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平成18年神審第30号
件名

貨物船第八福昇丸漁船金栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年7月25日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(甲斐賢一郎,雲林院信行,横須賀勇一)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:第八福昇丸機関長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:金栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第八福昇丸・・・左舷船首部外板に擦過傷
金栄丸・・・船首部両舷外板に亀裂

原因
金栄丸・・・見張り不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
第八福昇丸・・・警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,金栄丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る第八福昇丸の進路を避けなかったことによって発生したが,第八福昇丸が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年7月22日04時40分
 播磨灘
 (北緯34度26.9分 東経134度36.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第八福昇丸 漁船金栄丸
総トン数 198トン 4.9トン
登録長 52.51メートル 11.46メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 588キロワット  
漁船法馬力数   15
(2)設備及び性能等
ア 第八福昇丸
 第八福昇丸(以下「福昇丸」という。)は,平成元年5月に進水した船尾船橋型鋼製貨物船で,船橋内中央には,ジャイロコンパスの組み込まれた操舵装置,その右舷側に主機制御盤,左舷側にレーダー2台が設置されており,舵輪が操舵装置後面に,モーターホーンのスイッチが同装置上面に設備されていた。
 操船者が舵輪の後に立つと,窓枠等で周囲視界の一部に死角が生じたが,船橋内を移動すれば解消できた。
イ 金栄丸
 金栄丸は,昭和62年6月に進水した,船体中央やや後部に操舵室のあるFRP製漁船で,操舵室内前面にマグネットコンパス,オートパイロット,魚群探知機,レーダー,GPSプロッターなどが設備されていた。
 操船者が操舵室内の椅子に腰掛けると,窓枠などで周囲視界の一部に死角が生じたが,頭を左右に振れば解消でき,操舵室を離れて後部甲板で操業や操業準備作業を行うときは,操舵室などで前方視界に死角が生じたが,左右に移動すれば解消できた。

3 事実の経過
 福昇丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,銅板650トンを積載し,船首2.60メートル船尾3.65メートルの喫水をもって,平成16年7月21日12時00分大分県佐賀関港を発し,大阪港に向かった。
 発航後,福昇丸は,船橋当直体制をA受審人と船長による単独6時間2直制をとりながら,瀬戸内海を東行して日没後は航海灯を点灯し,翌22日未明に備讃瀬戸東航路を抜けて播磨灘に差し掛かった。
 ところで,播磨灘は,備讃瀬戸東航路東口から明石海峡航路西口までの間に推薦航路が設定されており,一般船舶の通航が多いばかりか,漁船の操業も多い海域であった。
 A受審人は,03時40分讃岐水ノ子礁灯標から169度(真方位,以下同じ。)4.8海里の地点で,推薦航路に沿って針路を068度に定め,機関を全速力前進として,9.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
 04時30分A受審人は,讃岐水ノ子礁灯標から101度8.5海里の地点に達したとき,左舷船首44度2.1海里のところに南下する金栄丸の白・緑2灯を初めて認めてその船体を確認し,同船に対する動静監視を開始した。
 04時35分A受審人は,讃岐水ノ子礁灯標から099度9.2海里の地点に至って,金栄丸がその方位に明確な変化のないまま,距離が1.0海里となり,衝突のおそれのある態勢で接近してくるのを認めたが,いずれ自船を避けるものと思い,その後,同船に対して警告信号を行わず,さらに接近しても大きく右転するなど衝突を避けるための協力動作をとらなかった。
 04時39分A受審人は,金栄丸が避航しないので少し不安となり,自動操舵のまま右に10度転針して様子を見ていたが,04時40分少し前衝突の危険を感じて,手動操舵で右舵一杯として機関を後進に入れたが,効なく,04時40分讃岐水ノ子礁灯標から096度9.6海里の地点において,船首が086度に向いて,速力が9.0ノットとなったとき,福昇丸の左舷船首部に金栄丸の船首が後方から71度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力2の南西風が吹き,視界は良好で,日出時刻は05時03分,その前の常用薄明時間は30分であった。
 また,金栄丸はB受審人が1人で乗り組み,底引き網漁の目的で,航海灯を点灯して船首0.15メートル船尾1.10メートルの喫水をもって,22日03時20分兵庫県坊勢漁港を発し,淡路島西方の漁場に向かった。
 B受審人は,03時33分坊勢港西ノ浦西5号防波堤灯台から160度1.0海里の地点で,針路を157度に定め,機関を全速力前進として9.0ノットの速力で,自動操舵により進行した。
 04時30分B受審人は,讃岐水ノ子礁灯標から088度9.3海里の地点に至って,推薦航路を過ぎたら直ぐに網を入れることとして,左舷船尾に出て後方を向きながら漁網の点検を始めた。
 04時35分B受審人は,讃岐水ノ子礁灯標から092度9.5海里の地点に達したとき,福昇丸を右舷船首47度1.0海里に視認できる状況であったが,漁網の点検に気をとられて見張りを行わなかったので,この状況に気付かず,同船の進路を避けることなく続航した。
 こうして,B受審人は,04時40分少し前漁網の点検を終えて左舷側通路を通って操舵室に戻り,04時40分操舵席に腰を下ろしたとき,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,福昇丸は左舷船首部外板に擦過傷を,金栄丸は船首部両舷外板に亀裂をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。

(本件発生に至る事由)
1 福昇丸
(1)いずれ金栄丸が自船を避けるものと思ったこと
(2)警告信号を行わなかったこと
(3)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

2 金栄丸
(1)漁網の点検に集中していたこと
(2)見張りを十分に行わなかったこと
(3)福昇丸の進路を避けなかったこと

3 その他
 播磨灘は一般船舶の通航が多く,漁船の操業も多い海域であったこと

(原因の考察)
 本件は,福昇丸が,前路を右方に横切る態勢の金栄丸に対し,警告信号を行い,その後さらに金栄丸が避航の気配なく接近したとき,大きく右転するなど衝突を避けるための協力動作をとっていたなら,衝突を回避することができたものと認められる。
 したがって,A受審人が,いずれ金栄丸が自船を避けるものと思い,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,金栄丸が,漁網の点検に集中することなく,見張りを十分に行っておれば,前路を左方に横切り,衝突のおそれのある態勢で接近する福昇丸に容易に気付き,その進路を避けることができたものと認められる。
 したがって,B受審人が,漁網の点検に集中して,見張りを十分に行わなかったことと,福昇丸の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 また,播磨灘は一般船舶の通航が多く,漁船の操業も多い海域であったことは,双方ともこの海域での経験が深く,このことを十分に認識していたので,本件発生の原因とはならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,播磨灘において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近しているとき,南下中の金栄丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る福昇丸の進路を避けなかったことによって発生したが,東行中の福昇丸が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,播磨灘において,坊勢漁港から漁場に向かう場合,同灘は多くの船舶が航行する海域であるから,接近する福昇丸を見落とさないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,左舷船尾で後方を向いて漁網の点検に集中して,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路を左方に横切り,衝突のおそれがある態勢で接近する福昇丸に気付かず,その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き,金栄丸の船首部両舷外板に亀裂を,福昇丸の左舷船首部外板に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は,播磨灘において,推薦航路を東行中,前路を右方に横切る金栄丸が衝突のおそれのある態勢で避航の気配のないまま間近に接近するのを認めた場合,大きく右転するなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかしながら,同人は,いずれ金栄丸が自船を避けるものと思い,衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により,同船との衝突を招き,前示損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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