(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年11月17日07時30分
東京湾
(北緯35度15.9分 東経139度44.7分)
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船第七太田丸 |
漁船伝助丸 |
総トン数 |
12.00トン |
1.61トン |
全長 |
17.50メートル |
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登録長 |
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7.60メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
382キロワット |
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漁船法馬力数 |
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20 |
3 事実の経過
第七太田丸(以下「太田丸」という。)は,船体中央から少し後方に操舵室を有し,同室前方及び後方にそれぞれ客室を備えた最大とう載人員32人のFRP製遊漁船で,A受審人(昭和63年4月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,釣り客6人を乗せ,たちうお釣りの目的で,船首0.7メートル船尾1.4メートルの喫水をもって,平成16年11月17日07時05分京浜港横浜区第5区の金沢漁港を発し,神奈川県観音埼東方沖合の釣り場に向かった。
A受審人は,釣り客が操舵室の前方及び後方の各客室で待機した状況下,操舵室中央の舵輪後方に立ち,目視による見張りにあたって東京湾を南下し,07時26分半観音埼灯台から337度(真方位,以下同じ。)1.45海里の地点で,針路を観音埼を正船首少し右方に見る145度に定め,機関を全速力前進から少し落とした回転数毎分1,600にかけて16.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
定針して間もなく,A受審人は,左舷前方間近のところで漂泊していた漁船が発進し,太田丸と同航する状況となったので,同船に視線を向けたまま続航した。
A受審人は,07時28分半観音埼灯台から343度1,760メートルの地点に達したとき,右舷船首5度1,000メートルのところに伝助丸を視認でき,その後同船が太田丸の前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが,左舷前方の前示同航船の動静に気を奪われ,見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,速やかに針路を右に転じるなど,伝助丸の進路を避けることなく進行し,07時30分観音埼灯台から356度1,056メートルの地点において,太田丸は,原針路,原速力のまま,その船首が,伝助丸の左舷船首部に,後方から60度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力2の北風が吹き,潮候は上げ潮の末期にあたり,視界は良好であった。
また,伝助丸は,船体後部に機関室囲壁及びその上部に機関操縦装置を備え,船尾部の舵柄によって操舵を行う無蓋のFRP製漁船で,B受審人(昭和51年8月小型船舶操縦士免許取得,平成16年12月一級小型船舶操縦士及び特殊小型船舶操縦士の免許に更新)が1人で乗り組み,たい一本釣り漁の目的で,有効な音響信号を備えないまま,船首0.43メートル船尾0.70メートルの喫水をもって,同日06時55分神奈川県横須賀港第6区の鴨居漁港を発し,途中,同漁港防波堤近くの生簀に寄って餌を積んだのち,07時08分同地を発進して第3海堡南方沖の漁場に向かった。
B受審人は,船尾部に立ち右手で舵柄を握って操船にあたり,観音埼を左舷方に見ながら回り込み,07時21分少し過ぎ観音埼灯台から129度420メートルの地点で,針路を第3海堡に向く343度に定め,機関を全速力前進にかけて5.0ノットの速力で進行した。
07時28分半B受審人は,観音埼灯台から000度820メートルの地点に達したとき,左舷船首13度1,000メートルのところに太田丸を初めて視認し,その後同船が伝助丸の前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めたが,太田丸の船首が波を切る状況などからその速力が速く,同船がいずれ伝助丸を替わして行くものと思い,避航の気配を見せないまま間近に接近しても,直ちに機関を使用して行きあしを止めるなど,衝突を避けるための協力動作をとることなく続航した。
B受審人は,07時30分わずか前左舷船首至近に迫った太田丸を見て衝突の危険を感じ,右舵一杯をとったが,及ばず,伝助丸は,船首が085度を向いたとき,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,太田丸は,船底外板に擦過傷並びにプロペラ翼及び同シャフトに曲損を生じたが,のち修理され,伝助丸は,船首部に損壊を生じ,修理費の関係で廃船処理された。
(海難の原因)
本件衝突は,神奈川県観音埼北方沖合の東京湾において,太田丸と伝助丸の両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,南東進する太田丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る伝助丸の進路を避けなかったことによって発生したが,北上する伝助丸が,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,神奈川県観音埼北方沖合の東京湾において,同埼東方沖合の釣り場に向けて南東進する場合,接近する他船を見落とすことがないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,左舷前方の同航船の動静に気を奪われ,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する伝助丸に気付かず,速やかに針路を右に転じるなど,同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き,太田丸の船底外板に擦過傷並びにプロペラ翼及び同シャフトに曲損を,伝助丸の船首部に損壊をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,神奈川県観音埼北方沖合の東京湾において,第3海堡南方沖合の漁場に向けて北上中,左舷前方に太田丸を認め,同船が伝助丸の前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で,避航の気配を見せないまま間近に接近するのを認めた場合,直ちに機関を使用して行きあしを止めるなど,衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,太田丸の速力が速く,同船がいずれ伝助丸を替わして行くものと思い,衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により,太田丸との衝突を招き,両船に前示の損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。