(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年8月20日10時18分
島根県地蔵埼北西方沖合
(北緯35度36.1分 東経133度16.7分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
遊漁船第六海友 |
モーターボート武丸 |
総トン数 |
10トン |
|
全長 |
17.35メートル |
7.07メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
242キロワット |
52キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 第六海友
第六海友(以下「海友」という。)は,平成元年に進水した,航海速力23.0ノットのFRP製遊漁船で,主に京都府沖合において遊漁船として使用されていたが,代替船が新造されたことから売船されることとなり,定係地である宮津市から長崎県佐世保港へ向けて回航の途上であった。
イ 武丸
武丸は,平成7年4月に進水した,エアーホーンなどの有効な音響信号装置を装備していない,航海速力22.0ノットのFRP製モーターボートで,主に島根県七類港沖合において魚釣りに使用されていた。
3 事実の経過
海友は,A受審人ほか2人が乗り組み,回航の目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成17年8月18日09時00分京都府宮津港を発し,長崎県佐世保港へ向かった。
17時00分A受審人は,時化模様となってきたことから,一旦,鳥取県境港に荒天避難のため入港したのち,翌々20日09時30分天候が回復したことから,甲板員1人を下船させて再び佐世保港へ向かい,10時10分美保関灯台から023度(真方位,以下同じ。)0.3海里の地点に達したとき,針路を305度に定め,機関を全速力前進の回転数毎分2,000にかけ,23.0ノットの対地速力で,手動操舵によって進行した。
ところで,A受審人は,自船が機関を回転数毎分1,800以上にかけて航行すると,船首浮上によって水平線が隠れ,船橋中央部の舵輪後方に立って見張りに当たると,船首部に左右10度ずつ,合計約20度の範囲に渡って死角が生じることから,平素は,船首を振るなりして,船首死角を補う見張りを行っていた。
そして,10時16分半A受審人は,美保関灯台から312度2.5海里の地点に至ったとき,正船首方0.6海里のところに,武丸を視認することができ,その後,同船に向首したまま,衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,定針したころ航行の支障となるような船舶を認めていなかったことから,大丈夫と思い,前示死角を補う見張りを十分に行わなかったので,武丸の存在に気付かなかった。
こうして,10時17分半わずか過ぎA受審人は,武丸から300メートルのところまで接近したが,依然として,その存在に気付かず,同船を避けることなく続航中,10時18分美保関灯台から311度3.1海里の地点において,海友は,原針路,原速力のまま,その船首が,武丸の左舷船首部に前方から80度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力2の南風が吹き,視界は良好であった。
また,武丸は,B受審人が1人で乗り組み,友人2人を乗せ,魚釣りの目的で,船首尾とも0.3メートルの等喫水をもって,同日05時30分島根県七類港を発し,同港北東方沖合1ないし2海里付近の釣り場へ向かった。
05時50分B受審人は,釣り場に到着して直ちに魚釣りを始め,ときどき場所を変えながら,07時10分水深約50メートルの前示衝突地点に至ったとき,直径14ミリメートルの化学繊維製ロープを錨索として結んだ重さ9キログラムの鋼製錨を投下し,同索を約90メートル延出して船首に舫い,海上衝突予防法に定められた黒色の球形形象物(以下「法定形象物」という。)を表示しないまま,機関を中立運転として錨泊を行い,後部甲板の右舷側に座って魚釣りを続けた。
そして,10時05分B受審人は,同乗者から帰りたい旨の要望があったことから,帰途に就くこととして釣り道具類を片付けていたところ,10時16分半船首が205度方向を向いていたとき,左舷船首80度0.6海里のところに,海友を視認することができ,その後,同船が自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,手仕舞い作業に気を取られ,周囲の見張りを十分に行わなかったので,海友が接近することに気付かなかった。
こうして,10時17分半わずか過ぎB受審人は,同乗者の指摘により,自船から300メートルのところまで迫った海友を認めて衝突の危険を感じ,有効な音響信号装置による注意喚起信号を行うことができない状態の下,直ちに中立運転としていた機関のクラッチを後進に入れたものの,潮流の影響などを受けて前方に延びていた錨索が張っていたことから,後方へ十分に移動することができず,武丸は,205度に向首した態勢で,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,海友は船底部に擦過傷及び両舷機のプロペラに曲損を生じ,武丸は左舷前部外板を損傷するとともに,武丸の同乗者Cが海中に転落して水死した。
(本件発生に至る事由)
1 海友
(1)A受審人が,死角を補う見張りを十分に行わなかったこと
(2)A受審人が,武丸の存在に気付かなかったこと
(3)武丸を避けなかったこと
2 武丸
(1)法定形象物を表示していなかったこと
(2)B受審人が,周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(3)B受審人が,海友が接近することに気付かなかったこと
(4)衝突を避けるための措置をとらなかったこと
(原因の考察)
海友は,船首浮上によって船首方に死角が生じていたのであるから,船橋当直に当たっていた船長が,同死角を補う見張りを十分に行っていたならば,正船首方で錨泊している武丸の存在に容易に気付き,同船を避けることは可能であったものと認められる。
したがって,A受審人が,船首死角を補う見張りを十分に行わず,武丸の存在に気付かないまま,同船を避けることなく進行したことは,本件発生の原因となる。
一方,武丸は,法定形象物を表示しないまま錨泊して魚釣りをしていた船長が,周囲の見張りを十分に行っていたならば,自船に向首して接近する海友を視認することは容易であり,速やかに衝突を避けるための措置をとることは可能であったものと認められる。
したがって,B受審人が,周囲の見張りを十分に行わず,海友が接近することに気付かないまま,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
B受審人が,法定形象物を表示していなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは法令遵守及び海難防止の観点から是正されるべき事項である。
(海難の原因)
本件衝突は,島根県七類港北東方沖合において,航行中の海友が,見張り不十分で,正船首方で錨泊している武丸を避けなかったことによって発生したが,武丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,島根県七類港北東方沖合において,佐世保港へ向けて航行する場合,船首浮上により船首方に死角が生じていたのであるから,死角内の船舶を見落すことがないよう,船首を振るなりして,死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,付近に航行の支障となるような船舶を認めなかったことから,大丈夫と思い,死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,正船首方で錨泊中の武丸に気付かないまま,同船を避けることなく進行して衝突を招き,自船の船底部に擦過傷及び両舷機のプロペラに曲損を生じさせ,武丸の左舷前部外板を損傷させるとともに,同船の同乗者1人を水死させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して,同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。
B受審人は,島根県七類港沖合において,錨泊して魚釣りをする場合,釣り場は港から1ないし2海里の距離にあり,船舶が航行する海域であることから,接近する他船を見落とすことがないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,帰途に就く前の手仕舞い作業に気を取られ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,海友が接近することに気付かず,速やかに機関を使用して前方へ移動するなりして,衝突を避けるための措置をとることなく錨泊を続けて衝突を招き,前示の損傷等を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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