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 (海難の事実) 
1 事件発生の年月日時刻及び場所 
 平成16年12月25日13時00分 
 徳島県牟岐港南方沖合 
 (北緯33度38.5分 東経134度25.1分) 
 
2 船舶の要目等 
(1)要目 
| 船種船名 | 
遊漁船第三志和丸 | 
モーターボートルーラー | 
 
| 総トン数 | 
3.2トン | 
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| 登録長 | 
9.56メートル | 
5.37メートル | 
 
| 機関の種類 | 
電気点火機関 | 
電気点火機関 | 
 
| 出力 | 
136キロワット | 
36キロワット | 
 
  
(2)設備及び性能等 
ア 第三志和丸 
 第三志和丸(以下「志和丸」という。)は,平成7年7月に進水し,船体中央やや後部に操舵室のあるFRP製遊漁船で,操縦席に座って周囲を見回すと窓枠等で死角が生じるが,体を左右に移動させることでその死角を解消することができた。 
イ ルーラー 
 ルーラーは,船体中央の右舷側に操舵スタンドや操縦席があり,船尾の船外機に連結された丸型ハンドル,始動スイッチ,スロットルなどのある無蓋のFRP製モーターボートで,機関を停止して操縦席から離れていても10秒ほどで,船外機を始動して移動開始することが可能であった。 
 
3 事実の経過 
 志和丸は,A受審人が1人で乗り組み,釣客2人を乗せ,遊漁の目的で,船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成16年12月25日06時30分徳島県牟岐港を発し,同港南方の釣場に向かった。 
 07時15分A受審人は,出羽島南方400メートルの沖合で錨泊して釣客に遊漁を行わせ,その後釣果を得たので,12時52分釣場を離れて牟岐港に戻ることとした。 
 12時58分A受審人は,出羽島港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から237度(真方位,以下同じ。)630メートルの地点に達したとき,針路を005度に定め,12.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,手動操舵により進行した。このとき,正船首方770メートルのところに船首を東に向けて錨泊中のルーラーが,錨泊船であることを示す黒色球形形象物を掲げていなかったものの,速力がなく,船尾で船釣りをしていることが視認でき,この地域では船釣り中の小型船は錨泊していたことから,同船が錨泊していることが推察できる状況であったが,A受審人は,前方を一瞥しただけで支障となる他船はいないものと思い,見張りを十分に行わないで,波に洗われる舷外の防舷体の揚収を釣客に依頼るなどしていて,ルーラーに気付かないまま続航した。 
 こうして,12時59分A受審人は,東防波堤灯台から277度520メートルの地点に至って,正船首方390メートルのところで錨泊するルーラーに向首して衝突のおそれのある態勢で接近したが,依然として見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,ルーラーを避けることなく進行して,13時00分東防波堤灯台から311度600メートルの地点において,志和丸は,原針路,原速力のまま,その船首がルーラーの右舷後部に前方から90度の角度で衝突し,これを乗り切った。 
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,視界は良好であった。 
 また,ルーラーは,B受審人が1人で乗り組み,友人1人を同乗させ,釣りの目的で,船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって,同日06時00分牟岐港を発し,出羽島北東方沖合の釣場に至り,釣りを開始し,何度かポイントを変えたのち,12時30分前示衝突地点付近で,停止した船外機を直ちに使用できる状態にして,水深10メートルの海底に重さ約10キログラムの鉄製錨を投入し,太さ9ミリメートルの化学繊維製錨索20メートルを繰り出して船首に係止し,錨泊船であることを示す黒色球形形象物を掲げないまま錨泊した。 
 12時58分B受審人は,船首を東方に向けて友人と船尾で釣りをしているとき,右舷船尾85度770メートルに志和丸を初認し,その後動静を確認して同船が自船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近することを認めたが,いずれ自船を避けるものと思い,直ちに機関を始動して移動するなど,衝突を避けるための措置をとることなく錨泊したまま釣りを続けた。 
 13時00分少し前B受審人は,至近に迫った志和丸との衝突の危険を感じ,立ち上がって大声を出しながら同船に手を振ったが効なく,同人と友人が船尾方海中に飛び込んだ直後,ルーラーは095度に向首していたとき前示のとおり衝突した。 
 衝突の結果,志和丸は船首部波切り材に擦過傷,推進器に曲損などを生じ,ルーラーは両舷後部外板を大破し,後日志和丸は修理されたが,ルーラーは廃船とされた。 
 
(本件発生に至る事由) 
1 志和丸 
(1)前方を一瞥しただけで支障となる他船はいないと思い,見張りを十分に行わなかったこと 
(2)波に洗われる舷外の防舷体の揚収を釣客に依頼していたこと 
(3)ルーラーを避けなかったこと 
 
2 ルーラー 
(1)錨泊船であることを示す黒色球形形象物を掲げないまま錨泊したこと 
(2)いずれ志和丸が自船を避けると思い,直ちに機関を始動して移動するなど衝突を避けるための措置をとらなかったこと 
 
(原因の考察) 
 本件は,北上中の志和丸が,見張りを十分に行っておれば,前路に錨泊中のルーラーを視認して避航することは容易であり,衝突を回避できたものと認められる。 
 したがって,A受審人が,前方を一瞥しただけで支障となる他船はいないものと思い,見張りを十分に行わず,錨泊中のルーラーを避けなかったことは,本件発生の原因となる。 
 波に洗われる舷外の防舷体の揚収を釣客に依頼していたことは,見張りへの集中を完全に妨げるものではなく,そのような依頼をしていても見張りを十分に行うことは可能であるので,原因とはならない。 
 一方,錨泊中のルーラーが,衝突のおそれのある態勢で自船に向首接近する志和丸を認めたとき,直ちに機関を始動して移動するなど,衝突を避けるための措置をとっておけば,本件発生を回避できたものと認められる。 
 したがって,B受審人が,向首接近する志和丸がいずれ自船を避けるものと思い,直ちに機関を始動して移動するなど,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。 
 ルーラーが錨泊船であることを示す黒色球形形象物を掲げないまま錨泊したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があると認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。 
 
(海難の原因) 
 本件衝突は,徳島県牟岐港南方沖合において,志和丸が,同港に向けて北上する際,見張りが不十分で,前路で錨泊中のルーラーを避けなかったことによって発生したが,ルーラーが,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。 
 
(受審人の所為) 
 A受審人は,徳島県牟岐港南方沖合において,同港に向けて北上する場合,前路で錨泊中のルーラーを見落とすことのないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,前方を一瞥して支障となる他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,錨泊中のルーラーに気付かず,これを避けないまま進行して衝突を招き,志和丸の船首部波切り材に擦過傷,推進器に曲損などを生じさせ,ルーラーの両舷後部外板を大破させるに至った。 
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。 
 B受審人は,徳島県牟岐港南方沖合において,釣りの目的で錨泊中,志和丸が衝突のおそれのある態勢で自船に向首接近するのを認めた場合,直ちに機関を始動して移動するなど,衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかしながら,同人は,いずれ志和丸が自船を避けるものと思い,衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により,錨泊を続けて志和丸との衝突を招き,前示損傷を生じさせるに至った。 
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 
 
 よって主文のとおり裁決する。 
 
 
参考図 
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