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平成18年広審第3号
件名

旅客船ニューびんご運航阻害事件(簡易)

事件区分
安全・運航阻害事件
言渡年月日
平成18年6月15日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(野村昌志)

副理事官
鎌倉保男

受審人
A 職名:ニューびんご船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
固定式係船索などが損傷

原因
操船不適切(強風下)

裁決主文

 本件運航阻害は,操船が不適切で,固定式係船索を推進器翼に巻き込んだことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年3月24日19時40分
 広島県海老漁港
 (北緯34度23.7分 東経133度15.7分)

2 船舶の要目
船種船名 旅客船ニューびんご
総トン数 28トン
全長 19.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 419キロワット

3 事実の経過
 ニューびんごは,船首部に操舵室を配置し,広島県尾道糸崎港及び同県千年港間の定期旅客輸送に従事する軽合金製旅客船で,A受審人及び機関長が乗り組み,旅客4人を乗せ,船首0.7メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,平成17年3月24日19時15分尾道糸崎港を発し,千年港に向かった。
 A受審人は,途中の経由港で旅客1人を乗せ,19時34分広島県海老漁港満越桟橋に着桟して更に旅客8人を乗せたのち,次の寄港地である同県百島の福田港へ向かうこととした。
 ところで,海老漁港は,東防波堤と西防波堤に囲まれた幅約70メートルの港口が南方に開き,同港の中央部に長さ22メートル幅15メートルの長方形をした満越桟橋が設置され,同桟橋南縁が港口北方約40メートルのところにあり,長辺の一辺となる同桟橋東側がニューびんごの着桟用に使用されていた。
 また,ニューびんご着桟桟橋前面の北側海域は,漁船等の係船に利用され,海底に錘で固定された係船索(以下「固定式係船索」という。)が多数設置されていて,同索は長さが25メートルほどで,それぞれ浮球によって一端を海面に浮かせていた。
 A受審人は,平成16年12月にニューびんごの船長となり,1日5往復の運航に従事しており,海老漁港への出入港経験も豊富にあったことから,同船が風の影響を受けやすいことや同港の状況などを知っていた。
 A受審人は,尾道糸崎港を発航するにあたり,風速が発航中止基準となる毎秒13メートルに達していなかったものの,運航管理補助者から,発達中の低気圧が日本海を東進中であって天候の悪化が予想される旨の気象情報を受けていた。
 19時39分A受審人は,海老港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から023度(真方位,以下同じ。)70メートルの地点において,折からの南南西の強風が連吹する状況下,満越桟橋東側に船首を同桟橋線と平行となる343度に向けた入船左舷着けの態勢から出航することとし,船尾配置に就いていた機関長に係留索を放たせ,機関を後進にかけて離桟した。
 19時39分半わずか前A受審人は,西防波堤灯台から062度50メートルの地点に達し,満越桟橋南東端から25メートルほど南方に下がったとき,いつものように後進行きあしを止めて港口に向け右転することとしたが,回頭中に固定式係船索が多数設置された港奥に圧流されるおそれがあったものの,着桟時にそれほど風の影響を感じなかったことから,通常どおり防波堤の内側で無難に回頭できるものと思い,風圧流に配慮して防波堤の外側まで後退したのち回頭するなど,操船を適切に行わず,機関を前進にかけ,右舵一杯として回頭を開始した。
 19時39分半A受審人は,西防波堤灯台から088度60メートルの地点に至り,普段ほどの舵効が得られないまま右転して船首が東方を向き,右舷側から風を受けるようになったとき,船首部が東防波堤南端に5メートルほどまで接近したのを認め,同防波堤に接触する危険を感じて機関を後進にかけ,舵を中央に戻したところ,急激に北北東へ圧流された。
 A受審人は,港奥に圧流されていることに気付き,船首を港口に向けようと,何度か機関を前後進にかけ転舵を繰り返したものの,期待した舵効が得られないまま港奥に圧流され続け,19時40分西防波堤灯台から032度100メートルの地点において,ニューびんごは128度を向首し,わずかな後進行きあしで,付近に設置されていた固定式係船索を推進器翼に巻き込んで航行不能となり,運航が阻害された。
 当時,天候は曇で風力5の南南西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,広島県南部には風雪,雷,波浪注意報が発表されていた。
 A受審人は,直ちに運航管理補助者に連絡し,旅客全員を手配した交通船に移乗させた。
 その結果,ニューびんごは翌25日潜水士によって推進器翼に絡まった係船索を除去され,同翼などに損傷がなかったので通常の運航に復したが,絡まった係船索に損傷を生じるとともに,同索を用いて係留中の漁船(0.6トン)の船首部係船柱が,ニューびんごが係船索を推進器翼に巻き込んだ際の衝撃で折損した。

(海難の原因)
 本件運航阻害は,夜間,強風下,広島県海老漁港において,出航する際,操船が不適切で,回頭中に圧流され,固定式係船索を推進器翼に巻き込んだことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,強風下,広島県海老漁港において,回頭して出航する場合,回頭中に固定式係船索が多数設置された港奥に圧流されるおそれがあったから,風圧流に配慮して防波堤の外側まで後退したのち回頭するなど,操船を適切に行うべき注意義務があった。しかるに同人は,着桟時にそれほど風の影響を感じなかったことから,通常どおり防波堤の内側で無難に回頭できるものと思い,操船を適切に行わなかった職務上の過失により,回頭中に強風を右舷側に受けて港奥に圧流され,固定式係船索を推進器翼に巻き込み,ニューびんごを航行不能に陥らせて同船の運航を阻害するとともに,同係船索などに損傷を生じさせる事態を招くに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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