海難の原因)
本件衝突は,兵庫県津居山港内の円山川河口において,北東進中のはつひ丸が,見張り不十分で,前路で漂泊中のみつる号を避けなかったことによって発生したが,みつる号が,有効な音響信号を行うことができる手段を講じず,接近するはつひ丸に対して避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,兵庫県津居山港内の円山川河口において,単独で操船と見張りにあたり北東進する場合,漂泊して釣りをするみつる号を見落とさないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,船首方を一瞥しただけで支障となる船舶はいないものと思い,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,漂泊中のみつる号に向首進行して衝突を招き,はつひ丸の船首部に擦過傷を,みつる号の左舷中央部外板及び船底に擦過傷,船外機に濡れ損をそれぞれ生じさせ,みつる号の携帯用魚群探知機,釣り具,船舶検査証書などを流出させ,同乗者に全治10日間の通院加療を要する頚椎捻挫及び頭部外傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,兵庫県津居山港内の円山川河口において,漂泊中,避航の気配のないまま,衝突のおそれがある態勢で接近するはつひ丸を認めた場合,機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,有効な音響信号を行うことができる手段を講じず,接近するはつひ丸に対して避航を促す音響信号を行わず,間近に接近すれば自船を避けるだろうと思い,衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により,はつひ丸との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。