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平成18年長審第16号
件名

漁船白龍丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成18年6月6日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(吉川 進,長浜義昭,尾崎安則)

理事官
千葉 廣

受審人
A 職名:白龍丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
主機の主軸受及びクランク軸受が異常摩耗してクランク軸と焼き付き,シリンダブロックの軸受取付面が過熱変形するなど損傷

原因
主機警報装置の点検不十分,ピストン抜き整備措置不十分

主文

 本件機関損傷は,主機の警報装置の点検及びピストン抜き整備の措置がいずれも十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年8月22日03時00分
 長崎県生月島北西方沖
 (北緯33度33.5分 東経129度17.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船白龍丸
総トン数 19.31トン
全長 18.40メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 300キロワット
回転数 毎分2,100
(2)設備及び性能等
 白龍丸は,まき網漁業に従事する運搬船で,主機として平成6年に換装された,アメリカ合衆国B社製造の3406TA型と称するディーゼル機関を装備していた。
 主機は,シリンダブロック下面に吊上メタル形式の主軸受を備え,同ブロック下部にオイルパンが取り付けられ,シリンダヘッドの上面の動弁装置を覆うヘッドカバーの頂部に,クランクケースからオイルミストをガス抜管に導くブリーザが取り付けられていた。
 潤滑油系統は,オイルパンの潤滑油が,直結潤滑油ポンプで加圧され,こし器及び冷却器を経て主管から主軸受,過給機等に供給され,各部で潤滑と冷却を終えた後,再びオイルパンに戻るもので,主管には警報用圧力スイッチが装備されていた。
 ブリーザは,円筒形ケースに金属たわし状のアルミニウム製フィルタを内蔵し,過剰な油分がガス抜管から放出されるのを抑えるようになっていた。
 主機の警報装置は,操舵室の警報盤上に潤滑油圧力低下,冷却水温度上昇及びバッテリー充電電流異常の各項目をランプ表示してブザーで知らせるもので,キースイッチを入れて始動する前と停止後に潤滑油圧力低下と充電電流異常の警報が発せられることで,日常的に両項目の作動確認をすることができるようになっていた。
 主機の取扱説明書は,ブリーザのフィルタを1箇月毎に溶剤で洗浄するよう,また,業者などによる警報装置の点検を年に2回行うよう記述していた。
(3)運転状況
 白龍丸は,平成15年11月に購入された後,主機が1箇月当たり平均して340時間ほど運転されていた。

3 事実の経過
 白龍丸は,購入前の主機の整備経歴が不明のままA受審人が船長となって運航が開始されたが,主機のピストン抜き整備が長期間行われておらず,また,いつしか潤滑油主管の圧力スイッチが動かず,潤滑油圧力低下警報が作動しなくなっていた。
 A受審人は,主機の警報装置について,ランプ表示を確認しないまま,始動前及び停止後にブザーが鳴っているので問題ないものと思い,同装置の点検を行うことなく,潤滑油圧力低下警報が作動しないことに気付かなかった。
 主機は,ピストンのブローバイガスによって,ブリーザのフィルタに燃焼残渣が徐々に詰まり,オイルミストの放出量が減少した。
 A受審人は,平成16年5月ごろガス抜管からオイルミストがほとんど放出されていないことに気付いて整備業者に問い合わせ,ブリーザのフィルタが汚損しているので洗浄するよう教示された。
 ところで,主機は,オイルパンの検油棒の鞘管が,潤滑油面以下まで延びていたので,クランクケース内圧が上昇し過ぎると,潤滑油が鞘管から外部に漏れ出すおそれがあった。
 A受審人は,約1箇月毎にブリーザのフィルタを洗浄する都度,付着物が増加するのを認めたが,同フィルタを洗浄しておれば問題は生じないものと思い,整備業者に相談するなどしてピストン抜き整備の措置をとらないまま,運転を続けた。
 こうして,白龍丸は,A受審人が1人で乗り組み,船首1.1メートル船尾1.9メートルの喫水をもって,同年8月21日17時00分長崎県太郎ヶ浦漁港を発し,19時30分ごろ同県生月島沖合の漁場において操業を開始し,主機を回転数毎分1,500にかけ,魚群探索に当たっていた網船に同行していたところ,主機のブリーザのフィルタが閉塞してクランクケース内圧が過上昇し,検油棒が鞘管から外れるとともに潤滑油が噴出し,オイルパンの油量が異常に減少して潤滑油ポンプの吸込み口から空気が吸い込まれ,潤滑油圧力が低下したが,同圧力低下警報が発せられず,主機の運転が続けられて潤滑が阻害され,翌22日03時00分大碆鼻灯台から真方位315度1,850メートルの地点で,主機が異音を発して自停した。
 当時,天候は晴で風力1の北東風が吹き,海上は穏やかであった。
 A受審人は,機関室に入り,主機の検油棒が外れて周辺に多量の潤滑油が飛散しているのを認め,潤滑油を補給して主機の再始動を試みたが,始動できず,僚船に連絡してえい航を依頼した。
 白龍丸は,太郎ヶ浦漁港に引きつけられ,主機が精査された結果,主軸受及びクランク軸受が異常摩耗してクランク軸と焼き付き,シリンダブロックの軸受取付面が過熱変形するなど損傷を生じており,のち損傷部がすべて新替えされた。

(本件発生に至る事由)
1 主機のピストン抜き整備が長期間行われていなかったこと
2 主機の警報装置の点検を行わなかったこと
3 主機のピストン抜き整備の措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,主機の運転中,潤滑油が検油棒鞘管から噴出し,同油圧力が低下した際に警報が発せられず,運転が続けられて潤滑が阻害されたもので,A受審人が,主機の警報装置の点検を行って潤滑油主管の圧力スイッチを整備しておれば,同圧力の低下に気付き,主機を停止して潤滑阻害による損傷を防止できたと認められる。
 したがって,A受審人が,主機の警報装置の点検を行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,ブリーザのフィルタを洗浄する都度,付着物が増加していることに気付いた際,業者に相談してピストン抜き整備を行っておれば,ブローバイガスのためにブリーザフィルタが短期間のうちに汚損して閉塞することはなくなり,主機の運転中に潤滑油が検油棒鞘管から噴出することを防止できたと認められる。
 したがって,A受審人が,主機のピストン抜き整備の措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 主機のピストン抜き整備が長期間行われていなかったことは,白龍丸として運航開始後わずか半年後にブリーザのフィルタが,頻繁な洗浄を要するほど付着物が増加した状況から考えて,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件発生と相当な因果関係はない。しかしながら,このことは,海難防止上の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件機関損傷は,主機の警報装置の点検及びピストン抜き整備の措置がいずれも不十分で,ピストンのブローバイガスでブリーザのフィルタが閉塞し,クランクケース内圧が過上昇して検油棒鞘管から潤滑油が噴出し,同油圧力が低下したまま主機の運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,機関全般の管理に当たる場合,主機に潤滑阻害が生じることのないよう,警報装置の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は,始動前などに警報ブザーが鳴っていたので問題ないものと思い,主機の警報装置の点検を十分に行わなかった職務上の過失により,潤滑油圧力が低下した際に同圧力低下警報が発せられず,運転が続けられて主機の潤滑が阻害される事態を招き,主軸受及びクランク軸受が異常摩耗してクランク軸と焼き付き,シリンダブロックの軸受取付面が過熱変形するなど損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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