(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年5月7日22時55分
広島県広島港
(北緯34度20.7分 東経132度21.5分)
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボート トリトン |
登録長 |
6.79メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
106キロワット |
3 事実の経過
トリトンは,平成16年11月に新規登録された,GPS装置を有するFRP製モーターボートで,A受審人が1人で乗り組み,魚釣りの目的で,甥1人及び知人1人の計2人を乗せ,船首0.1メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,同17年5月7日18時15分広島港第3区にある廿日市ボートパークの係留場所を発し,山口県岩国市沖合の間ノ磯へ向かった。
19時00分A受審人は,間ノ磯に到着して2時間半ないし3時間に渡って魚釣りを行ったのち,めばる50ないし60尾の漁獲を得て帰途に就き,22時47分広島港広島ガス廿日市シーバース灯(以下,衝突地点を表記する場合を除き「シーバース灯」という。)から151度(真方位,以下同じ。)1.9海里の地点に達したとき,針路を000度に定め,機関を半速力前進の回転数毎分2,700にかけ,16.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,法定灯火を表示して,手動操舵によって進行した。
ところで,A受審人は,廿日市ボートパークと間ノ磯間の海域を何回も航行した経験があったことから,当該海域の水路事情については十分に承知しており,帰航に際しては,平素から,広島県絵ノ島を過ぎた辺りで,広島はつかいち大橋橋梁灯をほぼ船首目標と定めて北上したのち,廿日市木材岸壁貯木場を囲む防波堤(以下「貯木場護岸」という。)の南東角に設けられている緑の標識灯を確認してから,木材港北岸壁と五日市岸壁の水路を経て,前示ボートパークに帰港していた。
そして,22時53分A受審人は,シーバース灯から097度0.9海里の地点に至ったとき,貯木場護岸から1,000メートルのところまで接近し,そのまま進行すると同護岸に衝突するおそれがある状況となったが,同乗していた甥が操縦免許の取得を希望していたことから,同人にトリトンの操縦方法などを教えることに気を取られ,船位の確認を十分に行わなかったので,当該状況となったことに気付かなかった。
こうして,A受審人は,その後も,作動させていたGPSを使用するなりして,船位の確認を十分に行うことなく続航中,22時55分広島港広島ガス廿日市シーバース灯から066度1.0海里の地点において,トリトンは,原針路,原速力のまま,貯木場護岸に衝突した。
当時,天候は曇で風力3の北北東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
衝突の結果,船首船底に亀裂を生じたが,のち修理され,A受審人が左第7,8肋骨を骨折したうえ,下顎部に裂傷を負ったほか,同乗者2人が右肋骨不全骨折などの傷を負った。
(海難の原因)
本件護岸衝突は,夜間,広島港において,廿日市ボートパークへ向けて帰航中,船位の確認が不十分で,貯木場護岸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,広島港において,沖合の釣り場から廿日市ボートパークへ向けて帰航する場合,岸壁間の狭い水路へ向かって進行して行くのであるから,岸壁や護岸などに衝突しないよう,GPSを使用するなりして,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,同乗していた甥に操縦方法などを教えることに気を取られ,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,自船が護岸に衝突するおそれがある状況となったことに気付かず,安全な進入進路に転じることなく進行して衝突を招き,船首船底に亀裂を生じさせるとともに,自らの左第7,8肋骨を骨折したうえ,下顎部に裂傷を負ったほか,同乗者2人に右肋骨不全骨折などの傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して,同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。