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平成17年門審第109号
件名

遊漁船第十八天勝丸潜水者負傷事件(簡易)

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成18年6月23日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(向山裕則)

副理事官
小俣幸伸

受審人
A 職名:第十八天勝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
潜水者が右肋骨骨折、前頭骨骨折、顔面挫創等

原因
潜水者を収容する際の安全措置不十分

裁決主文

 本件潜水者負傷は,潜水者を収容する際の安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年7月17日10時10分
 鹿児島県一湊港
 (北緯30度27.5分 東経130度29.3分)

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船第十八天勝丸
総トン数 7.3トン
全長 15.35メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 382キロワット

3 事実の経過
 第十八天勝丸(以下「天勝丸」という。)は,平成11年10月に進水したFRP製小型遊漁兼用船で,A受審人(昭和62年12月一級小型船舶操縦士免許取得)が船長として甲板員1人と乗り組み,ダイビングインストラクター2人を含む潜水者8人を乗せてダイビングの目的で,船首0.4メートル(m)船尾1.5mの喫水をもって,同17年7月17日09時20分鹿児島県一湊漁港を発し,同県一湊港湊鼻沖合のダイビング予定地点に向かった。
 ところで,A受審人は,天勝丸を専ら一本つりなどの漁業用に使用していたが,潜水者の搬送及び伴走を依頼されることから,以前に延べ約60日間その経験があり,今回4年ぶりに搬送等を行うことになった。
 天勝丸は,全通甲板下の中央から船尾寄りに機関室が,その前後に物入れや生けすが,及び同室の上部に操縦席がそれぞれ設けられ,また,保護装置を有しない直径約0.8mの3枚翼の推進器が,船尾端から前方約1.7mとなる喫水線下約1mの船首尾線上の点を中心として装備されており,左舷側中央部のブルワークに掛けた梯子(はしご)経由で,潜水者を収容していた。
 潜水者は,ウエットスーツ,ブーツやフィン,マスク,レギュレーター,タンク,浮力調整具(BCD),ウエイト,シュノーケルなどダイビング用の服装及び器材を装着していた。そして,潜水者のBは,ダイビングの回数を重ねており,中程度の技量であった。
 09時25分A受審人は,一湊港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から324度(真方位,以下同じ。)300mとなる水深約10mの地点に至り,潜水者全員を水に入れさせたのち,潜水者が排出する気泡を追って,湊鼻の東方沖を舌状の針路で時計回りにゆっくり進み,10時00分北防波堤灯台から318度160mの水深約10mの地点に達し,自船の西方に存在する険礁や陸岸まで距離60ないし90mとなったとき,潜水者が浮上し始めるのを認めた。
 A受審人は,潜水者を左舷前方に見て接近し,折から陸岸に向かって風が吹く状況下,機関を中立運転として潜水者全員を収容する際,その間に圧流されて機関を使うと推進器の近くにいる潜水者が危険な状況に陥ることが予測されたが,漂泊したまま,陸岸に接近しても潜水者を潜降させれば大丈夫と思い,錨泊するなどの安全措置を十分にとらず,その後,2人目の潜水者を収容することに手間取っていたところ,北東に向首したまま,陸岸に著しく接近する状況となり,10時08分北防波堤灯台から316度210mの地点に至り,陸岸から離れるために前進することとし,潜水者に自ら声をかけるとともに,前部甲板にいた甲板員に指示して潜水者を潜降させることとした。
 一方,B潜水者は,左舷側で順番を待っているうち,船体に吸い寄せられて両足を船底に潜り込ませる状況となり,左舷後部のブルワークにつかまっていたとき,「潜ってくれ。」との声を聞き,レギュレーターをくわえ直し,BCDの空気を抜くためのボタンを押していたところ,いつしか推進器に接近していた。
 A受審人は,左舷側の梯子につかまっている潜水者を,また右舷側後方約10mのところに2人の潜水者をそれぞれ認めたが,推進器に近い水面下のB潜水者に気付かないまま,しばらく様子を見たのち,10時10分北防波堤灯台から315度240mの地点において,北東に向首して機関を前進にかけたとき,推進器がB潜水者に接触し,その衝撃を感じて直ちに中立とした。
 当時,天候は晴で風力4の南東風が吹き,潮候は上げ潮の初期だった。
 その結果,B潜水者が約1箇月の加療を要する右肋骨骨折,前頭骨骨折及び顔面挫創などを負った。

(海難の原因)
 本件潜水者負傷は,鹿児島県一湊港湊鼻の陸岸に近い地点において,陸岸に向かって風が吹く状況下,潜水者を収容する際の安全措置が不十分で,機関を前進にかけ,推進器が潜水者に接触したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,一湊港湊鼻の陸岸に近い地点において,陸岸に向かって風が吹く状況下,潜水者を収容する場合,圧流されて機関を使うと推進器の近くにいる潜水者が危険な状況に陥ることが予測されたから,錨泊するなどの安全措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,漂泊したまま,陸岸に接近しても潜水者を潜降させれば大丈夫と思い,錨泊するなどの安全措置を十分にとらなかった職務上の過失により,陸岸に著しく接近する状況となって機関を前進にかけ,推進器が潜水者に接触し,約1箇月の加療を要する右肋骨骨折,前頭骨骨折及び顔面挫創などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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