海難審判庁採決録
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2006年度(平成18年度)
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機関損傷事件一覧
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事件
号
平成18年神審第37号
件名
水上オートバイレクサス エルエス400機関損傷事件(簡易)
事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成18年6月27日
審判庁区分
神戸地方海難審判庁(濱本 宏)
理事官
中井 勤
指定海難関係人
A 職名:レクサス エルエス400操縦者
B 職名:レクサス エルエス400所有者
損害
ピストン,シリンダライナの焼損及び排気管の溶融
原因
レクサス エルエス400・・・機関冷却水の排出状況確認不十分
操縦者・・・船舶職員及び小型船舶操縦者法(無資格)不遵守,機関冷却水の排出状況確認不十分
船舶所有者・・・船舶職員及び小型船舶操縦者法(無資格)不遵守,機関冷却水の排出状況の確認方法を指導しなかったこと
裁決主文
本件機関損傷は,機関冷却水の排出状況の確認が不十分で,湖面に浮遊する藻を吸い込んで取水口が閉塞したまま運転が続けられたことによって発生したものである。
操縦者が,無資格のまま操縦したことと,機関冷却水の排出状況の確認を行わなかったことは,本件発生の原因となる。
船舶所有者が,無資格者に操縦させたことと,機関冷却水の排出状況の確認方法を指導しなかったことは,本件発生の原因となる。
裁決理由の要旨
(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年8月31日15時30分
滋賀県草津市西方沖合
(北緯35度04.1分 東経135度54.4分)
2 船舶の要目
船種船名
水上オートバイレクサス エルエス400
登録長
2.32メートル
機関の種類
2サイクル2シリンダ・電気点火機関
出力
86キロワット
回転数
毎分6,500
3 事実の経過
レクサス エルエス400(以下「レクサス」という。)は,B指定海難関係人が遊走の目的で購入した,カナダ国C社が製造した5848GSX-LTD型と呼称する2人乗りのFRP製水上オートバイで,船体中央の操縦者用座席下に装備されている同社製のROTAX947型と呼称する電気点火機関(以下「機関」という。)により駆動されるウォータージェット用ポンプが水を船底後部の取水口から吸引・加圧し,船尾のノズルから噴射して推進力を得るもので,加圧された水の一部が,機関,排気管及び消音器などに冷却水として通水されたのち,後部座席後方の排水口から連続排出されるようになっており,平成17年8月第2回定期検査を受検していた。
また,レクサスのオペレータ・ガイド抜粋写には,運転中は前示冷却水が常時排出されているのが正常であり,適宜に目視で排出状況を確認することが必要であることや,運転中に冷却水の排出停止が生じたときには,異常であるから,直ちに機関を停止し,操縦ハンドルバーの機関始動及び停止ボタンを繰り返し短く押しながら船体を揺らして船底の取水口付近の異物を取り除くようにしたのち,改めて機関を始動するなどの措置をとるよう記載されていた。
ところで,B指定海難関係人は,同16年9月ごろからA指定海難関係人が琵琶湖でのレクサスの遊走に同行するようになり,同人に機関の始動・停止,増減速及び旋回など簡単な操縦方法だけを教えていた。その後,同人が遊走を希望した際,B指定海難関係人は,A指定海難関係人が無資格者であることを承知していたが,これを断らず,同人が救命胴衣を着用しており,平日で人出が少なく,同人が速力をさほど上げることがないことを知っていたので大丈夫と思い,機関冷却水の排出状況の確認方法を指導しないまま,レクサスを繰り返し使用させていた。
A指定海難関係人は,レクサスに単独で乗り組み,遊走の目的で,同17年8月31日14時40分滋賀県大津市柳ヶ崎を発し,時速約25キロメートルの対地速力で琵琶湖を北上し,琵琶湖大橋付近に至ったのち,反転して同速力で発航地に向け南下していた際,いつしか湖面に浮遊していた藻を吸い込んで取水口が閉塞し,機関が過熱する状況となったが,機関冷却水の排出状況の確認を行わなかったので,このことに気付かず,遊走を続けていた。
こうして,レクサスは,機関の過熱が進行するまま続航していたところ,15時30分滋賀県三石岳三角点から真方位104度3.67海里の地点において,ピストンとシリンダライナとの摺動部の潤滑が阻害されて機関が停止し,始動不能となった。
当時,天候は曇で風はほとんどなく,湖面は穏やかであった。
その結果,レクサスは,排気管に冷却水が通水されなくなり,同管に使用されていたゴム及びプラスチック部分が溶融して4箇所に穴が開き,同穴から湖水が機関室内に浸入し始め,やがて浮力を失い始めたので,A指定海難関係人は,警察署と携帯電話で連絡を取ったのち,レクサスを離れ,自力で岸に泳ぎ着いた。その後,レクサスは引き上げられ,B指定海難関係人により精査され,前示損傷のほか,ピストン,シリンダライナ等の焼損が判明し,のち損傷部品が取替えられた。
(海難の原因)
本件機関損傷は,琵琶湖において遊走中,機関冷却水の排出状況の確認が不十分で,湖面に浮遊する藻を吸い込んで取水口が閉塞し,機関の過熱が進行する状況のまま運転が続けられた
ことによって発生したものである。
操縦者が,無資格のまま操縦したことと,機関冷却水の排出状況の確認を行わなかったことは,本件発生の原因となる。
船舶所有者が,無資格者に操縦させたことと,機関冷却水の排出状況の確認方法を指導しなかったことは,本件発生の原因となる。
(指定海難関係人の所為)
A指定海難関係人が,無資格のまま操縦したことは,本件発生の原因となる。
A指定海難関係人に対しては,本件後,十分に反省し,無資格では操縦しないことにしている点に徴し,勧告しない。
B指定海難関係人が,無資格者に操縦させたことは,本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては,本件後,十分に反省し,無資格者には操縦させないようにしている点に徴し,勧告しない。