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平成17年第二審第19号
件名

貨物船神祥丸漁船昭寿丸衝突事件
[原審・門司]

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年7月4日

審判庁区分
高等海難審判庁(上中拓治,岸 良彬,保田 稔,長谷川峯清,佐野映一)

理事官
川俣従道

受審人
A 職名:神祥丸次席一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)
B 職名:昭寿丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

第二審請求者
理事官中谷啓二

損害
神祥丸・・・右舷中央部ハンドレールステイに曲損,同部クロスビットに破損
昭寿丸・・・船首部に亀裂

原因
神祥丸・・・動静監視不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
昭寿丸・・・動静監視不十分,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,神祥丸が,動静監視不十分で,前路を左方に横切る昭寿丸の進路を避けなかったことによって発生したが,昭寿丸が,動静監視不十分で,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月15日02時30分
 周防灘北部
 (北緯33度50.4分 東経131度15.3分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船神祥丸 漁船昭寿丸
総トン数 3,899トン 4.92トン
全長 110.93メートル 13.55メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 3,309キロワット  
漁船法馬力数   15
(2)設備及び性能等
ア 神祥丸
 神祥丸は,平成10年2月広島県御調郡向島町(現広島県尾道市向島町)で進水し,山口県仙崎港又は同県宇部港を荷積港とし,兵庫県東播磨港を荷揚港として専ら石灰石の運搬に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で,バウスラスタ及び可変ピッチプロペラを装備し,操舵室に自動衝突予防援助装置付きレーダー2台,GPS,測深儀,自動操舵装置などを備えていた。
 海上公試運転成績書による操縦性能は,満載の30パーセント載貨状態における旋回性能が,16.2ノットの速力で航走中に最大舵角35度をとったとき,360度回頭の所要時間,最大縦距及び最大横距は,右旋回が3分59秒,348メートル及び343メートル,左旋回が4分03秒,352メートル及び350メートルで,同状態で16.36ノットの速力における最短停止距離及びその所要時間が,680メートル及び3分10秒であった。
イ 昭寿丸
 昭寿丸は,昭和55年6月香川県大川郡志度町(現香川県さぬき市志度)で進水した小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,船体中央部に操舵室,船尾櫓及び固定ピッチプロペラを装備し,同室にレーダー1台,GPS及び主機遠隔操縦装置を備えていたが,汽笛装置は装備されていなかった。また,後部甲板では,同室内のレーダーを監視することができ,遠隔操舵器による自動操舵が可能であった。
 昭寿丸の装備灯火は,操舵室上部両舷側に舷灯1対,同室上部マストには,その頂部に緑色全周灯,中央部船首側に紅色全周灯及び下部船首側に白色全周灯がそれぞれ取り付けられていた。また,同室上部から櫓上部に渡した長さ約7メートルの桁材の船尾端上方に,喫水線上高さ約4メートルとなる100ワットの白色裸電球1個,並びに後部甲板上に渡した灯具吊り下げ用桁材の操舵室寄り及び船尾寄りに,100ワットの傘付き作業灯各1個が設けられていた。

3 事実の経過
 神祥丸は,船長C及びA受審人ほか8人が乗り組み,石灰石5,790トンを積載してほぼ満載状態とし,船首5.65メートル船尾6.75メートルの喫水をもって,平成16年9月14日19時35分仙崎港を発し,関門海峡経由で,法定灯火を表示して東播磨港に向かった。
 ところで,C船長は,船橋当直体制を,一等航海士,次席一等航海士及び二等航海士による4時間3直制とし,各直に甲板員など1人を配して2人1組で当たらせるほか,出入港時,狭水道通航時,視界制限時,船舶輻輳時などには,自ら昇橋して操船の指揮を執っていた。
 翌15日00時00分A受審人は,六連島灯台の手前約5海里の海域で二等航海士から船橋当直を引き継ぎ,二等機関士と2人で同当直に就き,その後,関門海峡西口付近で昇橋したC船長指揮の下で補佐に当たって通峡し,01時30分同船長が下関南東水道第1号灯浮標付近で降橋したのち,推薦航路線に沿って東行するうちに,同水道第3号灯浮標付近で操業中の漁船群を認め,その南側を迂回して周防灘北部を東行した。
 02時06分A受審人は,本山灯標から252度(真方位,以下同じ。)5.0海里の地点で,漁船群を迂回し終え,針路を推薦航路線に沿う105度に定め,機関を全速力前進にかけ,13.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,船橋前面中央から左舷寄りのところに立って見張りに当たり,自動操舵によって進行した。
 02時20分A受審人は,本山灯標から219度3.0海里の地点に達したとき,6海里レンジとしたレーダーによって右舷船首方約3海里のところに昭寿丸を初めて探知し,双眼鏡によって確認したところ,同船が表示する白,紅2灯及び右回頭している状況を視認するとともに,自船の右舷後方に同航船の灯火を認めたことから,レーダーを3海里レンジに切り替えて両船の動静を監視しながら続航した。
 02時21分A受審人は,本山灯標から215度2.9海里の地点に至り,昭寿丸を右舷船首11度2.4海里のところに見るようになったとき,同船がゆっくり北上していることを知ったものの,初認したときに右回頭していた状況から,魚群探索か投網している操業中の漁船のように見えたので,自船の前路まで北上してくることはないものと思って昭寿丸から目を離し,また,このとき,右舷後方に認めていた前示同航船が自船より速いことを知ったことから,左転して同航船との航過距離を広げることとし,針路を090度に転じ,同じ速力で進行した。
 02時26分A受審人は,本山灯標から194度2.5海里の地点に達し,同航船が航過したことから,針路を推薦航路線に沿うよう095度に転じたとき,右舷船首24度1.1海里のところに,昭寿丸の白色裸電球,緑色全周灯及び紅色舷灯を明確に認めることができ,その後,同船の方位が変わらなくなって前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況になったが,依然,昭寿丸が自船の前路まで北上してくることはないものと思い,左舷前方に見え始めた漁船群の動向を監視することに気をとられ,昭寿丸に対する動静監視を十分に行うことなく,このことに気付かず,大きく右転するなどして昭寿丸の進路を避けないまま続航した。
 02時30分少し前A受審人は,ふと右舷船首方を見たとき,間近に接近した昭寿丸を認めて衝突の危険を感じ,二等機関士に手動操舵に切り替えて右舵15度をとるよう指示し,引き続き20度を令して漸く右回頭を始めたものの,船尾が左舷側に大きく振れて同船に衝突するように感じたことから,直ちに左舵30度を令したが及ばず,02時30分本山灯標から174度2.5海里の地点において,神祥丸は,原速力のまま,船首が090度に向いたとき,その右舷中央部に,昭寿丸の船首が前方から77度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力5の南東風が吹き,潮候は下げ潮の末期にあたり,視界は良好であった。
 また,昭寿丸は,B受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,同月14日16時00分宇部港を発し,同港南方沖合約8海里の漁場に向かった。
 B受審人は,17時ごろ漁場に到着し,緑色全周灯,両舷灯,船尾端上方の白色裸電球及び後部甲板上の傘付き作業灯2個を点灯して操業を行ったのち,翌15日02時15分本山灯標から169度4.1海里の地点を発進し,機関を全速力前進の回転数毎分3,000のところ2,800にかけ,7.0ノットの速力で,漁網を洗浄するために船尾から同網を海中に入れてこれを曳きながら,航行中の動力船の法定灯火を正しく表示せずに操業中と同じ灯火表示のまま,宇部港内の芝中ふ頭西端を船首目標として帰途に就いた。
 B受審人は,発進後,後部甲板の操舵室寄りで船首方を向いて中腰の姿勢をとり,漁獲物の選別作業を行うとともに,ときどき顔を上げて目視とレーダー監視とによる周囲の見張りに当たり,間もなく,前路を右方に横切る大型コンテナ船を認めたことから,遠隔操舵で大きく左転し,同船を避けながら北上を続けた。
 B受審人は,大型コンテナ船を右舷側に避けたのち,02時21分本山灯標から172度3.5海里の地点で,針路を再び船首目標に向く347度に定め,同じ速力のまま,自動操舵によって進行した。
 B受審人は,定針時に,左舷船首51度2.4海里のところに,神祥丸が表示する白,白,緑3灯を初めて視認し,その後,ときどき同灯火の動きを見ていたところ,同船が東行する大型船であることを知り,速力が速いであろうから,自船の船首方を航過するものと思って神祥丸から目を離し,漁獲物の選別作業を行いながら続航した。
 02時26分B受審人は,本山灯標から173度3.0海里の地点に達したとき,5度右転した神祥丸が左舷船首48度1.1海里に接近し,その後,その方位が変わらなくなって前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,依然,同船が自船の船首方を航過するものと思い,漁獲物の選別作業を続け,神祥丸に対する動静監視を十分に行うことなく,このことに気付かず,同じ針路,速力のまま進行した。
 02時28分半B受審人は,本山灯標から174度2.7海里の地点に達したとき,ふと操舵室のレーダー画面を見て,神祥丸の映像を左舷船首48度800メートルのところに認めたが,同船に対する動静監視を十分に行っていなかったことから,その方位に変化がなく衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,その後,汽笛不装備で警告信号を行うことも,間近に接近したときに減速するなどして同船との衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま,再び下を向いて漁獲物の選別作業を行いながら続航した。
 02時30分少し前B受審人は,ふと船首方を見たとき,神祥丸を至近に認めて衝突の危険を感じ,急いで機関を後進にかけたが間に合わず,昭寿丸は,原針路のまま,速力が2.0ノットになったとき,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,神祥丸は,右舷中央部ハンドレールステイ2本に曲損及び同部クロスビット1本に破損を生じ,昭寿丸は,船首部に亀裂を生じたが,のちそれぞれ修理された。

(航法の適用)
 本件衝突は,夜間,宇部港南方沖合の周防灘北部において,周防灘推薦航路線の南側をこれに沿って東行中の神祥丸と,宇部港に帰港するため北上中の昭寿丸とが衝突したものであり,衝突地点は海上交通安全法が適用される海域であるが,同法には本件に適用される航法規定がないから,一般法である海上衝突予防法によって律することになる。
 本件は,衝突10分前神祥丸が,同9分前昭寿丸が,互いに相手船の灯火を初認し,同4分前両船間の距離が1.1海里になったとき,神祥丸が,通常の注意をもって見ていれば,昭寿丸の白色裸電球のほか,緑色全周灯及び紅色舷灯を,その法定光達距離付近でいずれも視認することができ,その後,同船の方位が変わらないまま接近することも判別可能で,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがあると判断できる状況であった。また,この時期には,神祥丸が船間距離を空けた右舷側の同航船も,左舷前方に認めた漁船群も,神祥丸及び昭寿丸両船にとって,ともに定型的な横切り船の航法に従って行動することに妨げとなるものではなく,かつ,衝突を避けるために十分な距離的,時間的な余裕があったものと認められる。
 したがって,本件は,海上衝突予防法第15条を適用して横切り船の航法によって律することになる。

(本件発生に至る事由)
1 神祥丸
(1)昭寿丸が自船の前路まで北上してくることはないものと思ったこと
(2)動静監視を十分に行わなかったこと
(3)右舷側に同航船がいたこと
(4)左舷前方の漁船群の動静に気をとられていたこと
(5)昭寿丸の進路を避けなかったこと

2 昭寿丸
(1)航行中の動力船の灯火を正しく表示していなかったこと
(2)B受審人が後部甲板で漁獲物の選別作業を行っていたこと
(3)神祥丸が船首方を航過するものと思ったこと
(4)動静監視を十分に行わなかったこと
(5)汽笛不装備で警告信号を行わなかったこと
(6)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,神祥丸が,動静監視を十分に行っていれば,昭寿丸と衝突のおそれがあることに気付き,同船を避けることができ,発生しなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,昭寿丸が自船の前路まで北上してくることはないものと思い,左舷前方の漁船群の動静に気をとられ,昭寿丸に対する動静監視を十分に行わず,同船の進路を避けなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 右舷側に同航船がいたことは,A受審人が同船との航過距離を広げるために2回の転針を行った理由であり,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,同船が存在したとしても,横切り船の航法を適用して衝突を避けるための動作をとることを妨げることにはならないから,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。
 一方,昭寿丸が,動静監視を十分に行っていれば,神祥丸と衝突のおそれがある態勢で接近することに気付き,なおかつ,汽笛を装備していなかったのであるから,より注意深く監視することにより,間近に接近したときに減速するなどして同船との衝突を避けるための協力動作をとることが期待でき,本件発生を回避できたものと認められる。
 したがって,B受審人が,神祥丸が自船の船首方を航過するものと思い,後部甲板で漁獲物の選別作業を行っていて神祥丸に対する動静監視を十分に行わなかったこと及び衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 昭寿丸が,航行中の動力船の灯火を正しく表示していなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,当時,A受審人が,衝突4分前に昭寿丸の舷灯を明確に視認することができ,その後,同灯火を注意して見ることにより,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがあると判断できる状況にあったことから,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。
 また,昭寿丸が,汽笛不装備で警告信号を行わなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,B受審人が,警告信号を行うことができないことを十分承知している筈であり、このことを意識したうえで減速するなどして衝突を避けるための協力動作をとることが可能であったものと認められることから,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。
 ところで,昭寿丸は,全長が12メートル以上の船舶で,マスト灯,舷灯及び船尾灯の法定灯火,並びに汽笛を装備しなければならない船舶であったところ,12メートル未満の船舶に許容されているマスト灯及び船尾灯に代わる白色全周灯が装備されていただけで,舷灯を除く法定灯火が正しく装備されていなかったばかりか,汽笛が装備されていなかったことから,航行中の動力船が表示しなければならない法定灯火を正しく表示せず,また,警告信号を行わないという、いずれも海上衝突予防法の規定に違反する結果になった。これらは,いずれも海難防止の観点から是正されるべき事項であり,早急に不足の法定灯火と汽笛とを装備して適切に運用しなければならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,周防灘北部において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中,東行する神祥丸が,動静監視不十分で,前路を左方に横切る昭寿丸の進路を避けなかったことによって発生したが,北上する昭寿丸が,動静監視不十分で,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,周防灘北部において,推薦航路線の南側をこれに沿って東行中,右舷船首方に北上する昭寿丸を認めた場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,昭寿丸が魚群探索か投網している操業中の漁船のように見えたので,自船の前路まで北上してくることはないものと思い,同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,昭寿丸が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近することに気付かず,大きく右転するなど同船の進路を避けずに進行して衝突を招き,神祥丸の右舷中央部ハンドレールステイ2本に曲損及び同部クロスビット1本に破損を,昭寿丸の船首部に亀裂をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,夜間,周防灘北部において,宇部港に帰港するため北上中,左舷船首方に東行する神祥丸を認めた場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,神祥丸が船首方を航過するものと思い,後部甲板で漁獲物の選別作業を行い,同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,神祥丸が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,間近に接近したときに減速するなど同船との衝突を避けるための協力動作をとらずに進行して衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文 平成17年7月20日門審言渡
 本件衝突は,神祥丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことと,昭寿丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。 


参考図
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