(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年5月31日07時00分
山口県角島北西方沖合
(北緯34度30.0分 東経130度32.7分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第五わかば丸 |
漁船芳久丸 |
総トン数 |
85トン |
19トン |
全長 |
42.20メートル |
25.60メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
672キロワット |
529キロワット |
3 事実の経過
第五わかば丸(以下「わかば丸」という。)は,昭和63年11月に進水した,大中型まき網漁業船団(以下「船団」という。)に所属する船首楼付き一層甲板型鋼製灯船で,A受審人ほか4人が乗り組み,操業の目的で,船首1.2メートル(m)船尾3.5mの喫水をもって,僚船4隻とともに平成17年5月29日12時00分鳥取県境港を発し,長崎県対馬市上島の東方沖合15海里の漁場に至り,魚群探索を行い,越えて31日04時30分船団の漁労長の指示によって操業待機のため,角島灯台北西方沖合17海里の水深120mの地点で,船首から重量150キログラムの錨を投入し,直径70ミリメートルの合成繊維製錨索を200m延出し,法定の灯火を点灯しないまま錨泊を開始した。
A受審人は,前示錨泊地点付近が船舶交通の輻輳する海域ではなく,海上平穏で視界も良かったので,夕刻からの操業に備えて乗組員を休息させ,自ら単独で操舵室にとどまり,錨泊中であることを示す法定の形象物を掲げないまま,同室左舷後部に置いたテレビの放送を見ていたところ,05時30分朝食の準備が整った旨の連絡を受けて同室下の食堂に赴いた。
06時57分A受審人は,船首が209度(真方位,以下同じ。)を向いていたとき,右舷正横船尾寄り930mのところに南東進する芳久丸が存在し,その後同船が自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近していたが,操舵室を無人としたまま錨泊を続けた。
こうして,わかば丸は,07時00分角島灯台から301度17.2海里の地点において,船首が209度を向いていたとき,その右舷中央部に,芳久丸の船首部が後方から83度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力2の南西風が吹き,視界は良好で,日出時刻は05時07分であった。
A受審人は,朝食を終えて自室で船体に衝撃を感じ,芳久丸と衝突したことを知って事後の措置に当たった。
また,芳久丸は,平成6年7月に進水した,いか一本釣り漁業に従事する一層甲板型FRP製漁船で,船体中央部に操舵室が配置され,B受審人(昭和59年8月一級小型船舶操縦士免許取得,平成16年5月一級小型船舶操縦士免許と特殊小型船舶操縦士免許に更新)ほか2人が乗り組み,船首0.3m船尾2.4mの喫水をもって,同17年5月30日14時00分山口県特牛(こっとい)港を発し,同港北西方33海里ばかりの漁場に至って操業を行い,いか200キログラムを漁獲したのち,帰航の目的で,翌31日05時25分角島灯台から303度33.3海里の地点を発し,乗組員を休息させ,自ら操舵室後部の畳敷きの台に座った姿勢で単独の船橋当直に就き,針路を126度に定め,機関を全速力前進にかけ,10.0ノットの対地速力で,自動操舵により進行した。
06時57分B受審人は,角島灯台から301度17.7海里の地点に達したとき,正船首方930mのところに,わかば丸が存在し,同船が錨泊中であることを示す法定の形象物を表示していなかったものの,同船に対地速力がなく,また,船首からロープが海面に伸びていることなどから,同船が錨泊していることが分かり,その後同船に向首し衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況であったが,操舵室左舷壁際に置いたテレビの放送を見ることに気をとられ,前路の見張りを十分に行っていなかったので,同船に気付かず,同船を避けることなく続航中,芳久丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
B受審人は,船体に衝撃を感じ,わかば丸と衝突したことを知って事後の措置に当たった。
衝突の結果,わかば丸は右舷中央部外板に凹損及び同部ハンドレールに曲損を生じ,芳久丸は船首部に圧損等を生じ,のちそれぞれ修理された。
(海難の原因)
本件衝突は,山口県角島北西方沖合において,南東進中の芳久丸が,見張り不十分で,錨泊中のわかば丸を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
B受審人は,角島北西方沖合において,帰航の目的で南東進する場合,錨泊中のわかば丸を見落とさないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,テレビの放送を見ることに気をとられ,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,わかば丸に気付かず,錨泊中の同船を避けることなく進行して衝突を招き,わかば丸の右舷中央部外板に凹損及び同部ハンドレールに曲損を,芳久丸の船首部に圧損等を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。