(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年5月7日05時30分
千葉県勝浦東部漁港南東方沖合
(北緯35度06.3分 東経140度27.2分)
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船英正丸 |
モーターボート幸治丸 |
総トン数 |
4.7トン |
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登録長 |
9.84メートル |
4.32メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
190キロワット |
7キロワット |
3 事実の経過
英正丸は,船体中央から少し後方に操舵室を有し,最大とう載人員10人のFRP製遊漁船で,船長B(一級及び特殊小型船舶操縦士免状受有,受審人に指定されていたところ,死亡により指定が取り消された。)が1人で乗り組み,釣り客2人を乗せ,遊漁の目的で,船首0.2メートル船尾0.7メートルの喫水をもって,平成16年5月7日04時15分千葉県勝浦東部漁港川津地区を発し,同地区南東方沖合約7海里の釣り場に向かい,05時00分同釣り場に至って漂泊し,多数の遊漁船や漁船に混じって遊漁を開始した。
B船長は,釣り客2人のうち1人が船首部で,1人が船尾部で釣りを行う状況下,操舵室で周囲の見張りにあたり,その後徐々に西方に移動しながら釣りを続けたところ釣果が乏しくなったので遊漁開始地点に戻ることとし,同室右舷側に備付けのGPSプロッターに入力していた同地点を確認し,05時27分勝浦灯台から107.5度(真方位,以下同じ。)7.15海里の地点を発進した。
B船長は,操舵室中央に立ち遠隔操舵装置を使用して操船にあたり,漂泊中の漁船などを避けながら東行し,05時29分少し前勝浦灯台から107度7.25海里の地点に達したとき,針路を111度に定め,機関を極微速力前進にかけて3.0ノットの対地速力で,手動操舵により進行した。
定針したとき,B船長は,左舷船首10度100メートルのところに南西方に向首して停留状態の幸治丸を視認できたが,見張りを十分に行わなかったので,同船の存在に気付かなかった。
B船長は,05時29分半転針方向を確認しないまま,針路を090度に転じたところ,幸治丸が正船首方46メートルとなったが,依然見張り不十分で,このことに気付かないで続航し,05時30分勝浦灯台から107度7.3海里の地点において,英正丸は,原針路,原速力のまま,その船首が,幸治丸の右舷船尾部に,前方から45度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力1の南西風が吹き,潮候は下げ潮の初期にあたり,視界は良好であった。
また,幸治丸は,船尾中央から少し左舷側に取り付けた船外機の操縦ハンドルを握って操舵と機関操作を行う無蓋のFRP製モーターボートで,A受審人(平成10年12月小型船舶操縦士免許取得,同15年11月二級小型船舶操縦士(5トン限定)と特殊小型船舶操縦士の免許に更新)が1人で乗り組み,釣りの目的で,同日04時40分千葉県守谷漁港を発し,前示衝突地点付近の釣り場に向かった。
A受審人は,05時20分目的の釣り場に至り,船尾中央部に設置した舷縁上高さ2メートルのマストにスパンカーを展張して船首を南西風に立て,クラッチを前進に入れたまま,機関をアイドリング回転としたところ,風圧と機関による前進力とが釣り合って停留状態となり,救命胴衣を着けないで船体後部の中央に置いたいすに右舷正横方を向いて腰を掛け,釣り竿を用いていか釣りを始めた。
05時29分少し前A受審人は,225度に向首していたとき,右舷船首56度100メートルのところに南東方に向首して進行中の英正丸を初めて視認し,間もなく同船が幸治丸の船首方20メートルばかりを無難に航過することを知り,同船から視線を離して釣りを続けた。
A受審人は,05時29分半英正丸が右舷船首45度46メートルとなったとき,同船が左転して幸治丸に向首するようになり,05時30分少し前右舷前方に迫った同船を認め,急いで船外機の操縦ハンドルを握って機関の回転数を上げたが,効なく,幸治丸は,225度に向首したまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,英正丸は,船首に擦過傷を,幸治丸は,右舷船尾部及び船外機カバーに割損などをそれぞれ生じたが,いずれも修理され,また,A受審人が,頚椎捻挫及び左肘打撲傷を負って海中に転落したが,自力で幸治丸に上がった。
(海難の原因)
本件衝突は,千葉県勝浦東部漁港南東方沖合の釣り場において,東行する英正丸が,見張り不十分で,停留状態の幸治丸に向けその至近で転針したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。