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平成18年門審第14号
件名

漁船長洋丸乗組員負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成18年5月12日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(片山哲三,安藤周二,阿部直之)

理事官
工藤民雄

指定海難関係人
A 職名:長洋丸甲板員

損害
甲板員が左小指基節骨骨折,中心性頚髄損傷等

原因
回転するサイドローラの危険性に対する安全措置不十分

主文

 本件乗組員負傷は,揚網作業中,回転するサイドローラの危険性に対する安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年3月23日08時05分
 山口県萩市北方沖合
 (北緯34度36.8分 東経131度19.3分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船長洋丸
総トン数 14トン
全長 22.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 404キロワット
(2)設備及び性能等
ア 船体
 長洋丸は,平成3年12月に進水した,小型機船底びき網漁業に従事する一層甲板型FRP製漁船で,船体中央の船橋楼が前方から操舵室,機関室及び船員室に区画され,同楼の前方が長さ7メートル(m)の船首甲板に,後方が長さ4mの船尾甲板になっており,左右両舷側は幅1mの通路で高さ1.1mのブルワークが設けられ,木製敷板上に滑り止めのゴムマットが敷かれていた。
イ 漁ろう設備
 操舵室前部にデリック,船首甲板の左舷側にネットローラ,船首両舷のブルワーク上に船首ローラ,操舵室側壁の両舷にガイドローラ,船尾甲板屋根の両舷下部に船員室側壁から船尾甲板まで移動可能な滑車及び機関室囲壁の両舷に油圧駆動のサイドローラがそれぞれ設けられていた。
 サイドローラは,外径320ミリメートル(mm)の円筒形回転体で,機関室囲壁から左右に420mm突き出して取り付けられ,巻上げ速度が15分間に1,600mであった。同ローラの操作レバーは,操舵室内の左舷前方窓際に備えられており,回転方向を切り替えるだけで回転速度は調節できなかった。
 サイドローラの発停スイッチは,始動・停止両ボタンを上下に並べたもので,操舵室内両舷,船員室後壁両舷及び両舷の同ローラから船尾方に50センチメートル隔てたところの計6箇所に備えられていた。
ウ 曳網索
 船尾側から漁網に向かって順に,長さ50m直径24mmのまわし綱と呼称する繊維索1本,長さ200m直径30mmのしら綱と呼称する繊維索3本及び長さ50m直径44mmのコンパウンドロープと呼称するワイヤ芯と外側の繊維からなる索13本で構成され,各索の端部はより戻し付きのシャックルで連結されていた。
エ 漁法
 たるかけ回し式と称する漁法で,投網時のかけ回しを約15分間,曳網を約45分間それぞれ行ったのち揚網作業に取り掛かり,同作業中には,曳網索を両舷の船首ローラ及びガイドローラを介しサイドローラで巻き上げて船尾方の滑車に導き,船尾甲板上にコイルダウンしていた。

3 事実の経過
 長洋丸は,船長B,A指定海難関係人ほか4人が乗り組み,底びき網漁の目的で,船首尾とも0.2mの等喫水をもって,平成17年3月23日04時00分萩漁港を発し,06時05分同港北方13海里ばかりの漁場に至り,操業を行うこととした。
 ところで,以前から揚網作業中に巻き上げている曳網索がサイドローラで重ね巻きの状態になるなどの不具合が生じたときには,これを直す乗組員の安全のため,一旦(いったん)同ローラを停止する手順になっており,A指定海難関係人は,同手順を了知していた。
 08時00分長洋丸は,萩相島灯台から022度(真方位,以下同じ。)6.1海里の地点において,投・曳網を終えて揚網を開始することとし,B船長が操舵室で操船指揮を執り,船首を045度に向けて機関を中立状態としたまま,合羽上下,ゴム長靴及び軍手を着用していたものの備付けの保護帽を着用していなかったA指定海難関係人を左舷側のサイドローラに,他の乗組員を右舷側のサイドローラ,及び船尾甲板にそれぞれ配置して揚網作業に取り掛かり,その後,曳網索を巻き上げる反動で1.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)となって進行した。
 08時05分少し前A指定海難関係人は,サイドローラの船尾側に立ち,曳網索を船尾方に巻き上げているうち,折からのうねりで船体が動揺し,船首ローラからサイドローラに至る間の同索が上下に揺すぶられ同ローラで重ね巻きの状態になったが,手で簡単に扱えるものと思い,一旦同ローラを停止するなどの安全措置を十分にとらないまま,巻き込まれる側の曳網索を手前に引くことで重ね巻きを直そうとして同索に両手を添えたところ,08時05分萩相島灯台から021度6.2海里の地点において,同索と同ローラの間に左手を巻き込まれ1回転して倒れた。
 当時,天候は雨で風力2の北東風が吹き,波高は1mであった。
 B船長は,船尾甲板にいて異状に気付いた乗組員の声を聞き,操舵室内の発停スイッチで直ちにサイドローラを停止し,A指定海難関係人を救出して発航地に急行したのち,手配していた救急車で病院に搬送した。
 その結果,A指定海難関係人は,25日間の入院治療を要する左小指基節骨骨折のほか中心性頚髄損傷,左膝内側半月板及び同前後十字靱帯損傷を負った。

(本件発生に至る事由)
1 保護帽を着用していなかったこと
2 曳網索がサイドローラで重ね巻きの状態になったこと
3 一旦サイドローラを停止するなどの安全措置を十分にとらなかったこと
4 重ね巻きを直そうとしてサイドローラに巻き込まれる側の曳網索に手を添えたこと

(原因の考察)
 本件は,揚網作業中,サイドローラに配置された乗組員が,回転する同ローラの危険性に対する安全措置を十分にとっていたなら,防止できたものと認められる。
 したがって,A指定海難関係人が,一旦サイドローラを停止するなどの安全措置を十分にとらず,重ね巻きを直そうとして同ローラに巻き込まれる側の曳網索に手を添えたことは,本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人が,保護帽を着用していなかったことは,本件発生に関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 曳網索がサイドローラで重ね巻きの状態になったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件乗組員負傷は,揚網作業中,曳網索がサイドローラで重ね巻きの状態になった際,回転する同ローラの危険性に対する安全措置が不十分で,重ね巻きを直そうとした乗組員が,同ローラに巻き込まれる側の曳網索に手を添え,同索と同ローラの間に巻き込まれたことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が,揚網作業中,曳網索がサイドローラで重ね巻きの状態になった際,一旦同ローラを停止するなどの安全措置を十分にとらず,重ね巻きを直そうとして同ローラに巻き込まれる側の同索に手を添えたことは,本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては,勧告しないが,揚網作業中に巻き上げている曳網索の不具合が生じた際には,一旦サイドローラを停止するなどの安全措置を十分にとらなければならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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