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平成17年仙審第30号
件名

貨物船第三十八開神丸漁船第三海栄丸漁具衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年7月31日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(小寺俊秋)

理事官
宮川尚一

受審人
A 職名:第三十八開神丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:第三十八開神丸次席一等航海士 海技免許:五級海技士(航海)(履歴限定)
C 職名:第三海栄丸船長 海技免許:五級海技士(航海)

損害
第三十八開神丸・・・損傷ない
第三海栄丸・・・まき網上部に破網

原因
第三十八開神丸・・・見張り不十分,各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
第三海栄丸・・・注意を喚起しなかったこと(一因)

裁決主文

 本件漁具衝突は,第三十八開神丸が,見張り不十分で,まき網による漁ろうに従事中の第三海栄丸を避けなかったことによって発生したが,第三海栄丸が,注意を喚起しなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年8月10日03時15分
 青森県八戸港北東方沖合
 (北緯40度39.0分 東経141度39.0分)

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三十八開神丸 漁船第三海栄丸
総トン数 498トン 80トン
登録長 73.70メートル 29.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 672キロワット

3 事実の経過
 第三十八開神丸(以下「開神丸」という。)は,全通二層甲板を有する船尾船橋型鋼製貨物船で,A,B両受審人ほか2人が乗り組み,海水100トンをバラストタンクに積み,空倉のまま,船首0.60メートル船尾3.45メートルの喫水をもって,平成16年8月9日16時50分北海道室蘭港を発し,青森県八戸港に向かった。
 A受審人は,発航操船に引き続いて単独の船橋当直に就き,津軽海峡東方沖合を南下した後,23時30分尻屋埼灯台から153度(真方位,以下同じ。)8.2海里の地点で,180度の針路及び11.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)をB受審人に引き継ぎ,同当直を交替して降橋した。
 ところで,A受審人は,船橋当直を交替する際,開神丸の主な航路が千葉港から兵庫県姫路港に至る本州南西岸の諸港間であって,B受審人にとって,千葉港以北の航海は2回目であったことから,この海域で行われているまき網漁業の操業に遭遇した十分な経験を有していなかったが,これまで無難に船橋当直を行っていたので,同人に任せておいても大丈夫と思い,入港時刻に合わせて八戸港沖で時間調整をするように指示したのみで,船団を組んで操業している漁船群に遭遇したなら,双眼鏡を用いて操業状況を確認したり,レーダーを小さなレンジとして浮子(あば)を探知し,漁網の展張状況を確認して大幅に避けるなど,見張りや操業する漁船群の避航に関する具体的な注意を行わなかった。
 B受審人は,単独の船橋当直に就いて下北半島東岸沖合を南下し,翌10日01時36分むつ小川原港新納屋南防波堤灯台から091度6.6海里の地点に達したとき,前路に数十隻の漁船群の灯火を視認したので,これを避けるため針路を164度に定め,機関を全速力前進にかけて同じ速力のまま自動操舵によって進行し,02時15分入港時刻を調整するため,機関の回転数をわずかに落として10.0ノットに減速した。
 02時35分ごろB受審人は,正船首方の水平線上に黄色の灯火を認め,漁船が止まって操業しているものと判断し,02時40分鮫角灯台から008度12.1海里の地点に至ったとき,前路の同灯火を避けるため,針路を159度に転じて続航した。
 03時08分少し前B受審人は,鮫角灯台から024度8.3海里の地点に至ったとき,右舷船首35度1.1海里付近に右旋回しながら投網している第三海栄丸(以下「海栄丸」という。)と,その周辺に同船とまき網船団を構成する数隻の漁船を初認するとともに,1隻の漁船が,探照灯を照射し,汽笛を吹鳴しながら東方に移動して前路を左舷に替わったのを認め,針路を200度に転じ,海栄丸を左舷前方に見て進行した。
 B受審人は,03時11分半鮫角灯台から024度7.8海里の地点に達したとき,左舷に替わった漁船が右舷に戻ったので,再び針路を159度に戻したところ,海栄丸が右舷船首29度910メートルに,同船が展張したまき網の東端が正船首1,050メートルになって,双眼鏡を用いて操業状況を確認したり,レーダーを小さなレンジとして浮子を探知するなど見張りを十分に行えば,同船が投網していることや,同網の浮子の存在を知ることができ,その後同網と衝突のおそれのある態勢で接近することを認め得る状況であった。
 しかし,B受審人は,まき網漁業の操業に遭遇した十分な経験がなかったことから,見えている漁船をかわせば大丈夫と思い,見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,大きく沖出しするなど海栄丸を大幅に避けないまま続航中,03時15分鮫角灯台から027度7.4海里の地点において,開神丸は,原針路,原速力のまま,その船首が,海栄丸が展張したまき網の東端付近の上部に衝突し,これを乗り切った。
 当時,天候は晴で風力2の南西風が吹き,潮候は下げ潮の末期で,視界は良好であった。
 B受審人は,再度探照灯による照射を受けたが,まき網に衝突したことに気付かないまま八戸港に向かい,入港直前に海栄丸からの船舶電話でその事実を知らされ,一旦(いったん)同港に入港した後,A受審人とともに事後の措置にあたった。
 また,海栄丸は,船体中央より少し船首方に操舵室を有する鋼製漁船で,C受審人ほか23人が乗り組み,船首1.8メートル船尾3.2メートルの喫水もって,まき網船団の網船として搭載艇1隻を曳航し,運搬船2隻及び探索船1隻とともに同船団を構成し,操業の目的で,同月9日15時30分八戸港を発し,同港北東方沖合の漁場に向かった。
 C受審人は,18時25分漁場に至り,所定の灯火を表示して操業を開始し,その後数回漁場を移動して投揚網を繰り返した後,翌10日03時ごろ前示衝突地点付近に至り,03時05分右旋回を行いながら4回目の投網を開始した。
 03時07分ごろC受審人は,船首を北西方から北北西方に向けて回頭しながら約8ノットの速力で投網中,北方から南下してくる開神丸の白2灯を視認し,運搬船の1隻に開神丸に対して念のため警告を発するように指示を与え,自らは操舵室でレーダーによってまき網の浮子を確認しながら,投網作業を続行した。
 一方,指示を受けた運搬船は,03時08分少し前汽笛を吹鳴しながら開神丸に接近して探照灯を照射し,同船の前路を右舷から一旦左舷に出た後,同船が転針したのを認め,反転して同船の右舷側に戻った。
 C受審人は,03時11分半鮫角灯台から025度7.3海里の地点で,投網を終えて機関を中立運転とし,船首を033度に向けて揚網作業を開始したとき,左舷船首25度910メートルに開神丸の白,白,緑3灯を視認し,同船が展張したまき網の東端付近に衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めたが,運搬船が開神丸に探照灯を照射して警告を発した上,所定の灯火に加え多数の作業灯を表示しているので,いずれ操業模様に気付いてまき網を避けてくれるものと思い,まき網の展張状況を知らせることができるよう,浮子を探照灯で照らすなどして注意を喚起しないまま揚網作業中,03時14分依然として開神丸がまき網を避けずに接近することに危険を感じ,初めて汽笛を吹鳴し,探照灯で同船を照射したものの効なく,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,開神丸は損傷がなかったが,海栄丸は,まき網上部に長さ180メートル幅90メートルにわたって破網を生じた。

(海難の原因)
 本件漁具衝突は,夜間,八戸港北東方沖合において,同港に向けて南下する開神丸が,見張り不十分で,前路でまき網による漁ろうに従事中の海栄丸を大幅に避けなかったことによって発生したが,海栄丸が,注意を喚起しなかったことも一因をなすものである。
 開神丸の運航が適切でなかったのは,船長が,まき網漁業の操業に遭遇した十分な経験を有していない船橋当直者に対し,見張りや操業する漁船群の避航に関する具体的な注意を行わなかったことと,船橋当直者が,見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,八戸港北東方沖合において,同港に向けて南下中,まき網漁業の操業に遭遇した十分な経験を有していない船橋当直者に同当直を委ねる場合,見張りや操業する漁船群の避航に関する具体的な注意を行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,同当直者に任せておいても大丈夫と思い,見張りや操業する漁船群の避航に関する具体的な注意を行わなかった職務上の過失により,海栄丸を大幅に避けずに進行して同船が展張したまき網との衝突を招き,同網の上部を破網させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,夜間,八戸港北東方沖合において,同港に向けて南下中,前路で船団を組んで操業中の漁船群を認めた場合,双眼鏡を用いて操業状況を確認したり,レーダーを小さなレンジとして浮子を探知するなど,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,見えている漁船をかわせば大丈夫と思い,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,海栄丸が展張したまき網に向首していることに気付かず,同船を大幅に避けずに進行して同網との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は,夜間,八戸港北東方沖合において,まき網を展張して漁ろうに従事中,同網に向首して衝突のおそれのある態勢で接近する開神丸を認めた場合,まき網の展張状況を知らせることができるよう,浮子を探照灯で照らすなどして注意を喚起すべき注意義務があった。しかるに,同人は,所定の灯火に加え多数の作業灯を表示しているので,いずれ操業模様に気付いてまき網を避けてくれるものと思い,注意を喚起しなかった職務上の過失により,展張した同網と同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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