(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年10月13日07時45分
北海道釧路港南南東方沖合
(北緯42度42分 東経144度30分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船第五十八幸進丸 |
漁船順光丸 |
総トン数 |
14トン |
9.1トン |
登録長 |
16.67メートル |
14.55メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
479キロワット |
471キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 第五十八幸進丸
第五十八幸進丸(以下「幸進丸」という。)は,平成2年3月に進水し,いか釣り漁業などに従事する,ほぼ船体中央部に操舵室があるFRP製漁船で,同室にはレーダー2台,GPSプロッター,ソナー及び魚群探知機各1台が設置され,汽笛が装備されていた。
イ 順光丸
順光丸は,平成11年7月に進水し,いか釣り漁業などに従事する,ほぼ船体中央部に操舵室があるFRP製漁船で,同室にはレーダー,GPSプロッター,ソナー及び魚群探知機各1台が設置され,汽笛が装備されていた。
3 事実の経過
幸進丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,いか一本釣り漁の目的で,船首0.8メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,平成17年10月13日05時05分北海道釧路港を発し,同港南南東方沖合17海里ばかりの漁場に向かった。
07時30分A受審人は,釧路埼灯台から161度(真方位,以下同じ。)17.1海里の漁場に至り,霧のため視界が制限された状況下,航行中の動力船が掲げる灯火及びマスト上部に紅灯と白灯を点灯し,接近して操業する多数の同業船と同様に霧中信号を行わず,機関を中立運転としていか釣り漁を始め,そのころ同漁場付近には西南西流があって,西南西方へ約1ノットで圧流されながらのいか釣りと,魚影を追って約6ノットの速力で40秒ばかりかけての潮上りを繰り返しながら操業を続けた。
07時44分半少し前A受審人は,釧路埼灯台から161度17.1海里の地点において,視程が約30メートルとなった状況の中,4回目の潮上りのため漁場を移動することにしたとき,ほぼ正船首140メートルのところに,漂泊中の順光丸をレーダーで探知できる状況にあったが,魚群探知機の監視に気を奪われ,1.5海里レンジとしたレーダーを近距離レンジに切り替えるなどして,レーダーによる見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かなかった。
07時44分半わずか前A受審人は,釧路埼灯台から160.9度17.1海里の地点において,順光丸に気付かないまま,針路を075度に定め,操舵室右舷側に立って機関を微速力前進にかけ,折からの海流に抗して6.0ノットの対地速力で同船に向かって発進し,07時45分わずか前,正船首至近に順光丸の船尾を初めて認め,直ちに機関を全速力後進にかけたが効なく,07時45分釧路埼灯台から160.8度17.1海里の地点において,幸進丸は,原針路,ほぼ原速力のまま,その船首が順光丸の船尾右舷側に後方から8度の角度で衝突した。
当時,天候は霧で風力2の西風が吹き,視程は約30メートルで付近海域には約1ノットの西南西流があった。
また,順光丸は,B船長(本件後に死亡。)ほか2人が乗り組み,いか一本釣り漁の目的で,船首0.3メートル船尾1.8メートルの喫水をもって,同日05時00分北海道釧路港を発し,06時30分ごろ同港南南東方沖合17海里ばかりの漁場に到着し,そのころ霧で視界が制限された状況下,航行中の動力船が掲げる灯火のほかマストの停泊灯とせん光灯を点灯して操業を開始した。
その後,B船長は,多数の同業船が接近して操業する中,霧中信号を吹鳴しないまま魚群探索を行い,海流に乗じたいか釣りと魚影を追っての潮上りを繰り返して操業を続けた。
07時44分半少し前B船長は,視程が約30メートルとなった前示衝突地点付近で魚群を発見して船首を067度に向け,機関を中立運転とし,折からの約1ノットの西南西流により,西南西方に圧流されながら漂泊して操業していたとき,左舷船尾6度140メートルのところに存在した幸進丸が,自船に向かって発進したが,このことに気付かなかった。
B船長は,漂泊しながら僚船と無線連絡中,順光丸は船首を067度に向けて前示のとおり衝突した。
衝突の結果,幸進丸は,球状船首部に擦過傷を生じ,順光丸は,船尾右舷側外板に破口及びスパンカー支柱に曲損を生じた。
(航法の適用)
本件は,北海道釧路港南南東方沖合において,霧のため視界が制限された状況の中,移動のため発進した幸進丸と近距離で漂泊中の順光丸とが衝突したものであるから,海上衝突予防法第19条の視界制限状態における船舶の航法を適用するのは適当でなく,同法第38条及び第39条の船員の常務で律することになる。
(本件発生に至る事由)
1 幸進丸
(1)魚群探知機の監視に気を奪われ,レーダーによる前路の見張りを十分に行わなかったこと
(2)順光丸に向かって発進したこと
(3)霧中信号を行わなかったこと
2 順光丸
(1)霧中信号を行わなかったこと
3 その他
(1)衝突地点付近には同業船が多数で漂泊,潮上りを繰り返していた海域であったこと
(2)衝突地点付近が視界制限状態となっていたこと
(3)衝突地点付近に約1ノットの西南西流があったこと
(原因の考察)
本件は,視界が制限された状態の漁場で,潮上りをしようとする幸進丸が,レーダー見張りを十分に行っていれば,発進するとき,前路に漂泊中の順光丸を認識し,同船を避けることによって衝突を回避できたものと認められる。
したがって,A受審人が,魚群探知機の魚影監視に気を奪われ,レーダーによる前路の見張りを十分に行わず,順光丸に向かって発進したことは,本件発生の原因となる。
両船が,霧中信号を行わなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,多数の同業船が接近して操業しており,全船が霧中信号を行うとかえって混乱を招くこととなるおそれがあり,原因とするまでもない。
衝突地点付近が霧のため視界制限状態となっていたこと,多数の同業船が操業している海域であったこと及び約1ノットの西南西流があったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,他の同業船は何事もなく操業していることから,原因とならない。
(海難の原因)
本件衝突は,北海道釧路港南南東方沖合において,霧のため視界が制限された状況下,漁場を移動しようとする幸進丸が,レーダーによる見張り不十分で,漂泊して操業中の順光丸に向かって発進したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,北海道釧路港南南東方沖合において,霧のため視界が制限された状況下,多数のいか一本釣り漁船が操業する漁場を移動する場合,前路で漂泊中の順光丸を見落とさないよう,レーダーレンジを近距離に切り替えるなどして,レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,魚群探知機の監視に気を奪われ,レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,漂泊中の順光丸に気付かず,同船に向かって発進して同船との衝突を招き,幸進丸の球状船首部に擦過傷を,順光丸の船尾右舷側外板に破口及びスパンカー支柱に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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