(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年12月11日06時15分
宮城県仙台塩釜港
(北緯38度18.8分 東経141度06.7分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二十八清豊丸 |
総トン数 |
19.51トン |
登録長 |
14.95メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
161キロワット |
3 事実の経過
第二十八清豊丸(以下「清豊丸」という。)は,昭和51年6月に進水した,まぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で,主機としてB社が同60年8月に製造した6NSAK-M型と称する,連続定格出力161キロワット同回転数毎分1,700(以下,回転数は毎分のものとする。)の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関を備え,計器盤及び警報装置を備えた操舵室から遠隔操作されるようになっていた。
主機の潤滑油系統は,油受内の潤滑油が直結ポンプに吸引加圧され,冷却器,紙製エレメント連立式こし器(以下「こし器」という。),入口主管を経て主軸受,クランクピン軸受,過給機軸受,ピストン冷却ノズル,弁腕装置などに供給されるもので,同主管部の同油圧力が5ないし6キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。),同圧力低下警報の作動値が1.5キロで,同油の総量が約55リットルであった。
なお,製造時の工場試運転においては,50パーセント(%)負荷(1,350回転)で5.2キロ,75%負荷(1,545回転)で5.5キロ,100%負荷(1,700回転)で5.6キロであった。
A受審人は,同61年ごろから清豊丸に船長として乗船して,周年太平洋海域におけるまぐろはえ縄漁に従事し,平成16年2月六級海技士(機関)免許を取得のうえ,同月下旬から機関長として乗り組んで機関の運転保守に当たり,他の船長を雇い入れて操業を行っていた。
ところで,清豊丸は,同14年6月那覇市において,中間検査で主機の整備を行ったが,経年によりピストンリング等が摩耗するにつれ,次第に燃焼ガスのクランク室への吹抜けが多くなり,潤滑油の汚損が早く進行するようになっていた。
A受審人は,同16年7月から宮城県仙台塩釜港を水揚地とし,片道約3日の漁場において,出港から入港まで平均15日の操業を行い,主機の航行中の回転数を1,400ないし1,500とし,約2箇月ごとに潤滑油及びこし器エレメントを取り替えていたところ,いつしかそれらの取替え前になるとこし器が目詰まりし,同油圧力が4.5キロくらいまで低下するようになるのを認めた。
このため,A受審人は,那覇市の修理業者と相談のうえ,古い機関でもあるところから,1箇月ごとに潤滑油及びこし器エレメントを取り替えることとし,その後同油圧力が改善されていたところ,同年10月11日それらを取り替え,その後2航海して翌11月18日仙台塩釜港に入港したが,もう1航海取り替えなくとも大丈夫と思い,同油の性状管理を十分に行うことなく,早期にそれらを取り替えなかった。
清豊丸は,A受審人ほか5人が乗り組み,操業の目的で,船首1.3メートル船尾1.4メートルの喫水をもって,11月21日10時20分仙台塩釜港を発し,24日早朝三陸沖の漁場に至って操業を行い,翌12月8日22時10分操業を終え,主機の回転数を1,500とし,9.5ノットの速力で帰航の途に就いた。
いつしか,清豊丸は,潤滑油の汚損によりこし器エレメントが目詰まりし,同油圧力が次第に低下するようになったが,これに気付かれず,主軸受及びクランクピン軸受等の潤滑が阻害されてメタルの摩耗が進行し,更なる同圧力の低下により,ピストンの冷却が阻害されるようになった。
清豊丸は,同月11日朝仙台塩釜港に入港して塩釜区の航路内を西行中,主軸受及びクランクピン軸受等や各シリンダのピストンが焼損し,06時15分塩釜花淵浜防波堤灯台から真方位076度1.4海里の地点において,潤滑油圧力低下警報が作動するとともに主機が自停した。
当時,天候は晴で風力6の北北西風が吹き,海上は波が高かった。船長とともに操舵室にいた,A受審人は,直ちに機関室に赴き,油受の潤滑油量に異常がないことを確認した。
主機の停止後,清豊丸は,操船が不能となって折からの強風により圧流され,投錨するも効果がないまま,付近の海苔養殖施設に乗り入れたが,来援した他船に引き出された。
この結果,清豊丸は,クランク軸,シリンダブロック,過給機ロータ軸,全シリンダのピストン及びシリンダライナ等が損傷したが,のち修理期間の関係で中古機関に換装された。
(海難の原因)
本件機関損傷は,整備後の経年により潤滑油の汚損が早く進行している状況下,機関の運転保守に当たる際,潤滑油の性状管理が不十分で,こし器の目詰まりにより同油圧力が低下し,主軸受及びクランクピン軸受等の潤滑とピストンの冷却が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,整備後の経年により潤滑油の汚損が早く進行している状況下,機関の運転保守に当たる場合,こし器の目詰まり等により各軸受の潤滑やピストンの冷却が阻害されることのないよう,早期に同油やこし器エレメントを取り替えるなど,同油の性状管理を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,もう1航海潤滑油及びこし器エレメントを取り替えなくとも大丈夫と思い,早期にそれらを取り替えるなど,同油の性状管理を十分に行わなかった職務上の過失により,こし器の目詰まりにより同油圧力が低下し,主軸受及びクランクピン軸受等の潤滑とピストンの冷却が阻害されて焼損を招き,クランク軸,シリンダブロック,過給機ロータ軸,全シリンダのピストン及びシリンダライナ等を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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