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平成17年長審第34号
件名

貨物船第五鶴丸モーターボートみさき丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年7月31日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(長浜義昭,吉川 進,尾崎安則)

理事官
道前洋志

受審人
A 職名:第五鶴丸船長 海技免許:五級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:第五鶴丸機関長 海技免許:五級海技士(航海)
C 職名:みさき丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第五鶴丸・・・左舷船首部に擦過傷
みさき丸・・・右舷後部舷縁に欠損,機関に濡れ損 船長が頚椎捻挫,腰部打撲

原因
第五鶴丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
みさき丸・・・動静監視不十分,音響信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第五鶴丸が,見張り不十分で,停留中のみさき丸を避けなかったことによって発生したが,みさき丸が,動静監視不十分で,避航を促す有効な音響による信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年3月8日12時17分
 熊本県横浦瀬戸東口付近
 (北緯32度21.6分 東経130度21.6分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第五鶴丸 モーターボートみさき丸
総トン数 97トン 1.44トン
全長 34.10メートル  
登録長 29.99メートル 6.65メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 661キロワット  
漁船法馬力数   19キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第五鶴丸
(ア)船体構造と操舵室の設備等
 第五鶴丸は,平成11年10月に熊本県上天草市姫戸町で進水した船尾船橋型の鋼製砂利運搬船で,船首端から船橋前面までの距離が約23.6メートルで,上甲板前部に旋回式ジブクレーン(以下「クレーン」という。)を備え,船舶件名表の海上公試運転成績によると,初速10.06ノットでの,舵角35度により90度右及び左旋回するのに要する時間が各28秒及び20秒,後進発令してから船体停止までの時間が42秒であった。
(イ)操船位置からの見通し
 第五鶴丸は,航海中,右舷後方に倒したクレーンのジブ先端を操舵室右舷側ウイングに設置した架台に収めた状態としていたものの,クレーンの機械室によって,船橋中央部の位置で船首方に左右各10度の範囲に,また,船橋左側に置かれたいすに座った状態でも左舷船首4度から右舷船首16度の範囲に,水平線が見えなくなる死角(以下「船首死角」という。)がそれぞれ生じていた。左右両ウイング等に適宜移動して船首死角を補う見張りを行いながら操舵することができるように,携帯式遠隔操舵装置が常時使用できるようになっていた。
イ みさき丸
 みさき丸は,昭和44年8月に熊本県上天草市龍ヶ岳町で進水した木製漁船で,船体中央少し後方にある機関室囲壁の上部に操縦スタンド,同スタンドの後方に左右に分割された船幅一杯の生け間,その後方に船尾甲板,同甲板後端の中央にスパンカー用マストがそれぞれ設けられていた。操縦スタンド後方右舷側の生け間は,常に空にしてあり,船首方を向いて右舷側船尾甲板に腰掛け,同生け間に足を伸ばして右舷側から釣りが行え,かつ,そこで操舵と機関操作も行えるようになっていた。
 また,汽笛等に代わる有効な音響による信号を行うことができる他の手段として,操縦スタンドに笛が備え置かれていた。

3 事実の経過
 第五鶴丸は,主として熊本県佐敷港で積載した建材用砂利を天草上島の諸港に運搬する砂利運搬船で,A受審人及びB受審人の2人が乗り組み,空倉のまま,船首0.7メートル船尾2.5メートルの喫水をもって,平成16年3月8日10時10分揚げ地の同県上津浦(こうつうら)港を発し,積荷の目的で,佐敷港に向かった。
 ところで,A及びB両受審人は,クレーンの機械室によって船首死角が生じることから,平素,携帯式遠隔操舵装置を携えて船橋内を左右に移動したり,左右両ウイングに移動したり,レーダーを活用したりして,適宜,船首死角を補う見張りを行っていた。
 また,A受審人は,主として佐敷港と天草上島諸港との間で運航していて,片航海の所要時間が3時間以下なので,出航から入航までを自らが操船し,その間,B受審人を船橋当直に就け,操船補佐や食事等の交替に当たらせていた。
 こうして,A受審人は,出航から操船に当たり,本渡瀬戸,横島瀬戸を経由して横浦瀬戸を東行し,12時02分半少し過ぎ御所浦港嵐口4号防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から308度(真方位,以下同じ。)1.7海里の地点で,針路を121度に定め,機関を全速力前進にかけ,折からの北西流に抗して7.5ノット(対地速力,以下同じ。)の速力で,携帯式遠隔操舵装置による手動操舵として,B受審人を操船補佐に当たらせて進行した。
 12時07分半わずか前A受審人は,熊本県横浦漁港南方沖合で,同県御所浦漁港(本郷地区)から同県大道港向け,中瀬戸を北上する不定期のフェリーを,その後,同フェリーを追い越す定期のフェリーを認め,横浦瀬戸内で両船と接近する状況であることを知り,それらに進路を譲ることとして速力を6.2ノットの半速力前進に減じ,12時10分半わずか過ぎ防波堤灯台から317度1,520メートルの地点で,さらに右舷側を両船が追い越すように左転して054度の針路とし,機関を適宜中立にし,速力を2.8ノットに減じた。
 12時14分少し過ぎA受審人は,防波堤灯台から328度1,520メートルの地点に達したとき,2隻のフェリーを右舷船首方にやり過ごし終えたので,佐敷港に向かうために右転して085度の針路とし,機関を全速力前進に増速し,折からの西南西流に抗して5度右方に圧流されながら7.6ノットの速力とした。
 A受審人は,転針したとき,正船首810メートルのところに,みさき丸を視認することができ,その後,船首を南東方に向けて停留中の同船に向けて接近したが,一本釣りの好漁場で日ごろ多数の釣り船が集まるところであったのに,それまでまったく見かけなかったことから,前路に釣り船はいないものと思い,ウイングに移動するなり,0.5海里レンジとした作動中のレーダーを活用するなどして,船首死角を補う見張りを十分に行わず,これらのことに気付かないまま,同船を避けずに続航した。
 出航後から在橋して操船補佐に当たっていたB受審人は,転針したとき,船橋内左舷側に置いたいすに腰掛けて見張りを続けていたものの,一本釣りの好漁場なのにそれまで釣り船をまったく見かけなかったことから,前路に釣り船はいないものと思い,ウイングに移動するなりして,船首死角を補う見張りを行ってみさき丸の存在を知り,そのことをA受審人に告げるなど,操船補佐を十分に行わなかった。
 12時16分半A受審人は,2隻のフェリーの避航と横浦瀬戸通狭とを終えたので,B受審人から提案されたこともあって,昼食をとることとしたが,依然,船首死角を補う見張りが不十分で,みさき丸と正船首160メートルに迫っていることに気付かず,携帯式遠隔操舵装置を同受審人に渡して操船を委ね,船橋内左舷後方の海図台に弁当を広げて食事を始めた。
 操船を交替したB受審人も,依然,前路に停留中のみさき丸に向けて接近していることに気付かず,操舵室左舷側のいすに腰掛けたまま進行し,12時17分防波堤灯台から355度1,300メートルの地点において,第五鶴丸は,原針路,原速力のまま,その船首がみさき丸の右舷側後部に後方から45度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,視界は良好で,潮候は下げ潮の中央期にあたり,衝突地点付近には240度方向に流れる約1.5ノットの潮流があった。
 B受審人は,衝突の直後,左舷船首至近にみさき丸のスパンカーマスト先端を見付けて叫び声を発し,続いて左舷側至近に停留している同船を認めた。
 船橋内左舷後方で弁当を食べ始めたA受審人は,B受審人が発した叫び声を聞き,自らも左舷側至近にみさき丸を認めて異常接近したことを知り,機関を停止して反転し,同船に寄せて衝突を知り,事後の措置に当たった。
 また,みさき丸は,C受審人が1人で乗り組み,船首0.4メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,同日08時00分大道港の係留地を発し,横浦瀬戸に至って釣り場を順次移動しながら釣りを続けた。
 11時50分ころC受審人は,衝突地点付近に至って機関を中立にし,スパンカーを展張しないで,折からの西南西流に圧流されながら数分間停留して釣りを行っては潮昇りすることを3回繰り返した後,12時11分防波堤灯台から005度1,440メートルの地点において,4回目の停留を開始したとき,船首が130度に向いて右舷正横後35度1,190メートルのところに第五鶴丸を初めて視認したが,一瞥しただけで,機関故障等で停留している船舶でしばらくの間は大丈夫と思い,その後の動静監視を十分に行わなかった。
 12時14分少し過ぎC受審人は,防波堤灯台から000度1,360メートルの地点に達したとき,船首を130度に向けて西南西方へ圧流されながら,右舷側船尾甲板に腰掛けて操縦スタンド後方の右舷側生け間に両足を伸ばし,右舷船首方を向いて魚釣りに熱中していて,依然,動静監視不十分で,右舷正横後45度810メートルのところで2隻の北上するフェリーの船尾をかわして右転した第五鶴丸が,自船に向けて接近したが,そのことに気付かず,その後,操縦スタンドに置いていた笛を吹くなどして避航を促す有効な音響による信号を行わず,中立運転中の機関を全速力前進にかけるなどして衝突を避けるための措置をとらないまま停留を続けた。
 12時17分わずか前C受審人は,そろそろ潮昇りしようと思いながら掛かった魚を釣り上げたとき,右舷側至近に迫った第五鶴丸に気付いたものの何もできないまま,船首が130度に向いて前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,第五鶴丸は,左舷船首部に擦過傷を,みさき丸は,右舷後部舷縁に欠損及び機関に濡れ損をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。また,C受審人は,頚椎捻挫及び腰部打撲を負い,腰椎椎間板ヘルニアの既往症を悪化させた。

(航法の適用)
 本件は,熊本県横浦瀬戸東口付近において,航行中の第五鶴丸と停留中のみさき丸とが衝突したもので,海上衝突予防法で律することになるが,同予防法には航行中の船舶と停留中の船舶との関係について規定した条文がないから,海上衝突予防法第38条及び第39条の規定に拠ることになる。

(本件発生に至る事由)
1 第五鶴丸
(1)クレーンの機械室により船首死角が生じていたこと
(2)横浦島南方沖合で北東方に向けて減速運航して北上中のフェリー2隻に進路を譲ったこと
(3)左右のウイングに移動するなどして船首死角を補う見張りを十分に行わなかったこと
(4)船橋当直中の機関長が船首死角内に入った他船の有無を確認してそのことを船長に告げるなどの操船補佐を十分に行わなかったこと
(5)停留中のみさき丸を避けなかったこと

2 みさき丸
(1)第五鶴丸に対する動静監視を行わなかったこと
(2)避航を促す有効な音響による信号を行わなかったこと
(3)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,第五鶴丸が,熊本県横浦瀬戸を東行中,船首死角を補う見張りを十分に行っていれば,停留中のみさき丸を視認し,同船を避ける動作をとり,衝突を回避することができたものと認められる。
 したがって,A受審人が,一本釣りの好漁場で日ごろ多数の釣り船が集まるところであったのに,それまでまったく見かけなかったことから,前路に釣り船はいないものと思い,クレーンの機械室による船首死角が生じていることを認識していながら,左右ウイングに移動するなどして同死角を補う見張りを十分に行わず,停留中のみさき丸を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 また,船橋当直中の機関長が,船長の操船補佐を十分に行っていれば,停留中のみさき丸の存在に気付き,そのことを船長に告げることにより,同船を避け,衝突を回避することができたものと認められる。
 したがって,B受審人が,一本釣りの好漁場で日ごろ多数の釣り船が集まるところであったのに,それまでまったく見かけなかったことから,前路に釣り船はいないものと思い,船首死角を補う見張りを行って同死角内の他船の有無を船長に告げるなどして,船長の操船補佐を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 第五鶴丸にクレーン機械室による船首死角が生じていたことは,同船の運航目的を満たすための構造として不可避のものであり,運航者にはこの事実を前提とした見張りが求められ,いずれかのウイングに移動することにより同死角を容易に解消することができ,そのために携帯式遠隔操舵装置を装備していた。よって,運航者としての定常的な見張りが阻害される状況にあったものとは認められず,船首死角が生じていたことは,本件発生の原因とならない。
 第五鶴丸が,横浦瀬戸を北上する2隻のフェリーに進路を譲ったことは,その状態の第五鶴丸を認めたみさき丸が自船の方向に来航しないものと思って,その後の動静監視を怠った点で本件発生に至る過程で関与した事実であるが,みさき丸が動静監視を十分に行っていれば,同フェリーに進路を譲っていたことを容易に判断できることで,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。
 一方,みさき丸が,停留と潮昇りを繰り返しながら釣りを行っているとき,第五鶴丸を初認した後,その後の動静監視を十分に行っていれば,2隻のフェリーを避航した後,転針して自船に向けて接近することに気付き,第五鶴丸に対して笛を吹くなど避航を促す有効な音響による信号を行い,更に接近して中立運転中の機関を前進にかけるなどして衝突を避けるための措置をとることにより,衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,C受審人が,極低速力で北東進する第五鶴丸を初認したとき,一瞥しただけで,機関故障等で停留している船舶でしばらくの間は大丈夫と思い,その後の動静監視を十分に行わず,2隻のフェリーの避航を終えて自船に向かって接近する第五鶴丸に対して避航を促す有効な音響による信号を行わず,同船との衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,熊本県横浦瀬戸東口付近において,東行中の第五鶴丸が,見張り不十分で,停留中のみさき丸を避けなかったことによって発生したが,みさき丸が,動静監視不十分で,避航を促す有効な音響による信号を行わず,第五鶴丸との衝突を避けるための措置をとらなったことも一因をなすものである。
 第五鶴丸の運航が適切でなかったのは,船長の見張りが不十分であったことと,機関長の操船補佐が不十分であったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,熊本県横浦瀬戸東口付近を東行する場合,クレーンの機械室による船首死角があることを知っていたのであるから,同死角に入った停留中のみさき丸を見落とさないよう,ウイングに移動するなどして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,一本釣りの好漁場で日ごろ多数の釣り船が集まるところであったのに,それまでまったく見かけなかったことから,前路に釣り船はいないものと思い,船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,停留中のみさき丸に気付かず,同船を避けないまま進行して衝突を招き,第五鶴丸の左舷船首部に擦過傷を,みさき丸の右舷後部舷縁に欠損を,機関に濡れ損をそれぞれ生じさせ,C受審人に頚椎捻挫,腰部打撲を負わせ,既往症の腰椎椎間板ヘルニアを悪化させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,横浦瀬戸東口付近を東行中,在橋して船長の操船補佐を行う場合,クレーンの機械室による船首死角があることを知っていたのであるから,同死角を補う見張りを行い,同死角に入った停留中のみさき丸の存在を知り,そのことを船長に告げるなど,操船補佐を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,一本釣りの好漁場で日ごろ多数の釣り船が集まるところであったのに,それまでまったく見かけなかったことから,前路に釣り船はいないものと思い,操船補佐を十分に行わなかった職務上の過失により,みさき丸との衝突を招き,前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は,横浦瀬戸東口付近において,魚釣りのために停留中,横浦島南方沖合に第五鶴丸を認めた場合,その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,極低速力で北東進していた同船を一瞥して,機関故障等で停留している船舶でしばらくの間は大丈夫と思い,引き続き同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,釣りに熱中していて,2隻のフェリーの避航を終えた第五鶴丸が右転して自船に向けて接近する状況となったことに気付かず,同船に対して避航を促すための有効な音響による信号を行わず,中立としていた機関を前進にかけるなど衝突を避けるための措置をとらないまま同船との衝突を招き,前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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