(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年9月19日15時50分
長崎県大村港
(北緯32度53.9分 東経129度56.7分)
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船プローバー3 |
総トン数 |
15トン |
全長 |
15.95メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
838キロワット |
回転数 |
毎分2,300 |
3 事実の経過
プローバー3は,平成4年に建造された軽合金製旅客船で,B社が運航して長崎空港,長崎県大村港及び同県長与港を結ぶ航路に就航させ,船体の船首側から,操舵室,客室及び機関室が配置され,3機3軸のウォータージェット推進装置を備えていた。
機関室は,主機の中央機を前部に,両舷機を後部にそれぞれ配置し,中央機の両舷に始動用及び船内電源用バッテリーが,また,両舷機の壁際に空調用コンデンサが置かれていた。
主機は,直列シリンダ配置の右舷中央部に過給機を,右舷船首側にオルタネータをそれぞれ取り付け,クラッチを介してウォータージェットポンプを駆動していた。また,右舷機及び左舷機が操舵室空調用及び客室空調用の各圧縮機を,中央機が空調用海水ポンプをそれぞれ船首取出軸のプーリでベルト駆動していた。
客室及び操舵室の空調は,冷房時に室内機で熱を回収した冷媒ガスを圧縮機で圧縮し,同ガスをコンデンサで海水により冷却して凝縮させ,再び室内機に送るものであった。
空調用冷却海水配管は,専用の船底吸込口からこし器を経て呼び径40Aの入口及び出口管で空調用海水ポンプが接続され,出口管から長さ約900ミリメートル(mm)のゴムホースを経由して天井付近の同径のステンレス配管に至り,同管で両舷に分岐したのち内径約20mmに細くなり,空調用コンデンサに導かれており,前示ホースがステンレスバンドで締め付けられていた。
空調用海水ポンプは,スパイダー形状の断面を有するゴム製インペラが,先端部をケーシング内面に押し付けて摺動し,インペラとケーシングで仕切られた容積分を押し出す回転式ポンプで,定格速度での吐出量が毎分215リットルで,配管の下流側において締め切り状態になると,吐出圧が0.29パスカルまで上昇するので,配管接続部からの水漏れに注意する必要があった。
プローバー3は,平成16年9月19日14時30分長崎空港を発し,燃料補給の目的で大村港に向かっていたところ,空調の冷房が異常停止したので,A受審人(平成2年3月一級小型船舶操縦士免許取得)がいったん減速して,空調用海水の船外排出が全く止まっているのを認め,再び増速して同時50分大村港に入港した。
A受審人は,燃料補給を終えたあと点検を行い,空調用海水ポンプのケーシングが過熱していたうえ,こし器も詰まっていなかったので,船底に潜って海水吸込口を点検し,同口全面に付着していたビニールを除去したのち,続けて同ポンプを開放し,インペラの先端部がすべて破損しているのを認めて予備のインペラに取り替え,同ポンプを再び組み立てたが,中央機をアイドリング回転にかけて空調用海水の船外排出が流れていたので,まさか破損したインペラ破片が配管に詰まることはないものと思い,機側操作で中央機の回転数を上げて,海水配管に漏れが生じないか確認したり,配管下流側で細くなっている箇所を外して詰まりがないか確認するなど,配管の点検を十分に行わなかった。
こうして,プローバー3は,A受審人が1人で乗り組み,同日15時45分大村港を発し,主機を回転数毎分2,100にかけて長崎空港に向かったところ,海水ポンプの吐出量が増加して配管に残っていたインペラ破片が押し込まれ,内径が細くなった箇所に閉塞して締め切り状態となり,吐出圧が上昇し,同ポンプ出口配管のゴムホース上端の締付部が外れて噴出した海水が,間近の中央機右舷側に降りかかり,15時50分長崎空港飛行場灯台から真方位109度3,000メートルの地点で,バッテリー充電回路が短絡して充電警報が鳴った。
当時,天候は晴で風力1の北東風が吹き,海上は穏やかであった。
A受審人は,漂泊して機関室を点検したところ,空調用海水の配管から海水が飛散して機関室に浸水しているのを認め,中央機と空調を停止した。
プローバー3は,大村港に引き返し,空調用海水配管と主機が点検され,精査の結果,主機の中央機が過給機から海水を吸い込んで全シリンダライナとピストンに異常摩耗を,また,オルタネータに巻線の焼損とセルモータに濡れ損とをそれぞれ生じていることが分かり,のち損傷箇所が取り替えられた。
(海難の原因)
本件浸水は,主機駆動の空調用海水ポンプのインペラが破損し,予備品と取り替えた際,配管の点検が不十分で,配管に残ったインペラの破片が,出港して主機の増速とともに押し込まれて閉塞し,吐出圧が上昇してゴムホースの締付部が外れ,海水が機関室に噴出したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,空調用海水ポンプのインペラを取り替えた場合,それまで使用していたインペラの先端部がすべて破損していたのだから,組立て後に,機側操作で中央機の回転数を上げ,配管に漏れが生じないか確認したり,配管下流側で細くなっている箇所を外して破片が詰まっていないか確認するなど,配管の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,破損したインペラ破片が配管に詰まることはないものと思い,配管の点検を十分に行わなかった職務上の過失により,配管に残っていたインペラ破片が出港して主機の増速とともに押し込まれ,内径が細くなった箇所に閉塞して吐出圧が上昇し,ゴムホース締付部が外れて海水が噴出し,機関室に浸水する事態を招き,主機が過給機から海水を吸い込んで全シリンダライナとピストンに異常摩耗を,また,オルタネータ巻線の焼損とセルモータの濡れ損とをそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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