(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年1月13日08時30分
青森県八戸港
(北緯40度31.9分 東経141度32.3分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船第五洋恵丸 |
総トン数 |
291トン |
全長 |
59.60メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,912キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 第五洋恵丸
第五洋恵丸(以下「洋恵丸」という。)は,昭和62年7月に進水した遠洋底びき網漁業に従事する鋼製漁船で,平成16年1月B社に購入され,整備時期や年末年始等の期間を除いて操業を行っていた。
イ ビルジ排出装置
ビルジ排出装置は,機関室左舷側に5.5キロワット電動機駆動の主ビルジポンプと0.4キロワット電動機駆動の油水分離器用ビルジポンプ(以下「ビルジポンプ」という。)を備え,それぞれ機関室及び魚倉等のビルジを排出できるようになっていた。
ウ 油水分離器
油水分離器は,C社が製造した処理能力が1時間あたり0.5立方メートルのUST-05型と称するもので,油と海水との比重差により,ビルジボンプで器内に送り込まれたビルジ中の油分を分離するようになっており,油分濃度15ppm未満の処理水は船外吐出弁を経て船外に,分離油は油面検出器と電磁弁により,自動的にビルジオイルタンクにそれぞれ排出されるようになっていた。
ところで,取扱説明書には,器内を海水で充満してからビルジを送り込み,1週間以上使用しなかったときは運転前に5ないし10分海水を通水し,停止前には10分間以上海水を通水して洗浄するよう記載されていた。
エ 機関室のビルジポンプ管系
(ア)ビルジ吸引系統
ビルジ吸引系統は,機関室後部ビルジだめ内のローズボックスから玉型ねじ締め逆止め弁(以下「ビルジ吸引弁」という。)を経て呼び径20Aのビルジ吸引管がビルジポンプに接続しており,同ビルジだめにはビルジ高液面警報が設置されていた。
なお,船尾管装置はオイルバス式のため,機関室のビルジ量は少なかった。
(イ)海水吸入系統
機関室左舷側の海水箱の空気抜き管に接続した20Aの海水管が,玉型ねじ締め逆止め弁(以下「海水吸入弁」という。)を経てビルジ吸引管に接続しており,油水分離器の海水張込み及び通水等に使用されるようになっていた。
3 事実の経過
洋恵丸は,平成16年11月定期検査工事(以下「定期検査」という。)を行い,油水分離器が整備業者によって開放掃除され,復旧後漏洩試験等のためビルジボンプにより海水が張り込まれたが,その後海水吸入弁は開弁されたままとなっていた。
翌12月3日洋恵丸は,A受審人ほかインドネシア人7人を含む22人が乗り組み,青森県八戸港を発し,北千島海域に至ってすけとうだら漁を行い,同月17日同港に帰港し,水揚げのうえ船首2.7メートル船尾5.0メートルの喫水をもって,八戸港河原木南防波堤東灯台から真方位140度660メートルの八戸漁港(舘鼻)入口岸壁に係留し,次の漁の準備作業を行ったのち,同月下旬休暇のため,A受審人等日本人乗組員が離船した。
ところで,年末年始の期間は,発電機駆動用補機を運転して船内に電力を供給したうえ,インドネシア人の乗組員が船内に居住し,B社の担当者(以下「陸上担当者」という。)が適宜機関室等を見回っていた。
超えて,翌17年1月上旬A受審人は,同月下旬出漁予定のところ帰船し,機関室のビルジ高液面警報が作動しているのを認め,油水分離器を運転してビルジを処理することとし,同月12日09時ごろビルジ吸引弁及び船外吐出弁を開弁し,ビルジポンプを運転して同分離器にビルジを送り込んだが,海水吸入弁が開弁していたところからビルジが吸引されず,同室のビルジ量が減少しないことを認めた。
12時ごろA受審人は,機関室のビルジの処理を諦め,油水分離器及びビルジポンプを停止して船外吐出弁を閉弁したが,ビルジ吸引弁が逆止め弁だから大丈夫と思い,同弁を閉弁することなく,また,ビルジが処理できず,海水吸入弁が開弁していることが容易に推測される状況にあったが,船内に機関室諸管系統図がなかったものの,配管にあたってビルジ吸引管に接続した海水系統を調査のうえ,同弁を閉弁しなかった。
その後,洋恵丸は,汚損により逆止め機能が阻害されたビルジ吸引弁を経て,海水がビルジ吸引管を逆流して機関室に流入し,翌13日08時30分前示地点において,陸上担当者が同室中央部で床上近くまで浸水しているのを発見した。
当時,天候は曇で風力4の西風が吹いていた。
A受審人は,陸上担当者から機関室浸水の連絡を受け,ビルジ吸引弁を閉弁して浸水を止めた。
この結果,可変ピッチプロペラ制御機器がぬれ損し,主機の潤滑油サンプタンク及び減速機に海水が浸入したが,のち修理された。
(本件発生に至る事由)
1 定期検査後,海水吸入弁が開弁されたままになっていたこと
2 ビルジ吸引弁を閉弁しなかったこと
3 船内に機関室諸管系統図がなかったこと
4 海水吸入弁を閉弁しなかったこと
5 汚損によりビルジ吸引弁の逆止め機能が阻害されていたこと
(原因の考察)
本件は,油水分離器を運転した際,ビルジ吸引弁を閉弁していれば海水がビルジ吸引管を逆流することがなく,発生を回避できたものと認められる。
また,海水吸入弁を閉弁していれば,ビルジ吸引弁の逆止め機能が阻害されても,海水がビルジ吸引管を逆流することがなかったものである。
したがって,A受審人が,油水分離器を運転した際,ビルジ吸引弁及び海水吸入弁をいずれも閉弁しなかったことは,本件発生の原因となる。
定期検査後,海水吸入弁が開弁されたままになっていたこと,船内に機関室諸管系統図がなかったこと及び汚損によりビルジ吸引弁の逆止め機能が阻害されていたことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
(海難の原因)
本件浸水は,港内において,機関室のビルジを排出するため油水分離器を運転した際,ビルジポンプ系統のビルジ吸引弁及び海水吸入弁がいずれも閉弁されず,汚損により逆止め機能が阻害されたビルジ吸引弁を経て,海水がビルジ吸引管を逆流し,同室に流入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,港内において,機関室のビルジを排出するため油水分離器を運転した場合,汚損によりビルジ吸引弁の逆止め機能が阻害されることがあり,かつ,ビルジ吸引管に接続した海水吸入弁が開弁していると同室に浸水するおそれがあったから,両弁を閉弁すべき注意義務があった。しかるに,同人は,ビルジ吸引弁が逆止め弁だから大丈夫と思い,同弁及び海水吸入弁を閉弁しなかった職務上の過失により,汚損により逆止め機能が阻害されたビルジ吸引弁を経て海水がビルジ吸引管を逆流し,機関室に流入して中央部で床上近くまで浸水を招き,可変ピッチプロペラ制御機器をぬれ損させ,主機の潤滑油サンプタンク及び減速機に海水を浸入させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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