(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年5月30日04時22分
岩手県
ケ埼南東方沖合
(北緯39度29.0分 東経142度07.1分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船栄隆丸 |
漁船第八稲荷丸 |
総トン数 |
429トン |
4.8トン |
登録長 |
68.16メートル |
11.51メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
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漁船法馬力数 |
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70 |
3 事実の経過
栄隆丸は,専ら岡山県水島港と兵庫県姫路港を基地として,両港と主に京浜港,北海道の苫小牧港あるいは室蘭港との間で鋼材や鉱石の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で,船長C及びA受審人ほか2人が乗り組み,鋼材1,099.328トンを積み,平成17年5月26日00時10分姫路港を発し,同月28日朝宮城県仙台塩釜港に寄港して,積荷の一部を陸揚げしたのち,残りの鋼材559.217トンを載せ,船首2.12メートル船尾3.83メートルの喫水をもって,同月29日17時30分同港を出港し,苫小牧港に向かった。
A受審人は,翌30日03時45分岩手県の東岸沖合を北上中,陸中大島灯台から102.5度(真方位,以下同じ。)3.5海里の地点で,前直者と交替して単独の船橋当直に就き,針路を021度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で進行した。
04時17分A受審人は,予定針路を海図で確認することとし,船首方を見渡したところ,折からもやがかかって視程が1海里弱となっており,他船の船影が目に入らなかったことから,操舵室左舷側後部の海図室に赴き,船首を背にして海図台に広げた海図を見ているうち,視程が1.5海里まで回復し,04時19分
ケ埼灯台から155度4.8海里の地点に達したとき,正船首930メートルに船首を北東方に向けて漂泊している第八稲荷丸(以下「稲荷丸」という。)を視認でき,その後同船に衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況となった。
しかし,A受審人は,少し前に船首方を見渡したときと同様に他船はいないものと思い,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,稲荷丸を避けることなく,同じ針路,速力で続航し,04時22分わずか前ふと振り返り,船首至近に同船を視認したものの,何もできず,04時22分
ケ埼灯台から150度4.4海里の地点において,栄隆丸は,原針路,原速力のまま,その左舷船首部が稲荷丸の右舷前部に後方から24度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,視程は1.5海里で,潮候は上げ潮の中央期にあたり,日出時刻は04時08分であった。
C船長は,自室で就寝中,衝突後にA受審人が機関を後進にかけたことから,目覚めて昇橋し,事後の措置にあたった。
また,稲荷丸は,かご漁業に従事する,全長が12メートルを超え,船体後部に操舵室を設けたFRP製漁船で,B受審人(平成5年4月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか1人が乗り組み,たこ漁の目的で,船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,5月30日03時25分岩手県大沢漁港を発し,同港東方沖合の漁場に向かった。
これより先,B受審人は,かつては稲荷丸に手動式サイレンを備えていたものの,これが壊れたあと,とりたてて不便を感じなかったことから,汽笛を備えないまま,出漁を重ねていた。
04時15分B受審人は,漁場に着き,折からもやがかかって視程が1海里弱となったなか,機関を中立運転として漂泊し,操業準備のため,操舵室を出て同室と左舷ブルワークとの間の通路に立ち,えさ箱から冷凍したさばを取り出し,甲板員には前部甲板左舷側で発泡スチロール製の箱に氷を詰める作業をさせていたところ,視程が1.5海里まで回復し,04時19分衝突地点で,船首が045度に向いていたとき,右舷船尾24度930メートルに北上してくる栄隆丸を視認でき,その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況となった。
しかし,B受審人は,他船が接近しても漂泊している自船を避けてくれるものと思い,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,栄隆丸に避航の気配がなかったものの,汽笛を備えていないこともあり,警告信号を行わず,更に間近に接近しても機関を使って衝突を避けるための措置をとることもなく,漂泊を続け,04時22分少し前甲板員からの知らせで至近に迫った同船を初めて視認し,操舵室後方の主機遠隔操縦装置に駆け寄り,クラッチを入れようとしたものの,間に合わず,稲荷丸は,045度に向首したまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,栄隆丸は,左舷船首部外板に擦過傷を生じ,稲荷丸は,右舷前部外板に破口を生じたほか,船首マストが倒壊したが,のち修理された。
(海難の原因)
本件衝突は,
ケ埼南東方沖合において,北上中の栄隆丸が,見張り不十分で,前路で漂泊中の稲荷丸を避けなかったことによって発生したが,稲荷丸が,汽笛を装備していなかったばかりか,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,
ケ埼南東方沖合において,船橋当直に就いて北上する場合,前路の他船を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,少し前に船首方を見渡したときと同様に他船はいないものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で漂泊中の稲荷丸に向首し衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,同船を避けることなく進行して衝突を招き,栄隆丸の左舷船首部外板に擦過傷を,稲荷丸の右舷前部外板に破口をそれぞれ生じさせたほか,同船の船首マストを倒壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,
ケ埼南東方沖合において,操業準備のため漂泊した場合,接近する他船を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,他船が接近しても漂泊している自船を避けてくれるものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,自船に向首し衝突のおそれがある態勢で接近する栄隆丸に気付かず,同船に避航の気配がなかったものの,汽笛を備えていないこともあり,警告信号を行わず,更に間近に接近しても機関を使って衝突を避けるための措置をとることもなく,漂泊を続けて衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。