(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年10月15日13時20分
香川県大島西方沖合
(北緯34度24.0分 東経134度05.7分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三末好丸 |
モーターボート大野 |
総トン数 |
1.5トン |
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全長 |
8.96メートル |
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登録長 |
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5.38メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
86キロワット |
44キロワット |
3 事実の経過
第三末好丸(以下「末好丸」という。)は,平成4年12月に進水した刺網漁業に従事するFRP製漁船で,昭和51年3月に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が1人で乗り組み,主機排気管修理の目的で,船首0.10メートル船尾0.50メートルの喫水をもって,平成17年10月15日13時05分香川県男木漁港を発し,同県庵治港に向かった。
13時10分A受審人は,港内操船を終えて庵治白石礁照射灯(以下「照射灯」という。)から293度(真方位,以下同じ。)3.30海里の地点に至り,前路の浅瀬に設置されたのり養殖施設を避けるため,針路を114度に定め,機関を全速力前進にかけて12.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし,操舵室後方左舷側に立って,手動操舵により進行した。
13時15分A受審人は,照射灯から292.5度2.30海里の,のり養殖施設の北東端を表示する黄色灯浮標の北東方10メートルばかりの地点に達し,針路をほぼ庵治港港口に向く123度に転じることにした際,転針方向の庵治港港口の防波堤灯台が見えなかったので,同港港口付近に向けて転針し,その後,自船の周囲を確認したところ,航行の障害となるものが見当たらなかったので,しばらくの間なら見張りを中断しても大丈夫と思い,操舵室後方のドアを開けてかがみ込み,修理予定の排気管亀裂の漏水状況の確認をしながら続航した。
13時19分A受審人は,照射灯から287度1.50海里の地点に達したとき,正船首350メートルのところに,錨泊中の大野が視認でき,その後,同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが,かがみ込んで前路の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,大野を避けることなく進行した。
こうして,末好丸は,A受審人が大野に気付かないまま続航中,13時20分照射灯から284度1.3海里の地点において,原針路,原速力のまま,末好丸の右舷船首部が大野の右舷中央部に前方から58度の角度をもって衝突した。
当時,天候は曇で風力1の北東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で,付近には約1.5ノットの北東流があった。
また,大野は,航行区域を限定沿海区域とするFRP製釣船で,本件当時失効していた昭和53年12月に取得した四級小型船舶操縦士免許を受有するB受審人が1人で乗り組み,釣りの目的で,船首0.30メートル船尾0.45メートルの喫水をもって,同日12時50分香川県久通港を発し,同県大島西方沖合の釣り場に向かった。
13時05分ごろB受審人は,前示衝突地点付近の水深約2メートルの地点に至り,船首から重量6.5キログラムの鋼製錨を投入し,直径12ミリメートルの麻索を約12メートル繰り出してクリートに係止し,所定の錨泊中の形象物を掲揚しないまま,機関を停止し,折からの潮流の影響で船首を風向とはほぼ逆方向の245度に向け,一見して錨泊中であることが分かる状態で,船尾甲板中央部に置いた物入れ箱に船尾方を向いて腰をおろし,釣り竿を2本出して釣りを始めた。
13時19分B受審人は,右舷船首58度350メートルまで接近した末好丸の機関音で初めて同船に気付き,同船が衝突のおそれがある態勢で自船に接近しているのを知ったが,今まで自船に向首接近する他船があっても錨泊中の自船を避けてくれていたので,末好丸も避けてくれるものと思い,避航を促す音響信号を行うことも,更に接近したとき,衝突を避けるための措置をとることもなく,そのまま錨泊を続けた。
こうして,大野は,13時20分わずか前B受審人が至近に迫った末好丸に身の危険を感じ,左舷船尾部から海中に飛び込んだとき,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,末好丸は,右舷船首船底に擦過傷を,大野は,右舷中央部外板などを破損した。
(海難の原因)
本件衝突は,香川県大島西方沖合において,同県庵治港に向けて航行中の第三末好丸が,見張り不十分で,前路で錨泊中の大野を避けなかったことによって発生したが,大野が,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,香川県大島西方沖合において,同県庵治港に向けて航行する場合,錨泊中の大野を見落とすことのないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,主機排気管亀裂の漏水状況の確認に気をとられ,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,錨泊中の大野に気付かないまま進行して同船との衝突を招き,右舷船首船底に擦過傷を生じさせ,大野の右舷中央部外板などを破損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,香川県大島西方沖合において,錨泊して釣りを行っていたとき,衝突のおそれがある態勢で接近する第三末好丸を視認した場合,同船が速やかに避航動作がとれるよう,避航を促す音響信号を行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,今まで自船に向首接近する他船があっても錨泊中の自船を避けてくれていたので,第三末好丸も避けてくれるものと思い,避航を促す音響信号を行わなかった職務上の過失により,同船が自船を避航するのを期待し,衝突を避けるための措置をとることなく錨泊を続け,第三末好丸との衝突を招き,前示損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3項を適用して同人を戒告する。