日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  機関損傷事件一覧 >  事件





平成17年横審第106号
件名

漁船第八豊國丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成18年6月22日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(大山繁樹,古川隆一,村松雅史)

理事官
西田克史

受審人
A 職名:第八豊國丸機関長 海技免許:三級海技士(機関)(機関限定)

損害
主機シリンダヘッド触火面等に打痕,過給機タービン翼に欠損

原因
主機燃料噴射弁孔からの異物落下防止措置不十分,パッキン抽出工具の有無の確認不十分

主文

 本件機関損傷は,主機燃料噴射弁孔からの異物の落下防止措置が不十分であったこと,及びパッキン抽出工具の有無の確認が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年4月23日07時50分
 静岡県焼津港内
 (北緯34度51.9分 東経138度19.6分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第八豊國丸
総トン数 449トン
登録長 53.35メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット
回転数 毎分360
(2)設備及び性能等
 第八豊國丸(以下「豊國丸」という。)は,平成7年1月に進水した,かつお一本つり漁業に従事する鋼製漁船で,主な操業海域を本邦東方及び南方沖合とし,1航海1箇月半ないし2箇月の周年操業に従事していた。
 主機は,B社が平成6年12月に製造したE28KFD型と呼称するディーゼル機関で,シリンダ径が280ミリメートル(以下「ミリ」という。),ピストンのストロークが480ミリ,トップクリアランスが15ミリで,ピストン頂面が凹形をしており,シリンダヘッドには,燃料噴射弁,吸気弁,排気弁,始動弁及びインジケータ弁を各1個備え,各シリンダが船首側を1番として順番号で呼ばれていた。
 主機の燃料噴射弁は,シリンダヘッドの中央部に取り付けられ,燃料噴射弁孔との取付け部に外径36ミリ,内径29ミリ,厚さ2ミリの銅パッキンを装着しており,同弁を抜き出したとき,銅パッキンが同弁孔側に残るので,本船では,長さ500ミリ,径6ミリで一端がフック状になっているステンレス鋼製のパッキン抽出工具を2本作製し,これにより銅パッキンを抜き出していた。
 なお,主機クランク軸のターニングは,フライホイールにターニングバーを差し込んで行うようになっていた。

3 事実の経過
 豊國丸は,平成16年4月20日06時00分焼津港に入港し,焼津港沖北防波堤灯台から真方位244度660メートルの地点で,岸壁に係留して水揚げを行い,翌21日A受審人は,一等機関士とともに年に3回定期的に実施している主機燃料噴射弁の整備をすることとした。
 A受審人は,燃料噴射弁を専用のジャッキを使用して全数抜き出し,燃料噴射弁孔に残った銅パッキンをパッキン抽出工具で抜き出したが,異物が同弁孔からシリンダ内へ落下することはあるまいと思い,シリンダヘッドに取り外していたシリンダヘッドカバーを被せるなど同弁孔からの異物の落下防止措置を十分にとることなく,機関室上段の左舷後部において燃料噴射弁の噴射テストなどをしていたところ,パッキン抽出工具1本が,3番シリンダのロッカーアームに立てかけていたものか,何らかの理由で同シリンダの同弁孔からシリンダ内に落下した。
 A受審人は,燃料噴射弁の整備を終えて順次復旧していったが,3番シリンダにおいては,ピストン位置が下死点付近になっていたため,落下していたパッキン抽出工具全体が,シリンダ内に入り込んで燃料噴射弁孔から見えなくなっており,また,燃料噴射弁の復旧作業終了後,パッキン抽出工具の有無を十分に確認しなかったので,同工具が1本足りないことに気付かなかった。
 同月23日早朝A受審人は,出漁のため豊國丸に乗船し,主機の始動準備のため07時50分,前示係留地点において,主機クランク軸をターニングしないままエアランニングしたところ,3番シリンダ内のパッキン抽出工具がピストンに挟撃されて折損し,シリンダヘッド触火面等に打痕を生じた。
 当時,天候は晴で風力4の西北西風が吹き,港内の海上は平穏であった。
 豊國丸は,A受審人ほか25人が乗り組み,本州東方沖合漁場における操業の目的で,船首2.7メートル船尾5.2メートルの喫水をもって,主機を5分ばかり暖機運転したのち,08時00分焼津港を発し,主機を回転数毎分250にかけて2.5ノットの対地速力で港内を航行中,08時05分機関室で出港配置中の福世受審人が,3番シリンダ付近からの異音に気付いて状況を船橋に報告したものの,港内であったことからそのまま航行を続け,08時30分港外に出たのち主機を停止し,同シリンダの燃料噴射弁を抜き出して点検後,主機を運転したところ,過給機からの異音を認めて運転不能と判断した。
 豊國丸は,救助を要請し,来援した引船に曳航されて焼津港に引き付けられ,機関整備業者が主機及び過給機を開放点検した結果,前示損傷のほかパッキン抽出工具の折損片による過給機タービン翼の欠損が判明し,のちシリンダヘッドを予備品と交換し,過給機ロータ軸を完備品と新替えした。

(本件発生に至る事由)
1 パッキン抽出工具の長さが,シリンダヘッド触火面とピストン下死点付近におけるピストン頂面位置との距離より短かったこと
2 3番シリンダのピストン位置が下死点付近になっていたこと
3 燃料噴射弁孔からの異物の落下防止措置をとらなかったこと
4 パッキン抽出工具が燃料噴射弁孔からシリンダ内へ落下したこと
5 パッキン抽出工具の有無を確認しなかったこと
6 主機クランク軸のターニングをしなかったこと

(原因の考察)
 本件は,燃料噴射弁孔からシリンダ内への異物の落下防止措置をとっていたなら,パッキン抽出工具が同弁孔から落下することもなく,また,同工具の有無を確認していたなら,シリンダ内の同工具に気付いて取り除くことができ,発生を回避できたものと認める。
 したがって,燃料噴射弁孔からの異物の落下防止措置を十分にとらなかったこと,及びパッキン抽出工具の有無の確認を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 パッキン抽出工具の長さが,シリンダヘッド触火面とピストン下死点付近におけるピストン頂面位置との距離より短かったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,同抽出工具は,同距離より長いものに変更すべきである。
 パッキン抽出工具が燃料噴射弁孔からシリンダ内へ落下したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,同抽出工具の使用を一時中断するときは,同弁孔から十分離しておくべきである。
 主機クランク軸のターニングをしなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 3番シリンダのピストン位置が下死点付近になっていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件機関損傷は,主機燃料噴射弁を整備作業のため抜き出した際,燃料噴射弁孔からの異物の落下防止措置が不十分であったこと,及び同作業終了後,パッキン抽出工具の有無の確認が不十分であったことにより,主機をエアランニングしたとき,同弁孔からシリンダ内に落下していた同工具がピストンに挟撃されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,主機燃料噴射弁を整備作業のため抜き出した場合,燃料噴射弁孔からシリンダ内へ異物が落下することのないよう,シリンダヘッドに取り外していたシリンダヘッドカバーを被せるなど,同弁孔からの異物の落下防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,異物が同弁孔からシリンダ内へ落下することはあるまいと思い,同弁孔からの異物の落下防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,主機をエアランニングしたとき,同弁孔から落下していたパッキン抽出工具をピストンで挟撃して折損する事態を招き,シリンダヘッド触火面等に打痕,過給機タービン翼に欠損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION