(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年8月8日16時00分
神奈川県湘南港東方沖合
(北緯35度18.1分 東経139度30.2分)
2 船舶の要目
船種船名 |
交通船房総2世 |
総トン数 |
14トン |
登録長 |
11.95メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
330キロワット |
3 事実の経過
房総2世は,平成4年10月に建造されたFRP製交通船兼作業船で,同2年5月に一級小型船舶操縦士の免許(同16年7月一級及び特殊小型船舶操縦士免許に更新)を取得したA受審人が1人で乗り組み,妻を乗せ,レジャーの目的で,船首1.0メートル船尾1.8メートルの喫水をもって,同17年8月8日12時00分千葉県木更津港を発し,静岡県下田港に向かった。
これより先,A受審人は,同日朝から出航準備にかかり,燃料補給を行い,機関室内を見回してビルジなどに異状のないことを確認したのち,発航したものであった。
ところで,房総2世の船尾管軸封装置は,B社製のTSS型シールスタンと称する海水潤滑式で,ダイヤフラムのシートリングの端面とシールリングのセラミック部の端面で海水をシールする端面シール構造となっており,長期間整備しないで使用すると,ゴム製のダイヤフラムが経年劣化による硬化で,端面シール部の水密が不良となるおそれがあった。
A受審人は,平成4年11月に新造船の本船を購入後,上架工事を2年に1回定期的に行っており,同17年4月の同工事においても船体の掃除及び船底塗装などの整備を行っていたものの,このとき,船尾管軸封装置が就航以来開放点検されたことがなく,長期間の使用によりダイヤフラムが著しく硬化している状態であったが,エンジンを1箇月に1回作動させ,遠出するのは1年に1ないし2回程度で,年間の運転時間が約50時間と短く,今まで漏水もなかったので大丈夫と思い,修理業者に依頼して船尾管軸封装置の点検を十分に行わなかったので,このことに気付かなかった。
A受審人は,東京湾を横断し,三浦半島南端に達したとき,風浪が強くなってきたので避難のため,神奈川県腰越漁港に向けることとし,14時45分城ヶ島灯台から219度(真方位,以下同じ。)1.7海里の地点において,針路を340度に定め,10.0ノットの対地速力で進行するうち,著しく硬化していたダイヤフラムが欠損して端面シール部の水密が不良となり,いつしか海水が船尾管軸封装置から機関室及び舵機室に浸入するようになった。
やがて,浸入した海水が舵機室床板を浮き上がらせ,燃料取出コックのハンドルが浮いた床板によって閉鎖されて燃料の供給が断たれ,16時00分湘南港灯台から077度1,400メートルの地点において,主機が停止した。
当時,天候は晴で風力3の南風が吹き,波高は2.0メートルであった。
浸水の結果,発電機,バッテリー及び電動式ビルジポンプなどの機器に濡損を生じ,また,主機が運転不能となり,投錨したものの錨が効かないまま流されて神奈川県七里が浜に乗り揚げ,来援した引船に引き下ろされ,のち修理された。
(海難の原因)
本件浸水は,船尾管軸封装置の点検が不十分で,同装置の端面シール部の水密が不良となり,海水が船尾管軸封装置から機関室及び舵機室に浸入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,船尾管軸封装置の運転保守に当たる場合,同装置が就航以来長期間開放点検されず,端面シール部の水密が不良となっているおそれがあったから,修理業者に依頼して船尾管軸封装置の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,運転時間が短く,今まで漏水もなかったので大丈夫と思い,船尾管軸封装置の点検を十分に行わなかった職務上の過失により,同装置の端面シール部の水密が不良となり,海水が船尾管軸封装置から機関室及び舵機室に浸入する事態を招き,発電機,バッテリー及び電動式ビルジポンプなどの機器に濡損を生じさせ,主機を運転不能とさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。
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