(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成18年1月17日06時35分
鹿児島県串木野港西方沖合
(北緯31度42.7分 東経130度10.6分)
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船第二福寿丸 |
漁船松洋丸 |
総トン数 |
9.1トン |
1.45トン |
全長 |
16.30メートル |
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登録長 |
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7.10メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
433キロワット |
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漁船法馬力数 |
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25 |
3 事実の経過
第二福寿丸(以下「福寿丸」という。)は,平成7年3月に進水したFRP製遊漁船で,船体中央部の操舵室にレーダー,GPSプロッター及び魚群探知機を備え,A受審人(平成13年4月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,釣り客3人を乗せ,船首0.5メートル船尾1.4メートルの喫水をもって,平成18年1月17日06時10分鹿児島県串木野港を発し,法定灯火を表示して同県下甑島東方沖合2海里ばかりの釣り場に向かった。
A受審人は,06時24分半串木野港西防波堤南灯台から226度(真方位,以下同じ。)1,100メートルの地点で,針路を270度に定め,機関を全速力前進にかけ,18.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,操舵室右舷側の椅子に腰掛けてレーダーを1.5海里レンジで使用し,自動操舵によって進行した。
06時32分A受審人は,薩摩沖ノ島灯台(以下「沖ノ島灯台」という。)から156度1.9海里の地点に達したとき,右舷船首23度1,400メートル付近に,松洋丸ほか1隻のレーダー映像を認めたものの,同映像がGPSプロッター画面上の魚礁表示と近接して止まっているように見えたことから,いずれも錨泊しているものと思い,その映像の船舶を肉眼で見るなど見張りを十分に行わなかったので,松洋丸の白,紅2灯を視認することができ,その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,このことに気付かず,同船の進路を避けないまま続航した。
06時35分わずか前A受審人は,至近に迫った松洋丸を初めて認め,手動操舵に切り替えて左舵一杯をとったが及ばず,06時35分沖ノ島灯台から184度1.75海里の地点において,福寿丸は,船首が258度に向いたとき,原速力のまま,その船首が松洋丸の左舷船首に後方から46度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は上げ潮の中央期で,付近海域の日出時刻は07時19分であった。
また,松洋丸は,昭和53年5月に進水したFRP製漁船で,船体中央部の操舵室にGPSプロッター,磁気コンパス,魚群探知機及び漁業用無線機を備え,同室の下部が機関室になっており,B受審人(平成9年11月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,いとよりだい一本釣り漁の目的で,船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成18年1月17日06時00分鹿児島県羽島漁港を発し,法定灯火を表示して串木野港南西方沖合7海里ばかりの漁場に向かった。
B受審人は,06時15分沖ノ島灯台から078度1.14海里の地点で,GPSプロッターの画面表示を見て針路を前示漁場に向け212度に定め,機関を全速力前進にかけ,7.0ノットの速力で舵柄を握り操舵しながら進行した。
06時32分B受審人は,沖ノ島灯台から178度1.45海里の地点に達したとき,左舷船尾81度1,400メートルのところに,福寿丸の白,緑2灯を視認することができ,その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが,定針したとき左舷方の僚船1隻のほかに他船の灯火を認めなかったことから接近する他船はいないものと思い,前示僚船の動向のみに気を奪われ,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,福寿丸の存在に気付かないまま続航した。
06時34分B受審人は,機関室から主機の発電機駆動用ベルトが切れたような音がしたので,舵柄を右手で持ち中腰で同室内を覗きながら進行し,06時34分半沖ノ島灯台から183度1.7海里の地点に至ったとき,福寿丸が自船の進路を避ける気配を見せないまま,同じ方位240メートルに接近したが,依然として気付かず,同船に対して着用していた救命胴衣の笛などで避航を促す音響信号を行わず,更に間近に接近しても行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく,原針路,原速力で続航中,速い船が接近しているとの僚船からの無線連絡で立ち上がった直後,松洋丸は,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,福寿丸は,右舷船首船底に擦過傷,右舷ビルジキールに破損及び推進翼に曲損を,松洋丸は,左舷船首部外板に破口をそれぞれ生じ,福寿丸はのち修理されたが,松洋丸は浸水して沈没し,B受審人が右肘打撲,腰椎捻挫及び右下肢打撲を負った。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,鹿児島県串木野港西方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,西行する福寿丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る松洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが,南下する松洋丸が,見張り不十分で,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,串木野港西方沖合において,釣り場に向け西行中,レーダーで右舷船首方に他船の映像を認めた場合,その映像の船舶を肉眼で見るなど見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,同映像がGPSプロッター画面上の魚礁表示と近接し,止まっているように見えたことから,錨泊しているものと思い,映像の船舶を肉眼で見るなど見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する松洋丸に気付かず,同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き,自船の右舷船首船底に擦過傷,右舷ビルジキールに破損及び推進翼に曲損を,松洋丸の左舷船首部外板に破口をそれぞれ生じさせ,松洋丸を沈没に至らせしめ,B受審人に右肘打撲等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は,夜間,串木野港西方沖合において,漁場に向け南下する場合,接近する他船を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,接近する他船はいないものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する福寿丸に気付かず,避航を促す音響信号を行うことも衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して衝突を招き,両船に前示の事態を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。