(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年11月18日07時05分
高知県宇佐港
(北緯33度26.3分 東経133度25.6分)
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボート昌丸 |
漁船嘉丸 |
総トン数 |
|
0.3トン |
登録長 |
5.85メートル |
5.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
44キロワット |
|
漁船法馬力数 |
|
30 |
3 事実の経過
昌丸は,昭和61年11月に進水したFRP製モーターボートで,昭和57年8月に四級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み,魚釣りの目的で,船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成17年11月18日07時00分高知県宇佐港内の須崎市浦ノ内灰方にある定係地を発し,同港港外の釣り場に向かった。
ところで,昌丸は,船体中央部やや後方に舵輪及び主機遠隔操縦用レバーを装備した操舵スタンドを備え,同スタンド前面及び側面には,甲板上高さ1.8メートルのところまでビニール製の風除けを,その上方に日除けのオーニングを設けていた。
07時03分少し過ぎA受審人は,高知県土佐市宇佐町福島の標高149メートル頂三角点(以下「三角点」という。)から241度(真方位,以下同じ。)650メートルの地点で,針路を116度に定めたところ,ほぼ正船首で高度5度のところに太陽が位置し,風除けのビニールに太陽の光が当たって前路が見えにくくなったので,風除けの左舷側から顔を出して前方の見張りを行いながら,5.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で手動操舵により進行した。
07時03分半A受審人は,三角点から237度620メートルの地点に至ったとき,右舷船首16度400メートルのところに,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する嘉丸を視認できる状況であったが,右舷前方には低潮時に干出する砂州があるので,同方向から接近する他船はいないものと思い,風除けの左舷側から前方を見るだけで,右舷船首方の見張りを十分に行わなかったので,風除けの陰になって右舷船首方から接近する嘉丸に気付かず,同船の進路を避けることなく続航し,07時05分三角点から218度550メートルの地点において,昌丸の右舷船首部が,原針路,原速力のまま前方から37度の角度で嘉丸の船首に衝突した。
当時,天候は晴で風力2の北風が吹き,視界は良好で,潮候は上げ潮の末期であった。
また,嘉丸は,平成2年4月に進水し,船尾に船外機を装備した和船型FRP製漁船で,昭和32年に旧小型船舶操縦士の免許を取得し,同50年2月に小型船舶操縦士の免許に切り換えたのち,平成15年7月に小型船舶操縦士(一級・特殊)の免許に更新したB受審人が船長として,ほか1人が乗り組み,刺網揚網の目的で,船首尾とも0.1メートルの等喫水をもって,有効な音響による信号を行うことができる手段を講じないまま,同日06時00分宇佐港内の深浦漁港の定係地を発し,同地の南東方2,000メートルばかりにある漁場に向かった。
B受審人は06時15分ごろ漁場に到着し,南下しながら刺網4枚を揚網したのち帰航することとして,07時01分半少し過ぎ三角点から190度800メートルの地点で,針路を333度に定め,4.0ノットの速力で手動操舵により進行した。
07時03分半B受審人は,三角点から201度650メートルの地点に達したとき,左舷船首21度400メートルのところに東行する昌丸を視認して同船の動静監視を行っていたところ,前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めたが,自船の右舷方から船尾方にかけては,低潮時に干出する砂州があり,日ごろ漁場からの帰航時には,他船が同砂州の南方に向首して自船の船尾方を航過していたことから,いずれ同船も自船の船尾方に向けるものと思い,さらに接近しても,機関を後進にかけて停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく,同一針路,速力で続航した。
07時05分わずか前B受審人は,避航の様子を見せないまま左舷船首至近に迫った昌丸に衝突の危険を感じ,機関中立としたものの及ばず,わずかな前進行きあしを残して前示のとおり衝突した。
衝突の結果,昌丸は,右舷船首部外板に亀裂を,嘉丸は,船首に亀裂をそれぞれ生じた。
(海難の原因)
本件衝突は,宇佐港内において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,東行する昌丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る嘉丸の進路を避けなかったことによって発生したが,北上する嘉丸が,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,宇佐港内において,港外の釣り場に向けて東行する場合,前路を左方に横切る態勢で接近する嘉丸を見落とすことのないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,低潮時に干出する砂州が存在する右舷船首方から接近する他船はいないものと思い,風除けの左舷側から前方の見張りを行うだけで,右舷側の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,風除けの陰になって右舷船首方から接近する嘉丸を認めることができず,同船の進路を避けずに進行して衝突を招き,昌丸の右舷船首部外板に亀裂を,嘉丸の船首に亀裂をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,宇佐港内において,操業を終えて北上中,前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する昌丸を認めた場合,機関を後進にかけて停止するなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかしながら,同人は,日ごろ漁場からの帰航時には,他船が自船の右舷方にある低潮時に干出する砂州の南方に向首して自船の船尾方を航過していたことから,いずれ昌丸も自船の船尾方に向けるものと思い,さらに接近しても,機関を後進にかけて停止するなど衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により,至近に迫った昌丸に衝突の危険を感じて機関を中立としたものの及ばず,昌丸との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。