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平成18年函審第19号
件名

漁船第22善栄丸漁船吉栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年8月22日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(西山烝一,井上 卓,堀川康基)

理事官
喜多 保

受審人
A 職名:第22善栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:吉栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第22善栄丸・・・左舷側船首外板に擦過傷
吉栄丸・・・右舷側船首を圧壊,のち沈没

原因
第22善栄丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
吉栄丸・・・見張り不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第22善栄丸が,見張り不十分で,漂泊中の吉栄丸を避けなかったことによって発生したが,吉栄丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年10月5日21時30分
 青森県大間埼北方沖合
 (北緯41度33.9分 東経140度54.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第22善栄丸 漁船吉栄丸
総トン数 4.2トン 0.99トン
登録長 10.45メートル 7.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70 18
(2)設備及び性能等
ア 第22善栄丸
 第22善栄丸(以下「善栄丸」という。)は,昭和59年12月に進水した,ぶり一本釣り漁業などに従事するFRP製漁船で,ほぼ船体中央部に操舵室を有し,同室にレーダー,GPSプロッタ及び魚群探知機各1台が備えられていた。
イ 吉栄丸
 吉栄丸は,昭和54年2月に進水した,ぶり一本釣り漁業などに従事する全長12メートル未満のFRP製漁船で,船体中央部やや後方に機関室囲壁を有し,その屋上後部に航海灯及び機関操縦装置が備えられていたが,レーダーなどの航海計器類及び音響信号設備を装備していなかった。

3 事実の経過
 善栄丸は,A受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.8メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成17年10月5日19時10分青森県大間港を発し,所定の灯火を掲げて大間埼北方沖合1海里ばかりの漁場に向かった。
 A受審人は,19時30分前示漁場に着き,前部マストに作業灯を点灯して漂泊したあと,ぶり一本釣り漁を開始し,そのころ同漁場付近は東方に流れる潮流があり,操業中の20隻ばかりの僚船と同様に,潮下に流されては潮上りを繰り返しながら操業を行った。
 A受審人は,5回目の潮上りを開始することとし,21時26分大間埼灯台から046度(真方位,以下同じ。)1,280メートルの地点で,針路を285度に定め,機関を回転数毎分1,000にかけ,折からの潮流に抗して6.4ノットの対地速力で,操舵室後方に立って遠隔装置の手動操舵により進行した。
 21時27分半A受審人は,大間埼灯台から033度1,150メートルの地点に至ったとき,正船首540メートルのところに,白,緑2灯及び集魚灯を掲げて漂泊する吉栄丸を視認することができ,その後,衝突のおそれのある態勢で向首接近しているのを認め得る状況にあったが,釣り針に餌を付けることに気を奪われ,前路の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,転舵するなど同船を避けないまま続航中,善栄丸は,21時30分大間埼灯台から008度1,110メートルの地点において,原針路,原速力のまま,その左舷船首が吉栄丸の右舷船首に後方から75度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力3の北風が吹き,潮候は下げ潮の末期で,付近海域には約0.6ノットの東流があった。
 また,吉栄丸は,B受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,同日19時00分大間港を発し,所定の灯火を掲げて大間埼北方沖合1海里ばかりの漁場に向かった。
 B受審人は,19時20分前示漁場に着き,船尾のスパンカーを掲げて左舷側に集魚灯を点灯したあと,ぶり一本釣り漁を開始し,その後,潮下に流されては潮上りを繰り返して操業を続け,21時20分大間埼灯台から000度1,140メートルの地点で,機関を中立運転として漂泊を開始し,船尾左舷側で操業を始めた。
 吉栄丸は折からの東流により0.6ノットの対地速力で東方に流され,21時27分半B受審人は,大間埼灯台から006度1,120メートルの地点に至り,北風により船首が000度を向いていたとき,右舷船尾75度540メートルのところに,自船に向首する善栄丸の白,紅,緑3灯及び作業灯を視認することができ,その後,同船が衝突のおそれのある態勢で接近するのを認め得る状況にあったが,潮上り中の漁船が漂泊中の自船を避けてくれると思い,周囲の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,音響信号不装備で警告信号を行わず,機関を操作するなど衝突を避けるための措置もとらないまま,操業を続けた。
 21時30分わずか前B受審人は,右舷船首至近に善栄丸を初めて視認し,衝突の危険を感じ,機関を後進にかけたが効なく,吉栄丸は,船首を000度に向いて前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,善栄丸は,左舷側船首外板に擦過傷を生じ,吉栄丸は,右舷側船首を圧壊し,その右舷側が善栄丸に接舷した状況になったあと,機関が後進にかかったまま離れていき,間もなく沈没した。
 B受審人は,接舷したとき自ら善栄丸に乗り込み,無事であった。

(航法の適用)
 本件は,青森県大間埼北方沖合において,西進中の善栄丸と漂泊中の吉栄丸とが衝突したものであり,発生海域により海上衝突予防法が適用されることになる。しかしながら,同法には航行船と漂泊船との関係について規定した条文がないので,同法第38条及び第39条により律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 善栄丸
(1)釣り針に餌を付けることに気を奪われ,前路の見張りを十分に行わなかったこと
(2)漂泊中の吉栄丸を避けなかったこと

2 吉栄丸
(1)潮上り中の漁船が漂泊中の自船を避けてくれると思い,周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(2)音響信号設備不装備により警告信号を行わなかったこと
(3)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

3 その他
 漁場付近は航行中の漁船が多い海域であったこと

(原因の考察)
 本件は,潮上りのため西進中の善栄丸が,見張りを十分に行っていれば,前路に漂泊中の吉栄丸を認識して同船を避けることができ,衝突を回避できたと認められる。
 したがって,A受審人が,釣り針に餌を付けることに気を奪われ,前路の見張りを十分に行わず,漂泊中の吉栄丸を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,漂泊して操業中の吉栄丸が,見張りを十分に行っていれば,接近する善栄丸を認識し,衝突を回避できたと認められる。
 したがって,B受審人が,潮上り中の漁船が漂泊中の自船を避けてくれると思い,周囲の見張りを十分に行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 吉栄丸が,全長12メートル未満で音響信号設備を装備しておらず,実際上,警告信号を行うことができなかったが,早期に衝突を避けるための措置をとることで,衝突を回避できたと認められることから,警告信号を行わなかったことを,原因に適示するまでもない。しかし,同設備を装備していれば,警告信号を行うことができるので,今後,装備するよう是正措置を講ずるべきと思料する。
 漂泊地点付近が潮上りや操業のため航行中の漁船が多い海域であったことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,衝突したころは周囲がそれほど混雑した状況でなかったことから,衝突と相当な因果関係があるとは認められず,原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,青森県大間埼北方沖合において,善栄丸が,潮上りのため西進中,見張り不十分で,前路で漂泊中の吉栄丸を避けなかったことによって発生したが,吉栄丸が,操業のため漂泊中,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,青森県大間埼北方沖合において,潮上りのため西進する場合,前路で漂泊中の吉栄丸を見落とさないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし,同受審人は,釣り針に餌を付けることに気を奪われ,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,漂泊中の吉栄丸に気付かず,同船を避けないまま進行して衝突を招き,善栄丸の左舷側船首外板に擦過傷を生じ,吉栄丸の右舷側船首を圧壊させて沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は,夜間,青森県大間埼北方沖合において,漂泊して操業する場合,右舷正横方から接近する善栄丸を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし,同受審人は,潮上り中の漁船が漂泊中の自船を避けてくれると思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,接近する善栄丸に気付かず,衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続けて衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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